劇場公開日 2025年3月7日

35年目のラブレター : インタビュー

2025年3月6日更新

重岡大毅×上白石萌音、約9年ぶりの再共演で魅せたあうんの呼吸「『この人に付いて行こう』と思った」

重岡大毅(左)、上白石萌音(右)
重岡大毅(左)、上白石萌音(右)

2016年公開の映画「溺れるナイフ」で、主人公の2人(小松菜奈×菅田将暉)と非常に近い距離で重要な役割を果たす親友の役を演じた重岡大毅上白石萌音。2人が約9年ぶりの再共演を果たした映画「35年目のラブレター」が公開を迎える。

実話を元に、戦争で十分な教育を受けられず、読み書きができないまま定年退職を迎え、一念発起し夜間中学に通い始める西畑保とその最愛の妻・皎子(きょうこ)の姿を描いた本作。重岡と上白石は、笑福亭鶴瓶原田知世が演じる保と皎子の夫婦の若き日を演じている。

映画の中で2人が見せる姿は、現代パートの鶴瓶と原田が醸し出す雰囲気と驚くほど自然に重なる。そこには2人の演技力の高さはもちろん、9年前の初共演時から抱いてきた互いへの深い信頼と尊敬の念があった。(取材・文/黒豆直樹、撮影/間庭裕基)


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笑福亭鶴瓶原田知世の“若かりし頃”を演じる→「なんで?なんで俺やったん?」「どうしよう…似てない!」

――鶴瓶さんと原田知世さんの若い頃を演じるということを聞いて、最初にどんな思いを抱きましたか?

重岡:どう思った? でもびっくりしたよね?

上白石:びっくりした!

重岡:「鶴瓶さん…?」と思いつつ、でも嬉しかったです。鶴瓶さんが好きで、共演させていただいたこともありますけど、鶴瓶さんって、なんていうか…鶴瓶さんじゃないですか(笑)?

上白石:うん、唯一無二。

重岡:本当にそうだよね。みんな好きでしょ? TVで見ても、直接会っても一緒で、包み込む感じ――大先輩にこんな言い方するのは失礼かもしれないけど、わかりやすく言うと“人たらし”ですよね。もちろん、保さんという役を通してですけど、そういうイメージを抱いていた鶴瓶さんの若い頃を演じるという嬉しさとプレッシャーを感じました。「なんで?なんで俺やったん?」っていろんな関係者に聞きたかったです。

上白石:聞いてみたの? 何て?

重岡:「ちょっと笑った顔が似てた」って(笑)。

上白石:私も映画を見てそれは思いました。ニコって笑顔がすごく似てたし、重岡さんも人たらしだし。私は「どうしよう? 原田さんと似てない!」って思いました(苦笑)。顔が似ていなさ過ぎて「これはどうしたら…?」って。でも、もともと原田さんが大好きで、ご出演作も観ていましたし、歌声がすごく好きでCDも聴いていたので、すごく嬉しかったです。ただ、どうやったら自然な形でバトンパスができるんだろうというのは一番考えたことでしたね。

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重岡大毅「上白石さんは天才。完璧。だから腹が立った」 上白石萌音「なんでやねん(笑)!」

――物語についてはどんな感想を持たれましたか?

重岡:最初に台本をもらって「絶対やりたい」と思いましたね。嬉しかったです。この台本、役が自分の手元に届いたことが。どうしても伝えたいなと思いました。

上白石:実話というのもびっくりしました。実話と知って読むとまた味わいが深いし、実際にこの世で起きたこととして、その物語の一部になれるというのがすごく嬉しかったです。私は関西の人間じゃないので、関西人ならではのやり取りが「すごく関西してるな!」というのが最初の印象でした(笑)。関西人が読むとあれはどうなの?

重岡:日常(笑)?

上白石:あははは。恐ろしい(笑)!ボケて、ツッコんで…。

重岡:日常やね。「はいはいはい」っていう感じやったな。

上白石:私はそこにすごくワクワクしていました。

重岡:いや、これね、俺は上白石さんが天才だと思いました。(インタビュアーに)聞いていただけたら話すけど(笑)。

上白石:聞いてください(笑)。

重岡:いや、マジで俺びっくりしたのよ。鶴瓶さんも原田さんもいる読み合わせの時に。もう原田さんだったもん!「うわっ!」ってビビったもん。関西弁も完璧やし。

上白石:気持ちいぃ(笑)!

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――関西人の重岡さんから見ても完璧な関西弁だと?

