劇場公開日 2006年10月7日

ワールド・トレード・センター : インタビュー

2006年9月29日更新

9・11米同時多発テロで、惨劇の舞台となってしまったニューヨークのワールド・トレード・センター。現場の救助活動中にビルの崩壊に巻き込まれながらも、奇跡の生還を果たした2人の警察官の物語を、社会派オリバー・ストーン監督が映画化した「ワールド・トレード・センター」。主人公のひとりとして描かれるウィル・ヒメノ氏が来日し、事件の当事者として、主人公のモデルになった人物として、映画について語った。(聞き手:編集部)

ウィル・ヒメノ氏インタビュー
「あの日、命を落とした方々に敬意と誇りを感じてもらいたいですね」

テロ現場で決死の救助活動を行う 警察官たちを描く
テロ現場で決死の救助活動を行う 警察官たちを描く

――9・11事件のあと、沸き上がってくる怒りがあったと思いますが。

「3年かかりましたが、セラピーや家族の支えのお陰で、今はやっと怒りを感じなくなるようになったところです。ただ、怒りが消えたわけではありません。私もPTSD(心的外傷後ストレス障害)を経験し、つらい思いもしましたが、例えばポリスアカデミーで自分の経験を若い人に話し、そこから何かを学んでもらおうといった、ポジティブなものに変える経験を通し、今は怒りをコントロールし、仲良く付き合えるようになったという言い方が正しいかもしれません」

――マイケル・ムーア監督の「華氏911」のように、ブッシュ政権に怒りをぶつけた映画もありますが、どのようにご覧になりましたか?

「あの映画は観ませんでした。観るつもりもありませんでしたし、とてもネガティブな映画で、観るだけ時間の無駄だと思ったので」

ウィル・ヒメノ氏
ウィル・ヒメノ氏

――本作のオリバー・ストーン監督も、「プラトーン」「JFK」などで左翼的な映画作家として知られていますが、彼がこの映画を撮ると決まったときはどう思いましたか?

「とても嬉しかったです。なぜなら、オリバー・ストーンならこのストーリーを正しく伝えてくれると思ったからです。彼は自分のエゴを投げ捨て、私たちの物語を忠実に伝えてくれました。オリバーはベトナム戦争の帰還兵で、戦場というのものを目の当たりにしていますから、彼ならどういったものが犠牲になったか、殉職していった方たちにどのように敬意を払うべきかを、よく分かってくれると思いました。この映画はとてもポジティブなものを伝えていて、マイケル・ムーアのネガティブな映画とは違います。なぜ、お金と時間を費やし、腹を立てないといけないのでしょうか? それよりも、私はこの映画のように希望を感じられる作品を観たいと思います」

――記者会見では、95%が真実で5%が脚色ということをおっしゃっていましたが、その脚色の5%というのは、例えばどういったところでしょうか?

ヒメノ氏を演じたマイケル・ペーニャ
ヒメノ氏を演じたマイケル・ペーニャ

「例えば、あの暗闇の中で僕がジーザスの姿を見たときに、横にいた巡査部長に『今、僕はジーザスを見ました』とは言わずに、実際は『この地獄から早く抜け出しましょう』と話しました。思っていることは同じですが、人間は実際に思っていることや考えていることを、なかなか言葉にできませんよね。ですが、映画では、そういったことを台詞で表現する必要が出てきますから、そういった脚色ですね。劇中で、僕らがバスでワールド・トレード・センター(WTC)に向かうときに、僕を演じたマイケル・ペーニャは『これは凄い日になるぞ』と、実際は言っていない台詞を言いますが、そういった台詞によって、観客は緊迫感を感じることになると思いますし、マクローリー巡査部長が93年のWTC爆破事件を担当したということも、台詞になければ観客にはわからないことです。こういったことが、5%の脚色ということなんです」

――この映画を観て、観客に何を感じて欲しいですか?

「あの日、命を落とした方々に敬意と誇りを感じてもらいたいですね。日本の文化は、誇りを大切にする文化ですから、理解していただけると思います。そのほか、信じる気持ち、希望、そして愛というものを感じとっていただきたいですね。細かいことですが、例を挙げると、子供たちのためにより多くの時間を割いて一緒に過ごすとか、日々の生活を大切にするとか、お年寄りのためにドアを開けてあげる、荷物を持ってあげるとか。そうしたことが、あの日、人々を助けようとして怪我をした方々、亡くなった方々の“善の気持ち”に敬意を払えることができると思います」

愛や希望を忘れずに日々を生きることが大切
愛や希望を忘れずに日々を生きることが大切

――警察官を退官したそうですが、これからは何をされますか?

「今はリハビリを続けながら、より良い父親、より良い夫になろうと頑張ってます。ポリスアカデミーで若い警察官たちに話すことなどが、警察官の仕事と同じくらい充実感を与えてくれるようになったら、そういった方面の活動をよりやっていきたいと思ってます。ですが、今のところ警察官のときほどの充実感を得ることはできません。ですから、しばらくはゆっくりして、よりよい人間になることに努めたいと思います」

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