リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界

劇場公開日:2025年5月9日

解説・あらすじ

ケイト・ウィンスレットが主演・製作を務め、トップモデルから20世紀を代表する報道写真家へと転身した実在の女性リー・ミラーの数奇な人生を映画化した作品。

1938年、南フランスでアーティスト仲間たちと休暇を過ごしていたリー・ミラーは、芸術家ローランド・ペンローズと出会い恋に落ちる。ほどなくして第2次世界大戦の脅威が迫り、日常のすべてが一変。写真家の仕事を得たリーは、アメリカ「LIFE」誌のフォトジャーナリスト兼編集者デイヴィッド・シャーマンとチームを組む。1945年、リーは従軍記者兼写真家として次々とスクープをつかみ、ヒトラーが自死した当日、ミュンヘンにあるヒトラーのアパートの浴室で自らのポートレイトを撮影して戦争の終わりを伝える。それらの光景はリー自身の心に深く焼きつき、戦後も長きにわたり彼女を苦しめることになる。

リー・ミラーを演じたケイト・ウィンスレットはゴールデングローブ賞の最優秀主演女優賞(ドラマ部門)にノミネートされた。リーの友人ソランジュ・ダヤン役でマリオン・コティヤール、恋人ローランド・ペンローズ役でアレクサンダー・スカルスガルド、編集者デイヴィッド・シャーマン役でアンディ・サムバーグが共演。「エターナル・サンシャイン」などの撮影監督エレン・クラスが長編映画初監督を務めた。

2023年製作/116分/G/イギリス
原題または英題:Lee
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
劇場公開日:2025年5月9日

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第82回 ゴールデングローブ賞(2025年)

ノミネート

最優秀主演女優賞(ドラマ) ケイト・ウィンスレット
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映画レビュー

4.5リリーの瞳から見る世界の残酷さ

2025年5月11日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

見えない傷をつけられた彼女、彼らはこれからどうやって前に進んでいけばいいのか。

サブタイトルの通り、リーを通して見た世界から、人間の残酷さや非道さが否応なく突きつけられた。彼女が気付き、写しだす世界の多くは搾取され傷つけられた弱者たち。特に女性や子供が多いのが印象的だった。

最初は彼女の行動を見て、なんて正義感溢れる強い女性なんだろうと思ったけれど、見ていくうちに、ただの正義感や使命感での行動ではないんだろうなと感じられた。きっと彼女自身も搾取されてきた側で、前に進みたかったんだと気づいた。

よく実在の人物を描いた作品だと、生まれから晩年まで描いている作品が多いけれど、この作品では意図してリーのモデル時代や、戦後は描かず、彼女が従軍記者兼写真家をしていた次期のみに焦点を当てて描かれている。個人的には焦点を絞ったからこそ、彼女が伝えたかった想いを感じ取りやすく、始終心打たれた。

ひとつネガティブな意見を言うとしたら、レビューでもちらほら見かけたが、リーを演じたケイト・ウェンスレットの体型について。
確かに実在のリーを見たらもう少し細身だし、従軍記者にはリアリティに欠ける体型に思えた。華やかなモデル時代と切り離して見てもらえるように、という意図とかがあったのかもしれないけれど、もう少し絞った方が作品のノイズにならなかったように思う。
ただ、魂がこもったケイト・ウェンスレットの演技は本当に素晴らしかった!!!!まさに熱演だった。

個人的には大満足な作品で、ホロコースト・戦争映画として見応えがあったし、女性としての生き方としても考えさせられた。
多くの方にオススメしたい作品。

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AZU

3.5彼女の行動原理

2025年5月10日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館
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ニコ

3.5WWII through the Lens of a Fashion Photographer

2025年5月20日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

The film Lee presents Lee Miller as a woman ahead of the curve. The city slicker Vogue photographer was one of the first women in Western society to walk into the battlefield in uniform. She faces resistance from fellow soldiers but also some unanticipated support. I wasn't aware of her famous photo in Hitler's bathtub on the day of his downfall, but is an interesting story. A historically accurate pairing to last year's war photographer doc, Civil War.

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Dan Knighton

4.0ウィンスレットだから描けたこと、描けなかったこと

2025年5月15日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

知的

驚く

本作を観ながら、共通点のある比較的最近の伝記(的)映画を2本思い浮かべていた。1本目は、浅野忠信主演で写真家・深瀬昌久の生涯を描いた「レイブンズ」。写真が人物や出来事などの一瞬を切り取って提示する作品形式だからこそ、作品から切り離された前後の文脈を補ってストーリーを構成する伝記映画と写真家の人生は相性がよいと改めて感じる。

もう1本はティモシー・シャラメが若き日のボブ・ディランに扮した「名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN」。長年にわたり活躍した才人の人生を要約して丸ごと見せるのではなく、(作り手にとって)最も重要と思われる一時代に焦点を絞って映画のストーリーを構成した点が共通する。

