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インドの諜報機関“RAW“のエージェント達の活躍を描くスパイアクション「YRFスパイ・ユニバース」の第5作にして、伝説のスパイ・タイガーを主人公に据えた『タイガー』シリーズの第3作。
アフガニスタンでの潜伏作戦中、命を落とした旧友ゴーピー。彼は今際の際、ゾヤがパキスタンの二重スパイである事をタイガーに告げる。
自分の妻が裏切り者であるとは信じられないタイガーだったが、あるロシアでの任務中、彼の前に立ち塞がったのは他でも無いゾヤだった…。
2025年4月22日、カシミール地方にて武装勢力によるテロ事件が発生。インド人観光客ら26人が犠牲になった。
5月7日、インド政府はパキスタンがこの事件に関与していると主張し、カシミールにおけるパキスタンの実効支配地域に報復攻撃を実行。詳細は不明だが、民間人を含む30人以上の死傷者が出た様である。
テロの関与を否定するパキスタンはインドに応戦。核保有国同士の戦闘という事で世界に緊張が走ったが、開戦から4日後の5月10日、両国は停戦に同意。全面戦争は避けられたものの、2週間経った今でも緊張状態は続いている。
と、この様なタイムリーな情勢の中で本作を鑑賞。
『タイガー』シリーズは常に印パ両国の友好をメッセージとして発信してきた。『伝説のスパイ』(2012)では両国の諜報員による禁断の恋が、『甦る伝説のスパイ』(2017)では両諜報機関による合同作戦が描かれた訳だが、本作ではパキスタン転覆の危機をタイガー率いるRAWのエージェントが救うという筋書きになっている。
…あー。これメッセージ性が後退してませんかね?
個人の恋愛から組織の協働と、両国家の対等な関係を徐々に規模を拡大させながら描いてきていたのに、ここにきて「悪いパキスタン人をインド人がやっつけ、パキスタンの国難を救う」お話にしてしまうとは…🌀
作中、敵キャラであるアーティシュが「インドの言う“和平“とはパキスタンに首を垂れろという事だろっ!」と非難していたが、本作ではまさにそのインドの傲慢さが物語に現れてしまっている。
一応平和的なメッセージは伝わるものの、両国を対等な関係としては全く描いていない。これを観たパキスタン人はどう思うのだろうか…。
メッセージ性は置いておいても、ストーリーの弱さとテンポの悪さが目立つ。
特にストーリーにおいてはかなり疑問符が付く内容で、いくら子供が人質になっていたとはいえ核ミサイルの発射装置をタイガーとゾヤが盗み出した事は事実であり、彼らの行動によって中印パの関係性はガタガタ。下手すりゃ世界大戦が起こるぞこれ!
勝手にエージェントを動かした挙句死なせちゃってるし、いい加減RAWはタイガーの処遇をきちんと考えた方が良い。
前作『甦る伝説のスパイ』は掛け値無しの傑作スパイアクション映画だった。その路線を期待していたのだが、見事に肩透かしを喰らわされてしまった。
脚本家が同じシュリーダル・ラーガヴァンと言う事もあり、作風としてはYRFスパイユニバース第4作『PATHAAN/パターン』(2023)に似ている。…というか、ほとんどおんなじ話である。
はっきり言って、これならパターンを主役にしても全然成立してしまう訳で、わざわざ『タイガー』シリーズにした意味がよくわからない。せっかく前作でハードなアクション路線を切り拓いたのだから、そこを追求していく姿勢を見せても良かったのではないだろうか。
過去シリーズの登場人物がバタバタと、しかも雑に殺されていってしまい、まるで在庫処分セールの様な印象を受ける1作だった。一定以上の面白さは担保されているものの、それが長すぎるランタイムに見合っているかと言われると…。
パターンとの共演、そしてエンドクレジットではYRF第3作『WAR ウォー!!』(2019)の主人公カビールが登場するなど、いよいよユニバース化が本格的に動き出した。インド版『アベンジャーズ』の結成も近いか?
何にせよ、『ウォー!!』『パターン』『裏切りのスパイ』と、おんなじ様なお話とテンションの映画ばかりが続いているので、今後はもっとバリエーションを増やしてくれる事を願う。