靴をなくした天使

劇場公開日:1993年4月

解説・あらすじ

マスコミが作り上げた虚像に振り回される人々の姿を描いた風刺コメディ。飛行機の墜落現場に遭遇したコソ泥のバーニー。彼は嫌々ながらも乗客たちを助け出し、そのままその場を立ち去った。その飛行機に偶然乗り合わせていた女性テレビリポーターのゲイルは、現場に残った靴を手がかりに、テレビで”謎のヒーロー”の公開捜査を開始。そしてある男性が名乗りを挙げるが……。主人公バーニーを、名優ダスティン・ホフマンが好演。ビデオ題は「ヒーロー 靴をなくした天使」。

1992年製作/117分/アメリカ
原題または英題:Hero
劇場公開日:1993年4月

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映画レビュー

3.0バーニーの強(した)かさといぶし銀のごときボランタリズム

2025年6月11日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

「世の中は弱肉強食のジャングルだから、他人に施しなんかするんじゃない」と息子には教えながら、航空機の墜落事故に遭遇すれば躊躇(ためら)うことなく救助活動に取り組み、ライオンの檻(おり)に子供が落ちれば、それも捨て置けない-。

要するに、生きること、あるいは世渡りすることに不器用なだけなのではないかと、評論子は思いました。
本作の主人公のバーニー・ラプラントは。

ふだんは定職に就くことも珍しく、加えて、自分の窃盗行為が裁かれている法廷でも、あろうことか自分の弁護人の財布にまで、ちゃっかり手を出したりして、その意味では「手癖」は、もともとあまり良くはないようなのですけれども。

しかし、偽ヒーローのババーと対峙するや、強(した)かにも息子の学費負担をネタに「難交渉」をまとめ上げるなど、機に臨めば「臨機応変」の対応も、なかなか堂に入ったもの。

そういうバーニーの「人となり」を余すところなく演じていたダスティン・ホフマンの演技は本作の中でも特筆ものですし、彼の演技あっての本作とも、評論子は思います。

充分な佳作としての評価が与えられて、然るべきと、評論子は思います。

<映画のことば>
あの晩、パパは靴が片方だけだったよね。

(追記)
本作は、「真のボランタリズム」と「人がもつ素晴らしさを浮き彫りにしながら感動の「話」を作り出す」というゲイルのセリフに象徴されるような、報道機関の虚像と対比的に描いたということが、いわば「売り」だったのかも知れません。

もしそうだったとすると、本作は、ヒーロー探しのドタバタを通じて、映画業界には不倶戴天のライバル関係(?)にあるテレビ業界への痛烈な皮肉となっているのでしょう。

「作り出された価値観」に従うのではなく、「飛行機が落ちたら助けに行く」「ライオンの檻に人が落ちたら助けに行く」という、自分の自然な価値観を大事にして生きるべきだという箴言をもし本作が含むものであれば、人が毎日の生活を送るための指針として、令和の今でも立派に通用すると、評論子は思います。

(追記)
<映画のことば>
俺も現場にいた。
機内に突入しなかったのは、俺たちがプロだからなんだ。
もちろん、危険な人命救助もするが、ムチャはしない。
例の男はバカで無謀なだけだ。
なのに、テレビでもてはやす。

こういうセリフを聞くと、プロとボランティアの「地平」の違いを、評論子は実感します。

確かに、ある意味では、レスキューは、隊員の全員が無事に生還してこそのレスキューということ、それは動かしがたい鉄則なのかも知れません。
いや、動かしがたい鉄則なのでしょう。
レスキュー隊員にも自分の生活があり、養うべき家族があったりもしてみれば。

別作品『252 生存者あり』にも同じようなセリフがあったかと思います。

しかし、ボランティア活動は、自分ができる範囲のことを、自分ができる範囲で無償で行うという市民ベースでの活動。

確かに、身の危険を顧みないボランティア活動は、ボランティア活動の精神からは外れるでしょうけれども。

しかし、場合によっては(飽くまでも自己責任の範囲内ながら)そのようなことも必ずしもあり得ないことではないボランタリズムの世界を、プロフェッショナル目線で批判的に捉えるのはいかがなものか、と思ったのは、たぶん、評論子独りではなかったこととも思います。

