ザ・バイクライダーズ : 映画評論・批評
2024年11月26日更新
2024年11月29日よりTOHOシネマズシャンテ、WHITE CINE QUINTOほかにてロードショー
バイカー集団の盛衰はアメリカの近代史を写す鏡でもある
アメリカの写真家、ダニー・ライオン初の写真集“The Bikeriders”は、シカゴを拠点とするバイカー集団“Outlows Motorcycle Club”の実態を捉えた傑作写真集として知られている。本の裏表紙には肩に薔薇のタトゥを入れ、ライダースジャケットを着込み、1950年代に最速を誇ったトライアンフ650CCに跨る顔の半分が髭面のバイカーが写っている。監督のジェフ・ニコルズはこの写真集に触発され、社会の枠外で生きるアウトサイダーたちの姿を映像で甦らせようと試みた。
物語は、写真家のダニー(マイク・ファイスト)が、実在するバイク集団“アウトローズ”を架空の存在に置き換えた“ヴァンダルズ”の歴史を取材するという形式で進んでいく。取材を受けるのはストーリーテラーのキャシー(ジョディ・カマー)だ。彼女は“ヴァンダルズ”の短気で無口なメンバー、ベニー(オースティン・バトラー)との出会いから、結婚、そして、2人の運命に関わってくる“ヴァンダルズ”のリーダー、ジョニー(トム・ハーディ)について語り始める。それは、ベニーにグループの未来を託したいジョニーと、堅気になって欲しいキャシーが、ベニーを挟んで微妙に敵対する女→男←男というブロマンス的3角関係にまつわる思い出話だ。ここが結構切ない。
しかし、話はそれほどシンプルではない。元々はバイカーのライフスタイルに共感して集い合った男たちが、やがて、グループが麻薬密売や殺人に関与する犯罪組織へと変貌していく過程で、散り散りばらばらになっていく、そんなアイロニーも、映画はしっかりと描写している。象徴的なのが、麻薬中毒のベトナム退役軍人が仲間入りしたことで、グループの空気が一気に荒んでいくところ。バイカー集団の盛衰は、アメリカの近代史を写す鏡でもあるのだ。
現在も、モデルになったバイククラブは、FBIが“アウトロー・バイク・ギャング”のリストに載せているビッグ4の一つに数えられ、依然として犯罪の脅威と見なされている。同クラブのライバルに目されているのは“ヘルズ・エンジェルス”。ジャック・ニコルソン主演の「爆走!ヘルズ・エンジェルス」(1967)はその存在にインスパイアされた犯罪ドラマだ。
ジェフ・ニコルズの監督としての軸足は、しかし、時代の激流に飲み込まれていったライフスタイルとしてのバイカーへの、熱いオマージュにある。克明に再現されたヴィンテージのライダースジャケットやデニム、同じくヴィンテージのバイクたち、そして、それらを映し出す、やはり古着のようにくすんだ1970年代調の色彩も含めて、「ザ・バイクライダーズ」は今年最高にスタイリッシュな作品として記憶に刻まれるに違いない。
(清藤秀人)