重岡:ぶっちゃけ気持ちやからね。イントネーションが完璧じゃなくても良いのよ、別に。気持ちが伝わればいいの。だって関西人でも関西弁が下手な人って全然いるからね。ハートやから! それを置いといてもマジで完璧やったからね。なんかもう腹が立ってきたわ(笑)。

上白石:なんでやねん(笑)!

重岡:なんか俺、焦ったもん。何より、原田さんがまとっているオーラや雰囲気が出てたから。「なんやねん、こいつ!」って思ったね。

上白石:私も腹立ってましたよ(笑)。重ちゃんのお芝居が本当に好きで、最初に共演した時から「なんだ、この人!?」と思って。最初にこの話が来た時、まだキャスティングを聞いてなかったんですけど「重ちゃんにやってほしいな」って思ったんですよ。

重岡:嬉しいなぁ。

上白石:本読みの時から「はい、はい、はい! そうです。これこれ!」って感じだったし、お国の言葉でしゃべっている時の活き活きとした姿とか…。現代パートの本読みが先に行われていたので、私たちはお二人(鶴瓶&原田)のお芝居を先に聞いていて、その後、本読みに入ったんですよ。私も(重岡の中に)鶴瓶さんが見えたし、なおかつ一度、読み終わって監督から「もうちょっとこういう感じで」といった演出が入って、それで終わることが多いんですが、重ちゃんは「もう1回、やっていいですか?」って。その素敵さに腹が立って(笑)。

重岡:いや、大汗かきながら言ったのよ。「ごめんな。でもこうやって俺が汗かいてる時は焦ってる時なんやけど、もう1回やらせてくれへん?」って。

上白石:それが素敵だし、保さんだなと思いました。その瞬間に「この人に付いて行こう」と思いました。

重岡:いや、俺もです。上白石さんの名前を聞いた時に安心しました。やっぱり一度、共演していたのもあったし、(数年を経ての再共演に)続けるって、こういう良いことがあるんだなっていうのを思いました。

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●俳優として心掛けているについて。重岡大毅、30代に突入して思うことは「ひとりではやれない」

――保さんは「年齢を言い訳にしない」ということを大切にし、チャレンジを続けますが、お2人は俳優として心がけていることはありますか?

上白石:聞きたい!

重岡:えー(苦笑)?

上白石:先に言う?

重岡:いや、一緒にしゃべろか(笑)?

上白石:一緒に(笑)? なんであんなに(セリフを)自分の言葉にできるんですか?

重岡:そう聞こえる?

上白石:聞こえる。「溺れるナイフ」の時からそうだった。

重岡:あんまり意識はしてないけど、“自分”としてやってるからかな?

上白石:「誰かになる」というより? すごく自由だなと思う。身体の使い方もすごく自由だし。

重岡:たぶん、何かに縛られるのが苦手やねん。逆に(大事にしていることは)何ですか?

上白石:現場で対峙している相手の言葉をよく聞き、よく見て、もらえるものを全部もらうということです。ひとりではお芝居はできないので。

重岡:塚本監督とはコロナ前に一度、ご一緒させていただいたんですけど、もうその時点で今回の企画が進められていたんですよね。いろんなところに“プロフェッショナル”がいるんだなと最近よく思うし、脚本を書いたり、音楽をつくったり、今日(取材に)来てもらっていることとか…いろんな人がいて、この場所があるんだってことをよく考えますね。自分のお芝居もそうだけど。なんか俺、良いこと言ってる?

上白石:「良いこと言ってる」声でしゃべってる(笑)。

重岡:30代に突入して最近思うことかな。「ひとりではやれないな」っていうのは。

上白石:いろんな人が準備して、役者が最後に(作品の大事な部分を)決定づけちゃうという怖さはすごいあるなと思う。

重岡:俺、結構こうやってバーって自分のペースでしゃべんねんけど、あまり説明とかに自信がないの。(上白石がきれいにまとめてくれて)助かる(笑)!

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●これまでの人生で心に残っている“手紙”

――保は、妻にラブレターを書くために読み書きを一から勉強しますが、お二人がこれまでの人生で心に残っている手紙や手紙にまつわるエピソードは?

重岡:手紙、よく書くって言ってたよね?

上白石:すごく書く。誕生日とか、お世話になった人に久々に会う時ですね。

――これまでにもらった手紙で思い出深いのは?

上白石:中学3年生の時、東京の高校を受験することになって、受験の前の日に一番の友達がノートの端っこをビーっと破って「東京に行くんだね。すごいね。頑張っておいで」といったことを書いてくれました。それはいまも取ってあります。すごく好きです。きれいな便箋を選んで準備して書いてもらった手紙も嬉しいけど、ノートの切れ端って、臨場感しかないじゃないですか? 破ったあととか、急いで書いてくれた筆跡とかがいいなって。言葉じゃなく文字で残してくれたのが嬉しかったのを覚えています。それをポッケに入れて受験会場に行きました。

重岡:とてもいい話じゃん!

