劇場公開日 2005年3月26日

「【82.6】アビエイター 映画レビュー」アビエイター honeyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【82.6】アビエイター 映画レビュー

2025年7月29日
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作品の完成度
マーティン・スコセッシ監督による2004年の映画『アビエイター』は、20世紀を代表する異才ハワード・ヒューズの半生を壮大なスケールで描いた伝記映画。その完成度は、全体として極めて高い評価を得ている。物語はヒューズの青年期から壮年期、映画製作への情熱、航空業界における革新的な挑戦、そして強迫性障害という精神疾患との闘い、さらに政界との軋轢まで多岐にわたり、一人の人間の光と影を余すところなく映し出す。
映画は、ヒューズの栄光と没落、そして孤独というテーマを、綿密な時代考証に基づいた映像美と、役者の卓越した演技、そしてスコセッシならではのテンポと演出で融合させている。特に、ヒューズが直面する数々の困難、例えば航空機開発における失敗や、TWA航空買収を巡る政界の陰謀、そして何よりも彼を蝕んでいく強迫性障害の描写は、観客に深い共感と緊張感をもたらす。尺が長いという意見も散見されるものの、ヒューズという人物の複雑さと、彼が生きた時代の変遷を考えると、この尺はむしろ必要不可欠だったと言える。彼の破天荒な事業家としての顔、女性遍歴、そして精神的な苦悩が、重層的に描かれることで、単なる偉人伝に留まらない、人間ドラマとしての深みが増している。アカデミー賞では11部門にノミネートされ、主要部門での受賞こそ逃したものの、その技術面における貢献は高く評価され、作品全体の高いクオリティを裏付けている。
監督・演出・編集
マーティン・スコセッシの監督手腕は、この作品で改めてその非凡さを証明した。彼の演出は、ハワード・ヒューズという複雑な人物の内面を深く掘り下げながら、同時に当時のハリウッドと航空業界の華やかな側面、そしてその裏にある暗部を鮮やかに描き出す。特に、強迫性障害によるヒューズの精神的な崩壊を、視覚的・聴覚的に表現する演出は圧巻。繰り返されるフレーズや強迫的な行動を、時に幻想的に、時に生々しく描写することで、観客はヒューズの苦悩を追体験する。
編集は、セルマ・スクーンメイカーが担当し、彼女は本作でアカデミー編集賞を受賞した。スコセッシ作品には欠かせない存在である彼女の編集は、2時間49分という長尺にもかかわらず、物語に淀みなく、観客を飽きさせない推進力をもたらしている。特に、航空機の試験飛行や法廷での対決シーンなど、緊迫感のある場面では、巧みなカット割りとテンポで、観客の心臓を掴むような効果を生み出している。また、時代の変化に伴い、映像の色調が初期のヴィヴィッドなテクニカラーから、後半のやや色褪せたシネマスコープへと変化する演出は、ヒューズの精神状態の変化とリンクしており、視覚的な効果として非常に効果的だ。
役者の演技
* レオナルド・ディカプリオ (ハワード・ヒューズ役)
ハワード・ヒューズという多面的な人物を演じ切ったディカプリオの演技は、キャリアの中でも屈指の評価を得ている。若き日の傲慢で破天荒な実業家としての姿から、徐々に強迫性障害に蝕まれ、精神的に不安定になっていく壮年期の姿まで、その変遷を見事に表現。特に、潔癖症や特定のフレーズの反復といった強迫観念に苦しむ姿は、細部にわたる身体表現と表情の変化によって、その苦痛と孤独が痛いほど伝わる。公聴会のシーンでの、疲弊しきった姿から一転して、内なる狂気をはらみながらも論理的に自身の正当性を主張する姿は、彼の演技力の真骨頂を見せつけた。この役でアカデミー主演男優賞にノミネートされ、惜しくも受賞は逃したが、その熱演は多くの批評家から絶賛された。
* ケイト・ブランシェット (キャサリン・ヘプバーン役)
伝説的なハリウッド女優キャサリン・ヘプバーンを演じたケイト・ブランシェットは、その演技でアカデミー助演女優賞を受賞。ヘプバーン特有の気品と独立心、そしてやや奇矯な言動を見事に再現。彼女の姿勢、声のトーン、そして細やかな仕草は、まさにヘプバーンが憑依したかのような説得力を持つ。ヒューズとの複雑な関係性、互いの才能を認め合いながらも、それぞれの生き方を貫く強さを、ブランシェットは繊細かつ力強く演じきった。特に、ヒューズの病状を理解しようと努める優しさや、彼を見守る複雑な感情表現は、観客の心に深く刻まれる。
* ケイト・ベッキンセール (エヴァ・ガードナー役)
