「事実は、何物より重い…。」ワールド・トレード・センター mori2さんの映画レビュー(感想・評価)
事実は、何物より重い…。
“NY同時多発テロ”から5年。あの惨劇の裏側で繰り広げられた人間ドラマを描いた本作。監督はあのオリバー・ストーン!一体どんな作品に仕上がっているのでしょうか?
『オリバー・ストーンが、“9.11”の映画を撮る』というニュースを聞いたとき、正直『大丈夫かあ?』という思いが真っ先によぎった。何せ前作「アレキサンダー」は、“血まみれ歴史絵巻”だったし、「ナチュラル・ボーン・キラーズ」に「エニイ・ギブン・サンデー」を撮った監督サンですよ。あの過激なノリで、“NY同時多発テロ”を描かれたらアメリカで猛反発喰らうだろうし、かと言って「JFK」や「ニクソン」のような感じで迫られても、まだ5年しか経過していない事件に対しては生々しすぎるからな~と、果たしてどんな映画に仕上がるのだろうか、かなり気になっておりました。
で、結論から申し上げますとオリバー・ストーン作品にしては珍しく、非常に主義主張を抑えた静かな作品に仕上がっています。『テロが何故起こったのか?』とか『あれは、本当にテロだったのか?』とかいうようなこれまでなら、必ず飛びついていそうなテーマには一切触れずに、ビルの崩落に巻き込まれた警官の様子と、その家族の思いを中心に淡々と撮りあげています。ですから逆に「JFK」のようないかにも“オリバー・ストーンの映画”と言ったノリを期待して観に行くと、肩透かしを喰らいます(現にあちこちのサイトなどで、『期待ハズレだった』という声を目にします)。確かに主人公が結構アッサリ瓦礫の下敷きになってしまいますし、救出されるまでそのまま動けないシーンが延々と展開されますから、映画として非常に地味でございます。極端な言い方をすれば『別に貿易センタービルの崩落でなく、大地震の映画でもよかったんじゃないか?』とも思えてしまう感じなのです。しかし、これはこれでよかったのではないでしょうか?この映画は、あの現場から実際に生還した人達の実話(無論、多少なりとも脚色はされているでしょうが)を基にしています。そして、あの狂気の現場で如何に多くの“人間による善”が行なわれたかを描き出しています。オリバー・ストーン監督は、どこまでも“人間”という生き物の持つ“善い”可能性を信じて、それを映画の主題に据えたのではないでしょうか。
瓦礫に埋もれ、行方不明となった主人公。そしてその安否を気遣う家族たちの描き方も、非常に胸に迫るものがありました。ただ、これをあの事件の遺族が見たら、やはり複雑な思いを抱くでしょうね。そういう意味で、アメリカ本国では思ったほど興行成績が伸びなかったのではないでしょうか?まだ、リアルすぎるのかも知れません。