上白石:でも、成人した時に親に手紙を書いたって言ってたよね?

重岡: 書いた、書いた。二十歳になった時、いままでそういうことをしなかったので「育ててくれてありがとう」みたいなことをメッセージカードに書いて…すごくこっ恥ずかしかったけど(笑)。そしたらオカンもこっ恥ずかしそうに、仕事から帰ってきたオトンに「これ、大毅が書いたんやって」って。オトンも「おっ…」って。全員が慣れてない感じで(笑)。

上白石:良い話(笑)。

重岡:どうしていいかわからん感じで(笑)。俺、字は汚いんだけど、手紙というものが好きだから最近、よく書きますね。自分で曲を作って、メンバーが歌ってくれたりもするので、そういう時、ひとりひとりに自分の思いを(手紙で)渡したりするね。

――メンバーの反応は?

重岡:「何書いてるかわからへん」って(笑)。

上白石:照れ隠しだね(笑)。

重岡:でもそうすると、返ってくる歌が全然違うから、やっぱり(気持ちが歌に)乗っかるね。血が通うよね。手紙は体温があるから好きですね。

上白石:熱い男だ。

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●35年後の“自分”はどうなっている?「デカイ犬飼いたい」「私は猫」

――35年後、自分はどうありたいかを教えてください。

重岡:35年後だと70歳手前か…。決めているのは老後にデカい犬を飼いたいなって。

上白石:名前も決めてるって言ってたよね?

重岡:そう、決めてるねん。(名前は)秘密で…(笑)。

上白石:私は聞いて爆笑しました(笑)。

重岡:大型犬の散歩をして走りたいねん。「アルプスの少女ハイジ」に出てくる“アルムおんじ”みたいな生活が良いなって。田舎に引っ込みたいのよ、悠々自適な感じで。

上白石:私は(35年後は)還暦過ぎくらいですね。何だろう…? 家族はいるかな? いたらいいなぁ。私は猫を飼いたいです。ゆくゆくは髪の毛を真っ白にしたいので、その準備でグレーくらいですかね。

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●共通の原動力は「コンプレックス」

――劇中の保のように、こつこつと努力を積み重ねて成果を手に入れた経験はありますか?

上白石:私、“こつこつ”が超苦手で…。必要がないと頑張れないし、小さい頃から続いている習い事もないんですよ。

重岡:できる、できないに関わらず、“こつこつ”を続ける自分は好きかも。うまく説明できへんなぁ…(苦笑)。

上白石:いいよ、まとめるから(笑)。

重岡:日記書いてたりとか。

上白石:私も! 初めて人生で続いてる。私、覚えているのが、前回共演した時に(重岡が)「楽器をやらなくちゃいけなくなっても、俺は絶対無理」て言ってたこと。でもやってるよね?

重岡:やってるな。あれから始めて、いまはもう(楽器を弾かないことが)考えられへんもんな、ライブが一番好きやから。

――無理と思っていたのに続けられた原動力は?

重岡:なんやろ…? コンプレックスじゃない? いまは、コンプレックスが良い感じで裏返ったんで、プラスの力になっているんですよね。(コンプレックスの中身は)周りがエグかったからね。人前で歌うだけで毎回、脂汗かいてたから。嫌いというか、苦手だから嫌いだったんだよね。

上白石:私も全部、原動力はコンプレックスです。劣等感の塊です。悔しくて、不甲斐なくて頑張るみたいなことばっかりです。でも音楽って、できなかったことができるようになるのがわかりやすい気がして。出なかった音が出たり、何拍伸ばせるようになったりとか、そうやって結果が出るから頑張れるのかも。

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●西畑夫妻の姿から何を感じとった?

――映画を通じて、保と皎子の姿に刺激を受けた部分はありましたか?

重岡:台本を読んだ時に「何かを始めるのに遅いことはない」っていう言葉がものすごく刺さって、勇気づけられました。いまだに「あの時、もうちょっとこうやっておけば…」と思うことばかりじゃないですか。それはどんな年代になってもそうだと思うけど、でもそうじゃないと信じたい自分もちゃんといて、そのきっかけをこの作品がくれそうな気がしたし、この作品と一緒に見つけに行くような気持ちでやれたら最高やなと思いました。

――映画の中で結婚生活を送ってみて、結婚っていいなと感じたりも?

