劇場公開日 2025年6月6日

MaXXXine マキシーン : 映画評論・批評

2025年6月3日更新

2025年6月6日よりTOHOシネマズ日比谷ほかにてロードショー

スターを夢見るヒロインの最後の血戦を描く、3部作初の大都会編

A24とタイ・ウェスト監督、ミア・ゴスのコラボレーションによるスラッシャー・ホラー3部作がついに完結。1970年代の田舎ホラーの荒々しさを押し出した「X エックス」、ハリウッド黄金期のメロドラマやファンタジーを基調にした「Pearl パール」に続き、今回は「X エックス」から6年後のロサンゼルスが背景となる。

シリーズ初の大都会編だけに、テキサスの農場が舞台だった前2作とは世界観そのものが一変した。青春映画「セント・エルモス・ファイアー」が封切られた1985年の夏は、派手な娯楽路線に振りきったハリウッドが活気に満ちあふれていた時代で、ロサンゼルスの中心部にも猥雑な熱気がほとばしっている。ウェスト監督はそのギラついた空気感を再現しつつ、当時の暗黒面をあぶり出すことも忘れない。実在の連続殺人鬼ナイト・ストーカーによる凶行、スナッフビデオ、悪魔崇拝カルトの暗躍。さらにブライアン・デ・パルマ風の画面分割を導入し、ジャッロ映画の様式に則ったショック描写を映像化するなど、引き出しの多いシネフィル監督の職人仕事をたっぷりと堪能できる。

画像1

そして映画を牽引するのは、もちろんミア・ゴス扮するマキシーンだ。ブロンドのポルノクイーンとして名を馳せた彼女は、新進気鋭の女性監督の眼鏡にかない、業界注目の商業ホラーの主役を射止める。ところがスターダムへ駆け上がる絶好のチャンスを得たそのとき、思いがけない過去からの訪問者につきまとわれ、6年前の惨劇のトラウマがフラッシュする。かくしてロサンゼルスの明と暗、マキシーンの光と影が共に鮮烈なコントラストを成し、ビジュアルとドラマが渾然一体となって、血しぶきを噴き上げながら妖しくうねり出す。虚構の現実を生み出す巨大な映画スタジオ(ロケ地はワーナーのバーバンク・スタジオ)で撮影を実施したことも実に効果的で、そのシークエンスには何とスラッシャー映画の元祖とも言える「サイコ(1960)」のノーマン・ベイツ邸も組み込まれている。

ところで筆者は鑑賞中、マキシーンとナイト・ストーカーの人生がくしくも交錯し、クライマックスで両者が相まみえるというクライマックスを予想したのだが、まったくの大ハズレだった。マキシーンが最後に対峙する相手が誰なのかは見てのお楽しみだが、すべては少女時代からずっと輝かしいスターの座を追い求めてきた彼女の“夢”に収束する。時代設定や作風は毎回変われども、この大いに評価されるべき3部作のぶれない本質はまさにそこにある。

高橋諭治

Amazonで今すぐ購入

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む
「MaXXXine マキシーン」の作品トップへ