マリウポリの20日間

劇場公開日:

マリウポリの20日間

解説

ロシアによるウクライナ侵攻開始からマリウポリ壊滅までの20日間を記録したドキュメンタリー。

2022年2月、ロシアがウクライナ東部ドネツク州の都市マリウポリへの侵攻を開始した。AP通信のウクライナ人記者ミスティスラフ・チェルノフは、取材のため仲間と共に現地へと向かう。ロシア軍の容赦ない攻撃により水や食糧の供給は途絶え、通信も遮断され、またたく間にマリウポリは孤立していく。海外メディアのほとんどが現地から撤退するなか、チェルノフたちはロシア軍に包囲された市内に留まり続け、戦火にさらされた人々の惨状を命がけで記録していく。やがて彼らは、滅びゆくマリウポリの姿と凄惨な現実を世界に伝えるため、つらい気持ちを抱きながらも市民たちを後に残し、ウクライナ軍の援護によって市内から決死の脱出を図る。

チェルノフが現地から配信したニュースや、彼の取材チームが撮影した戦時下のマリウポリ市内の映像をもとに映画として完成させた。2024年・第96回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞し、ウクライナ映画史上初のアカデミー賞受賞作となった。また、取材を敢行したAP通信にはピュリッツァー賞が授与されている。日本では2023年にNHK BSの「BS世界のドキュメンタリー」で「実録 マリウポリの20日間」のタイトルで放映された。2024年4月に劇場公開。

2023年製作/97分/G/ウクライナ・アメリカ合作
原題または英題:20 Days in Mariupol
配給:シンカ
劇場公開日:2024年4月26日

オフィシャルサイト

スタッフ・キャスト

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受賞歴

第96回 アカデミー賞(2024年)

受賞

長編ドキュメンタリー賞  
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(C)2023 The Associated Press and WGBH Educational Foundation

映画レビュー

5.0この絶望を共有する、これから形成される歴史のために

2024年4月24日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

  2年前、ロシアによるウクライナ侵攻の報道を目にした時の衝撃を今も覚えている。以前から火種があったとはいえこの現代に、ロシアのような大国が堂々と侵略行為をおこなうということ。そして、「正当防衛」という首を傾げざるを得ない大義の元に、子供を含めた一般市民が殺されてゆくことにショックを受けた。
 本作の監督であるチェルノフ氏らAP通信のクルーが報道機関の中で唯一、侵攻が始まった後もマリウポリに残った。当時私が目にしたその悲惨な映像は、彼らが文字通り命懸けで撮影したものだった。

 侵攻開始直後から、まだ学齢にも満たないような子供や、サッカーをしていて爆撃を受けた少年などがあっけなく死んでゆく。たった20日間の記録映像の中で、港湾都市として栄えていたマリウポリは見る影もなく破壊し尽くされた。
 都市の秩序を失った街で、市民による略奪が起こる様子もカメラは映し出す。治安の悪化はマリウポリの人々が、明日を生きるための精神的、物質的な拠り所を奪われたことの証左でもある。

 以前、ロシア人の気質に関する解釈が書かれた木村汎氏の著作を読んだ。あまりに広大で気候条件の厳しい国土が醸成した諦めの精神、そこから生まれた強権を握る権力者への依存、モンゴルに侵攻されたトラウマからくる領土拡大への執着、そういった主旨のことが書いてあったと記憶している。そのような背景がロシアの大義を形成したという側面もあるだろう。ソ連が崩壊しウクライナが独立した後も、プーチンの歴史観では、ウクライナ人とロシア人は「歴史的に一体」という認識だ。
 もちろん、私の浅薄な知識では追いつかないはるかに複雑な歴史や為政者の思惑なども交錯しているのだろう。しかし、少なくとも言えるのは、大義を掲げた戦闘行為ほど人間を残虐にするものはなく、一方でその実、無差別な殺戮を正当化できる大義などないということだ。
 この理不尽さを当事者ではない大衆に伝えるのに、映像ほど強力なものはないだろう。だから取材クルーは、撮影を拒まれそうになっても「記録に残さないなんてできません」と訴えた。医師や警官など、危険な状況にあっても撮影を助ける市民もいた。
 この惨状を、ロシアの横暴を世界が知れば、何かが変わると信じて。