重岡:思いますね。俺は大型犬と孫に囲まれたい(笑)。

上白石:「この人の役に立ちたい」という気持ちがどれだけ強く温かいものか――そう思える人がいるという生き甲斐が本当に素敵だなと思いました。それが結果、自分の心身を支えてくれるものになると思うし、「夫婦っていいな」、「愛っていいな」と思いました。「ちゃんと伝える」というのも大事なことだなと。思った時に伝えることが。

重岡:大事やね。

上白石:なかなか恥ずかしくてできないけど。

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●劇中の印象的なシーンを述懐「それぞれの自己ベストが交わる点を探しに行くような感じ」

――映画の中で、読み書きができないことを隠して結婚生活を送っていた保が皎子にその事実を伝えるシーン、重岡さんの表情も告白を見守る上白石さんの様子も印象的でした。

重岡:ああいうシーンは緊張するよね。でも、もうやるだけというか、周りに信頼できる人しかいなかったので、どこまでやれるか…「よろしくお願いします!」という気持ちでした。

上白石:私はただ聞いているだけでよかったので。本当に(重岡が)保さんだったので、何の準備も要らず、ただその言葉を聞いて顔を見ていれば、そこにいられたという感じでした。でも緊張感はすごくあったね。

重岡:勇気が要るよね、打ち明けるって。さっきのコンプレックスの話じゃないけど、隠していたことが自分にとって(最もコンプレックスに感じていることで)、一番近くにいる一番大事な人に言えなかったという思いは、ずっと(保を)蝕んでいたと思うし。

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――自分の弱さを向き合って、伝えないといけない中で、保の中に本当に様々な感情が渦巻いていることが伝わってきました。

重岡:生きていたらファイトしないといけない瞬間があるじゃないですか? みなさんも俺にも。保にとっては、それがあの瞬間だったんだなと。

上白石:セリフもそうなんですけど、静かな間をすごく覚えています。ペンで書き始めて、それを見ている間とか、行間の言葉を探している間とか、何を言ったらいいかわからない沈黙とか…。あの場にいて「とても真実だな」と感じていて。一度共演している信頼感、居心地のよさみたいなものがあったから、あの間が取れたのかなと思っています。

重岡:いや、あの日は俺たち、頑張ったね(笑)。俺と萌音ちゃん、スタッフさん、それぞれの自己ベストが交わる点を探しに行くような感じでした。本当に萌音ちゃんがいてくれないとダメだったのよ。

上白石:対峙するだけで皎子さんになれるみたいな感覚は、どのシーンでも感じていました。でも私は、皎子さんも実は薄々気づいていたんじゃないかと思っていて。

重岡:そうかもな。

上白石:だから何となく思っていたことを本人の言葉で言われた時に、どういう顔をして何を言ったらいいんだろう? というのは……。薄々、準備ができていたけど、衝撃の瞬間みたいな、すごく複雑なシーンだったなと思います。

重岡:そうね、保もそう思っていたと思う。「もしかしたらバレてるかもしれない」と。結局、正解って現場のあの瞬間にしかないから、俺たちは精一杯やって、あとはもう感じてくださいって(笑)。

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●約9年ぶりの再共演を経て――お互いが“今後も「追いかけたい」人”になっていた

――久しぶりの共演で互いの変化を感じた部分はありましたか?

上白石:なんにも変わらない(笑)。

重岡:俺もそうやわ(笑)。

上白石:でも「変わらない」ってすごいことだし、この8~9年って(年齢的に)一番変わる時期だと思うし…。全然変わっていなくて、それが嬉しかったですね。でも、人としての円熟味というか、言葉の重みとか…酸いも甘いもいろんなことを経験して、その結果として言っているのがこの言葉なんだなみたいなことを感じて、変わらないんだけどより深くなっているのを感じました。

重岡:まさにそうだね(笑)。「変わってないな」と思ったし、素敵ですよね、萌音ちゃん。さっきも言ったけど、いろいろ質問攻めしたの覚えてるわ。「人生で『これ!』という1冊は何?」とか。教えてもらってすぐ読んだもん。

上白石:何て言ったっけ?

重岡:言っていい? 「センス・オブ・ワンダー」(レイチェル・カーソン)。

上白石:私も、なんでこんなにお芝居が素敵なのか? といろいろ聞かせてもらって、(教えてもらった演技論の本を)すぐ読み始めました。

重岡:話を戻すと、ちょっと今後「追いかけたいな」っていう人ですよね。作品もそうだし歌もそうだし。

上白石:私も追いかけます。

重岡:本当にこの作品でご一緒できてよかったです。

上白石:こちらこそ! 良い日だねぇ(笑)。

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