実際、アメリカ・ニューヨーク市マンハッタン区付近のハドソン川に、USエアウェイ(当時)の航空機が墜落したときに、救助ヘリから降ろされる救命索を次々と他の人に譲り、自分は溺死してしまったという人もあったと聞き及びます。
その彼の(彼の価値観に基づく)行動を「バカで無謀」と切って捨てることが、果たして誰にできるでしょうか。
(やや異なった視点からではありますが、当該の墜落事故は映画化もされていることは、映画ファンの皆さまには、既にご案内のこととも思います)

(追記)
先程は、「バーニーは生きること(世渡り)に不器用」と評しましたけれども。

しかし、よくよく考えてみると、そうでもないのかも知れません、本作のバーニーは。

世間様には自分を認めてもらえないという逆境に陥っても、決して絶望したり、自暴自棄になったりもせず、千載一遇のチャンスを逃すことなく利用して、まんまと懸賞金を懐(ふところ)にした「偽ヒーロー」を介してとはいえ、ちゃっかり息子の学費は確保している訳ですから。

世の中は、バカをメッキした利口でないと生きてはいけない、そこらへんの大学を出るよりは、世間様という「大学」を卒業することの方がよっぽど有意義と聞いたことがあります。

本作のバーニーも、世間様が羨(うらや)むような職業には就いてはいなくても、学歴的には無学でも、実は、世間様という「大学」を立派に卒業…しかも、優秀な成績で卒業していたのかも知れないとも、評論子は思いました。

そこに、バーニーが言うところのジャングルのような現実社会で強(したた)かに生きていくための「知恵」が仕組まれていることを、さりげなく、本作は浮き彫りにしているのかも知れません。

<映画のことば>
「オフレコよ。助けてくれて、ありがとう。」
「いいさ(you are wellcom)」

<映画のことば>
「目の前に飛行機が落ちたんだ。」
「私の雷も落ちたぞ。」

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talkie

3.5【”人は誰でもヒーローになる内なる資質がある。”今作はマスコミに作られたヒーローと、息子を愛するヒーローとを描く真のヒーローとは何かを描いたシニカルコメディである。】

2025年3月19日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

笑える

知的

幸せ

■コソ泥で保釈中のバーニー(ダスティン・ホフマン)がハイウェイをドライブしていると、目の前で飛行機が落下する。
 機内から嫌々ながら54人の負傷者を救出した彼は、乗客の財布を取って姿を消す。
 彼は救助中に片方の靴を失くしてしまい、知り合いのホームレス、ババー(アンディ・ガルシア)にその靴を上げてしまうが、機内に残された靴から、ババーは54人の命を救ったヒーローとして、マスコミに大きく取り上げられ、100萬ドルを貰う。
 だが、偶々、事故機に乗り合わせていて、顔中泥だらけの男に助けられた敏腕テレビレポーターのゲイル(ジーナ・デイヴィス)は彼の行方を追う。

◆感想<Caution!内容に触れています。>

・今作は、基調はマスコミのヒーローをでっち上げたがる体質を揶揄しながらも、それをシニカルな笑いに変えている。

・バーニーも、行為自体はヒーローだが、彼の行為は”仕方なく人助けをする”と言う彼の元妻が言う性格に寄るモノである。

・一方、マスコミに作り上げられたヒーローであるババ―も、弱者救済のためにヒーローとして、頑張るのである。但し、彼の中では葛藤があり、最後は本当の事を書いて飛び降り自殺しようとするのである。

・そこに現れたバーニーは、彼と取引し、息子への進学資金融資を頼む代わりに、本当のことは言わない約束をするのである。

<ラスト、息子と動物園に行ったバーニーの所に”ライオンの檻の中に人が落ちた!”という叫び声を聞いて、ヤレヤレという感じで、バーニーが助けに行く様がクスリと笑えるのである。
 今作は、マスコミに作られたヒーローと、息子を愛するヒーローとを描く真のヒーローとは何かを描いたシニカルコメディなのである。>