「リー・ミラー――ファッションモデル、写真家、従軍記者、雑誌記者、クラシックミュージック愛好家、一流料理家、旅行家。さまざまな世界を常に自由に生きた女。さまざまな顔を持ちながら常に自分自身であり続けた女」。リーの息子アントニー・ペンローズが著した伝記「リー・ミラー 自分を愛したヴィーナス」(松本淳訳・パルコ刊)の冒頭でそう紹介されている。リーが撮影した写真、そしてリー自身をとらえた写真を多数含むこの伝記本を原作としつつも、映画「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」が描くのは、1937年にリー(当時30歳頃)がフランスでローランド・ペンローズと出会ってからの約10年間。2人で移住したイギリスでヴォーグ英国版の写真家兼記者となり、第二次世界大戦が始まるとドイツ軍空襲下の英国人を撮影、さらに1941年の米国参戦後は米軍の従軍ジャーナリストとして欧州戦線を取材して終戦を迎えるまでの年月にほぼ絞られている。

この時代設定は、ケイト・ウィンスレットがプロデューサーとして本作の成立に大きな役割を担ったことも関係していると思われる。過去にもリー・ミラーの人生を映画化する企画は、息子で伝記著者でもあるアントニーに何度か持ち込まれたが、いずれも合意に至らず流れていたという。だがウィンスレット主演作の「エターナル・サンシャイン」で撮影監督を務めたエレン・クラスがウィンスレットに企画を提案し、ウィンスレットが製作兼主演、クラスが監督の座組でアントニー側に交渉した結果了承され、リーが遺した資料すべてにアクセスすることを許可されるほどの信頼を得た。ウィンスレットの知名度に加え、彼女が「タイタニック」や「愛を読むひと」など歴史大作で演じてきた女性像の印象もプラスに働いたろう。

そしてもう1つ重要なのが、リー・ミラーの容姿、特に後半生の外見が近年のウィンスレットにかなり似ていること。映画のキービジュアルでも使われている、ヒトラーのアパートの浴室で自身を同僚に撮影させた代表的な1枚などは、驚くほどの再現度だ。リーがファッションモデルから写真家にキャリアを移していった20代の頃は、残っている写真を見ると比較的痩身で顔もよりシャープな印象だが、30代以降は加齢のせいもあってか肉付きがよくなったように見える。

その点もおそらくは、ウィンスレットら製作チームがリーの30代以降をメインにした大きな理由の1つだったはずだ。もしも19歳でモデルとしてキャリアをスタートさせ22歳のときにアート写真家マン・レイの弟子兼恋人になり写真術を身につけていった時期も映画に含めるとしたら、撮影時46歳のウィンスレットが自ら演じるのは無理があっただろう。また、2時間程度の本編で若い時期まで描くなら、波乱万丈の数十年を駆け足で紹介するだけで深みに欠ける映画になりかねない。そうしたもろもろの判断から、従軍ジャーナリストとしての活躍をメインとする30代の約10年間を描くことに決めたのだと思われる。

カメラマンに限らずさまざまな職業で男女格差、女性差別が根強い時代、自らの才能とバイタリティで活路を見出し、男性ジャーナリストにも引けを取らない勇気と機動力で前線に赴きスクープを連発したリー。彼女の生き様を描くことは、今の時代にも女性をエンパワーするという点で、大いに意義と価値が認められる。また、「シビル・ウォー アメリカ最後の日」(2024年10月日本公開)でキルステン・ダンストが演じた戦場カメラマンのモデルとなった人物として紹介されることも多いリー・ミラーだが、この「リー・ミラー」が2023年秋に北米の映画祭で上映、24年9月には英米を含む主要国で劇場公開されていたことを考え合わせると、「シビル・ウォー」が日本でも公開週1位の大ヒットを記録したことが「リー・ミラー」の日本公開を後押しした可能性がある(逆に「シビル・ウォー」が不入りだったら、「リー・ミラー」も配信スルーになっていたかも)。

だが一方で、ウィンスレットら製作陣の判断で割愛されたリーの若き日々も、できることなら映像で描いてほしかったというのも偽らざる本音だ。リーが幼少期に経験しトラウマとなった出来事は映画の後半で触れられているが、アマチュア写真家だった父親から10代の頃にヌードモデルとして撮影されるなど、持って生まれた美しさゆえに性的搾取や性的虐待にさらされる理不尽さも経験した。だが彼女は自らの美貌を呪うことなく逆に武器として使い、モデルになって自分の世界を広げ、さらには写真家になって見られる側から見る側へと立場を変える。マン・レイに師事し、その頃にピカソやマックス・エルンスト、ジャン・コクトーといった芸術家らとの交流を通じて、芸術とは何か、美しさとは何かについて考えを深め、自らの表現を確立すべく励んだ。そうして培ったアーティストとしてのセンスがあるからこそ、彼女の報道写真がドラマやストーリーを感じさせ、現代の私たちが見ても心を動かされるのだろう。つまりは若き日々もまた描かれるべき魅力的な要素に満ちた年月だったはずで、ウィンスレット主演作であるがゆえに描かれなかった時期のリーも、将来のいつか、配信ドラマでもドキュメンタリーでも映像化されるといいなと、望み薄と思いつつ気長に待つことにする。

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高森 郁哉

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