 この映像から2年。マリウポリは、実質的にロシアの支配下に落ちた。各国のロシアへの経済制裁、ウクライナへの軍事支援があってもなおロシアの侵攻は続き、やがて「支援疲れ」という言葉がささやかれた。今年に入ってからはパレスチナ情勢が悪化し、少なくとも日本国内のニュースでウクライナの現状が詳報される機会はますます減った。
 そんな今こそ、この映画は多くの人に観られるべきだと思う。この20日間の映像に刻まれた悲惨と絶望は、ウクライナで今も続いている。そしてそれらはおそらく、パレスチナで起こっていることにもどこか重なるはずだ。
 チェルノフ監督はアカデミー賞授賞式のスピーチでロシアの即時撤退を求め、「この壇上で『作品を作ることがなければよかった』と語る監督はおそらく初めてだろう」と述べた。実際に映像からは、傷つき死にゆく市民の様子を目の当たりにした取材クルーたちの苦しみまで伝わってくる。彼らを動かしていたのは、この犠牲がロシアによってなかったことにされるのを許さないという、悲壮な使命感だけだ。
 彼らが命を賭し心を削って取材しなければ、初期の侵攻の実態を世界が知ることはなかった。つらい作品だが、このつらさは間違いなく、広く共有されるべきものだろう。
 なぜなら、「映画は記憶を形成し、記憶は歴史を形成する」のだから(チェルノフ監督の受賞コメントより)。

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ニコ

5.0歯がゆい

2024年11月4日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

歯がゆくて歯がゆくて仕方がない。
いくら全世界に送っても、フェイクで片付けようとするロシア。
ニュースについて真っ向から対立する両国。
マスコミの力ってその程度のものなのか?
ずっともやもやしていた。

戦争始めたやつは死ねばいい。
本当にそう。
戦争の始まりなんて知る由もないが、静寂から始まるという。
怖い。

たくさんの人に観てほしいので星5つ。
でも本当はこんな映像ない方がよかったのだ。

早く終わって欲しい。
早く。
早く。
遅すぎるけど。

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ジャーニー

4.5惨劇に意味を持たせるために

2024年10月24日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:VOD
ネタバレ! クリックして本文を読む
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hum

ガザもウクライナも

2024年8月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 クリミア半島の根元近くの要衝の地、ウクライナのマリウポリにロシアが攻撃を始めてからの20日間、ここで何が起きているのかを命懸けで撮影し続けたAP通信記者の記録です。

 本作は、今年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞したのですが、その席上、監督は「こんな作品で受賞したくなかった」と悲痛なコメントを寄せました。その言葉の意味を改めて思い知る事が出来る作品でした。

 病院では小さな子供が次々と死んで行き、蘇生処置に当たっている医師も涙を流しています。そして、取材チームに「これを世界に伝えてくれ」と叫びます。砲撃によってサッカーのプレー中に足を失った少年、骨盤を破壊され胎児と共に亡くなった妊婦、幼子を助けられずに泣き崩れる母親。

 一方では、破壊された商店から、市民たちが次々と商品を略奪して行きます。そして、

「戦争はまるでX線だ。人間の内部を見せる」

と語る医師。

 この映画を観て「だからこそ、日本も軍備を」と息巻く人が居るかもしれません。しかしそんな人は、これをしも「自衛の戦争だ」と語るプーチンのグロテスクさをどう観るのでしょう。自分達もプーチンになり得る事を想像しないのでしょうか。

 そして、アカデミー賞授賞式で監督が更に語ったように、この映画からガザへも想像力を働かさねばなりません。いや更に、シリアもミャンマーも、マスコミに報じられていない国々へも。

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La Strada