劇場公開日 2005年1月29日

Ray レイ : 映画評論・批評

2005年1月17日更新

2005年1月29日よりみゆき座、シネマライズほかにてロードショー

現代アメリカが心の底から欲している物語

萎縮しきった現在のアメリカには、オリジナルな物語が枯渇し、海外の新奇な素材をむさぼる一方で、アメリカらしさの復権を求めるかのように、状況を打破した偉人の実話の映画化に熱心だ。映画表現のパイオニアにして飛行機王ハワード・ヒューズの半生記「アビエイター」が、失われた創造への狂気を描く物語であるならば、ソウルの帝王レイ・チャールズの波乱万丈の人生「Ray/レイ」とは、アメリカにとって何を意味するのだろう。

教会音楽とリズム&ブルースを融合させ、「魂」を弾き語るジャンルを確立したパイオニアは、幼くして失明していた。そんな彼を決して甘やかさなかった母。トラウマとなった弟の溺死。音楽界で成功し、幸福な家庭を築きながらも、新しいものを生み出せねばならない焦燥感から、ヘロインと女に溺れて破滅していくレイの脳裏に、事あるごとに原風景がフラッシュバックで甦る。聖書で「盲目」とは、教会の中にいながらも真理に目覚めていない者を指す象徴的な言葉である。宗教と強固な結びつきがありながらも、アメリカはいま盲目的な状態にあるのではないだろうか。どん底にあったレイを立ち直らせたのは、母の記憶であり、黒人としてのアイデンティティの確認だった。盲目のレイが人生の暗闇を抜け出して再び栄光を勝ち得たような物語を、アメリカは心の底から欲しているに違いない。

清水節

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