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NOBU

3.5ヒーローの消費

2024年11月30日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

DVDの販売タイトルは
「ヒーロー 靴をなくした天使」ですね。
検索してみたところ「ヒーロー云々」と名のつく映画がこんなに多くてびっくりです。
ヒーローが掃いて捨てるほど溢れかえっていて、なんだか呆れました。

TVのワイドショーは「ヒーロー」と「ヒール」を双方探し回っています。それを特ダネとして飯のタネにしているレポーターたちの姿は、世界共通のようです。
視聴者がヒーローとヒールが大好きだからです。

でもまあ、そこ、最近よくあるシリアスな「メディア告発映画」としてではなく、軽妙なコメディとして、
それも敢えてチープに取り上げるところが面白かったですね。

・靴を失くして⇒“桶屋が儲かる”方式。
・片一方だけの靴の貧乏人が一夜明ければ大金持ちになる⇒シンデレラのストーリーがモチーフ。
ヒーロー信仰とアメリカンドリームのチープさをダブルで嘲笑う いけない映画だろうなあ、これ。

そしてバーニーとババーだけの「タネ明かし」でハッピーエンド。

バーのマスターが言ってました
「いいじゃないか、ヒーローじゃなくったって人間に変わりはないんだから」(吹替版)
ここを、この映画は言いたかったのでしょうね。
そして
善意と勇気は世の中に連鎖するという事。
そしてさらに
誰しも善意と勇気の一歩は、誰しも一度試してみると、あとはハードルが下がるだろうという知恵も。
エンディングはお説教臭かったですけど。

主演のダスティン・ホフマンは、いつもこんな変わり者の役ばかりをもらう俳優。本作でも巨悪との対決とか大きな美談などには一向に興味を持示さない“こそ泥”としてのキャラクターで貫徹。安定の演技でしたね。
まあまあの映画でした。

・ ・

ただ、気になったのは
「墜落機での救命活動」のエピソードと、
「ベトナムでは敵をたくさん殺した英雄」である事が、まったくためらわれる事なく劇中で同列に語られていて「これこそヒーロー」と称賛されているのには、ちょっとどうしても違和感が拭えなくて。
ブラックジョークかと思ったが、矢張り かの地では退役軍人はヒーローとして絶対的尊崇の対象であり、ストレートに持ち上げられている様子。
ベトナム戦争から20年後の制作なのにあれです。
僕は正直引きました。

ハリボテの飛行機が鉄橋に引っ掛かるのは笑えたんですけどね。

・・・・・・・・・・・・・

【おまけ】
バーニーは54人の乗客を救いました。
以下は有名なアメリカのスタンダップコメディですが、
「緊急救出の小話」です。

クルーズ・ツアーの豪華客船が浸水して、今や沈没の危機です。
さあどうする!
「尻込みして渋る乗客をどうやって海に飛び込ませるか」って船員の腕の見せどころです。
国籍ごとに使い分けるプロの言葉で、各国の乗客が次々と海に飛び込んだという、その《秘訣》は?

ロシア人の乗船客に
「お客さん、ほら見えますか?水平線のあそこにウォッカの瓶が流ていますよ!」
で、ドボン!

イタリア人に
「あ、あそこに美女が泳いでますね!」
で、ドボン、

ドイツ人に
「規則ですから飛び降りて下さい」
で、ドボン!

くだんのアメリカ人に対しては
「あなたが最初に飛び込めば、あなたは間違いなくヒーローです!」
だそうです(笑)

で、この小話には日本人乗客も含まれているんです、

「ほらご覧なさい、皆さん飛び込んでおられますね」。
・・これで日本人は言うことを聞くんだそうです。
悲し。笑えん。

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きりん

5.0愛と欲がいっぱい詰まった作品。

2022年11月20日
PCから投稿

すんごい掘り出し物!
この作品を知らなかった自分が情けない。
いかにもホフマンらしい作品で大好きになりました。
嘘を演じきるアンディ・ガルシアもいい。
もどかしさの中に愛と欲がいっぱい詰まってた。

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miharyi