ハリウッドのグラマラスな女優エヴァ・ガードナーを演じたケイト・ベッキンセールは、その美貌と内に秘めた強さを兼ね備えた演技を披露。ヒューズとの情熱的で破滅的な関係を、魅力的に演じている。彼女の登場シーンは、映画に華やかな色彩を添える一方、ヒューズの心の闇を浮き彫りにする存在としても機能。ガードナーがヒューズの異常性を理解し、しかしそれでも彼を愛そうとする葛藤を、巧みな表情と声で表現している。
* アラン・アルダ (ラルフ・オーウェン・ブリュースター上院議員役)
ヒューズを追及するラルフ・オーウェン・ブリュースター上院議員を演じたアラン・アルダは、その重厚な存在感で作品に深みを与えた。権力と政治的思惑に満ちたキャラクターを、時に冷静に、時に感情的に演じ分け、ヒューズとの対立構造を明確にする。彼のアカデミー助演男優賞ノミネートは、その演技が映画全体に与えた影響の大きさを物語る。
脚本・ストーリー
ジョン・ローガンによる脚本は、ハワード・ヒューズの波乱に満ちた生涯を、時代背景と人間ドラマの双方から深く掘り下げた構成が特徴。ヒューズが航空業界と映画業界という二つの異なる分野で革新を追い求める姿、そしてその裏で精神的な病に苦しむという対比が、ストーリーの核をなす。特に、彼の強迫性障害の発症から進行、そして公聴会でのクライマックスという流れは、一人の人間の内面的な葛藤を巧みに描き出している。
一方で、ヒューズの女性関係や、彼を取り巻く様々な人物との交流も丁寧に描かれ、彼の人間性を多角的に捉えている。しかし、膨大なエピソードを2時間49分に凝縮したため、一部の出来事や人物の関係性がやや駆け足に感じられる部分もある。それでも、ヒューズという特異な人物の生涯を、エンターテインメントとして成立させながら、その悲劇性をも描き切った点は、高く評価されるべきだ。
映像・美術・衣装
映像面では、ロバート・リチャードソンによる撮影が、1920年代から1940年代にかけての時代感を鮮やかに再現。特に初期のシーンでは、当時のテクニカラーを意識した鮮やかな色彩が用いられ、映画の黄金時代を彷彿とさせる。後半になるにつれて、色調が落ち着き、やや退廃的な雰囲気を帯びることで、ヒューズの精神的な変化とリンクする視覚効果を生み出している。
美術は、ダンテ・フェレッティとフランチェスカ・ロ・スキアーヴォが担当し、彼らは本作でアカデミー美術賞を受賞した。当時のハリウッドのセット、豪華な邸宅、そして航空機の設計室など、細部に至るまで徹底的な考証に基づいた美術は圧巻。特に、ヒューズが籠もる無菌室の異様な雰囲気は、彼の精神状態を象徴的に表現している。
衣装は、サンディ・パウエルが手がけ、彼女もアカデミー衣装デザイン賞を受賞。当時のファッションを忠実に再現しながらも、登場人物の個性や内面を反映したデザインは秀逸。ヒューズの洗練されたスーツ、ハリウッド女優たちの華やかなドレスなど、その一つ一つが物語の世界観を構築する重要な要素となっている。
音楽
ハワード・ショアによる音楽は、物語の壮大さとヒューズの孤独、そして狂気といったテーマを巧みに表現。オーケストラを用いた重厚なスコアは、航空機が空を舞うシーンでは雄大さを、ヒューズが精神的な苦悩に苛まれるシーンでは緊張感と悲壮感を演出する。特定の主題歌は設けられていないが、ショアのスコアは作品全体に一貫したトーンを与え、観客の感情を深く揺さぶる。特に、ヒューズの強迫性障害の描写と連動するような、反復的で時に不穏な旋律は、彼の内面の葛藤を聴覚的に表現する効果的な手段となっている。ハワード・ショアは本作でアカデミー作曲賞にもノミネートされた。
受賞歴
第77回アカデミー賞において、最多の11部門にノミネートされ、以下の5部門で受賞を果たした。
* 助演女優賞 (ケイト・ブランシェット)
* 美術賞
* 撮影賞
* 衣装デザイン賞
* 編集賞
また、第62回ゴールデングローブ賞では、作品賞 (ドラマ部門)、主演男優賞 (ドラマ部門:レオナルド・ディカプリオ)、作曲賞を受賞。英国アカデミー賞では作品賞、助演女優賞、プロダクションデザイン賞、メイクアップ&ヘアー賞を受賞するなど、主要な映画賞で高い評価を得ている。

作品 The Aviator
監督 マーティン・スコセッシ 115.5×0.715 82.6
編集
主演 レオナルド・ディカプリオA9×3
助演 ケイト・ブランシェット A9
脚本・ストーリー ジョン・ローガン
B+7.5×7
撮影・映像 ロバート・リチャードソン A9
美術・衣装 美術
ダンテ・フェレッティ
衣装
サンディ・パウエル A9
音楽 ハワード・ショア A9

honey