劇場公開日 2005年1月29日

Ray レイ : 特集

2005年1月21日更新

About Ray Charles~偉大なるミュージシャン  赤尾美香

■母と交わした約束

常に信念を忘れなかったレイ
常に信念を忘れなかったレイ

監督であるテイラー・ハックフォードは、自らが熱心な音楽ファンであり、過去に「チャック・ベリー/ヘイル・ヘイル・ロックンロール」や、ロックンロール黎明期のスター、リッチー・バレンスを主人公にした「ラ・バンバ」などに関わってきた人物。レイのいちファンでもあったハックフォードは、彼が歩んで来た人生を知るにつけ映画化を熱望するようになり、その許可を得るために15年前、初めてレイに会ったという。そして共に映画化に向けて邁進してきた。ハックフォードは言う。

「人生で直面した途方もない障害を克服してきたことで培った、自立した人間でなければ醸し出すことのできない自信が、レイからは滲み出ていた。彼ほど、自分の本能を信じて行動する人物を、私は他に知らない」(サウンドトラックに寄せたライナーノーツより)

時に無様で不器用な姿をさらけ出すことがあっても、母と交わした「決して他人から施しを受けることのないように」という約束を忘れることのなかったレイの人生から希望、信念、プライドが消えることは決してなかった。そんな強さもまた、レイ・チャールズをスペシャルな存在にしていることは言うまでもない。

■名曲の数だけ美女がいる?レイもやっぱり女好き

「Ray/レイ」の中にそういうシーンはあったけれど、レイ・チャールズが、本当に手首に触れただけで美人を見分けたかどうかは分からない。が、彼が盲目であることをコンプレックスやハンデに感じることなく音楽に向き合っていたのと同様に、女性にも向き合っていたのは事実であり、そうした恋愛の数々がいわば<芸の肥やし>であったことも認めざるを得ない。

レイに限らず、音楽業界にはあまたの「恋多き男」が存在する。名曲と呼ばれる多くがラブ・ソングであるのは、作り手にとっても聴き手にとっても、人生において恋愛(の喜び、あるいは哀しみ)が占める比重が高いことを証明していて、人々が「恋多き男」の音楽にリアリティを求め、一緒に一喜一憂するのも当然ではあるのだけど……。

レイとの関係がバンドの女性メンバーに確執も生むが…
レイとの関係がバンドの女性メンバーに確執も生むが…

70歳を過ぎてなお「興味があるのは、車と女だ」と言い放ったブルースの大御所、故ジョン・リー・フッカーは正確な子供の数が分からないというし、マイケル・ジャクソン作品や「USA・フォー・アフリカ」などで知られる敏腕プロデューサーにしてミュージシャンのクインシー・ジョーンズは4度の結婚経験者(結婚はしなかったが、女優ナスターシャ・キンスキーとの間にも娘をもうけた)。結婚の回数だけで言えば、ビリー・ボブ・ソーントン(俳優としての方が有名だがミュージシャンとして2枚のCDも発表)の5回はクインシーを上回る。

ブロンドがお好きなスーパースターことロッド・スチュワートは、22歳年下の2人目の妻レイチェル・ハンターと別れた後、26歳下のガールフレンドをゲットし、ポール・サイモン(サイモン&ガーファンクル)は2人目の妻キャリー・フィッシャー(映画「スター・ウォーズ」シリーズのレイア姫)と別れた後、26歳下のミュージシャン、エディ・ブリケルと結婚して今も幸せに暮らしている。中年以上のオヤジ・スター達は、自分の年齢を棚に上げて若い娘さんを選びがち。エリック・クラプトンの2人目の妻も31歳年下だし、昨年秋に3度目の結婚をしたビリー・ジョエルのお相手は、なんと33歳年下だ。そうなると、エルビス・コステロと彼の3人目の妻である現代ジャズ界の歌姫ダイアナ・クラールの10歳差なんてまだまだかわいいものだと思うが、コステロの場合、かつて妻子ある身でありながら、伝説のグルーピーと呼ばれるベベ・ブエル(リブ・タイラーの母)と数カ月生活を共にしていた前科があるだけに油断は禁物!? もちろん「恋多き男」の条件を、結婚回数や子供の数だけに置くことは不可能で、そうなると、色恋沙汰には事欠かないストーンズのミックやキース、女好きで有名だったジミ・ヘンドリックスや結婚こそ2回だけど女性遍歴を重ねたボブ・ディランなどなど、枚挙に暇がない。

レイが恋に落ち、結婚したビー(左)
レイが恋に落ち、結婚したビー(左)

女性の立場から言わせてもらえば、それが<芸の肥やし>であろうと何であろうと、愛する男性のとどまる所を知らない恋愛欲を受け入れるのは容易なことではない。「Ray/レイ」における妻ビーは、まさにその苦悩を背負っていた。けれど、彼女は聡明で寛大な妻であると同時に、ミュージシャン=レイの理解者であろうと努力した。そしてレイは、単なる「恋多き男」ではなく、ビーのような賢女を選ぶ臭覚なり本能なり、とにかくそういうものも持ち合わせていたというわけだ。これもまたレイの凄さ、である。

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