ゴースト・トロピック

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ゴースト・トロピック

解説

美しく繊細な映像で物語を紡ぎ、カンヌ国際映画祭やベルリン国際映画祭でも注目を集めるベルギーの映画作家バス・ドゥボスの長編第3作。ブリュッセルの町を舞台に、最終電車で乗り越してしまった主人公が真夜中の町をさまよい、その中での思いがけない出会いがもたらす、心のぬくもりを描く。

清掃作業員のハディージャは、長い一日の仕事終わりに最終電車で眠りに落ちてしまう。終点で目を覚ました彼女は、家に帰る手段を探すが、もはや徒歩で帰るしか方法はないことを知る。寒風吹きすさぶ町をさまよい始めた彼女だったが、その道中では予期せぬ人々との出会いもあり、小さな旅路はやがて遠回りをはじめる。

全編を通して舞台となる夜の街の風景を、粒子の荒い16ミリカメラで撮影することで、暗闇の中に柔らかさと温かみをもたらしている。2019年・第72回カンヌ国際映画祭の監督週間出品。

2019年製作/84分/PG12/ベルギー
原題または英題:Ghost Tropic
配給:サニーフィルム
劇場公開日:2024年2月2日

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(C)Quetzalcoatl, 10.80 films, Minds Meet production

映画レビュー

3.5夜の街を歩く。優しく柔らかな視座を持った物語

2024年1月30日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

ベルギーのバス・ドゥヴォス監督がブリュッセルを舞台に描く、小さくてユニークな作品だ。移民系の住民の多いこの都市。主人公も50代のイスラム系の女性で、家族が安心して根を張って生きていけるよう、必死に頑張ってきた世代だ。夜間の清掃員として働く彼女は、仕事を終えて地下鉄で帰る途中、つい寝過ごして終点へ。折り返しの電車もなく、夜の街をそのまま歩いて帰ることになるのだが、そこには同じく夜の仕事に従ずる人々の姿があり、寒空の下で交わされる他愛もないやりとりが紡がれていく。だからって何か特別なことが起きるわけではないのだが、しかし透明感あふれる映像、そこはかとない温もりと優しさ、何よりも作り手がこの主人公に寄せる慈しみ深い思いがひしひしと伝わって目が離せなくなる。たまらない気持ちになる。何も知らなければ赤の他人。何気ない他人の日常。しかし一歩踏み込んで望むと、感情が、人生が、凝縮されていることに気づく。

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牛津厚信

全く知らない俳優さんや監督さん

2024年9月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 終電で寝過ごして終着駅から家まで歩いて帰ることになった初老の女性の物語です。真夜中なので登場人物も台詞も少なく、大きな出来事も起きません。しかし、小さな出会いごとに垣間見える彼女の人柄、恐らくアラブ移民であろう彼女の来歴がゆっくり滲み出で来ます。その一歩一歩が、静かなギター音楽に乗って、しっかりしたカメラで捉えられるのです。そして終盤で、オープニング映像に繋がる展開に虚を衝かれ、何だか心が温かくなりました。素晴らしい作品です。

 ベルギーにこんな監督さんや俳優さんがおられるのを今まで全く知りませんでした。映画の世界は本当に広い。

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La Strada

4.0母、真夜中の大冒険

2024年7月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

楽しい

難しい

ベルギーの映画作家バス・ドゥボスの長編第3作。
ブリュッセルの町を舞台に、最終電車で乗り越してしまった主人公である初老の女性が真夜中の町をさまよい、その中での思いがけない出会いがもたらす、心のぬくもりを描く。

と解説されていたが 思いがけない というワードに対しては個人的に違和感。
なぜなら未開の地に歩を刻む彼女の姿は、さながら物語の勇者のようで
その道中に生じた事柄全てに必然性を感じたからだ

終電後の街はその土地を知らない人からすればある種の異世界。
ありふれた、むしろ少々陰鬱な主人公のキャラ設定があるからこそ
非日常における彼女の吹っ切れたような行動や一見過剰な好奇心にも
どこか共感を抱かずにはいられない

複雑な設定やSF的要素を駆使するでなく
極めてありふれた題材で非日常的、大衆的を表現した
素晴らしい作品でした。

それにしても海外作品の 冬➕路地 の組合せはなぜあんなにも
心を凍えさせるのか…日本の街頭の多さに感謝したいと思いました。

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草マクラ

5.0ブリュッセルの深夜の旅をする女性

2024年5月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

幸せ

寝られる

ゴースト・トロピック Ghost Tropic
大阪十三にある映画館シアターセブンにて鑑賞2024年5月2日(木)

ベルギーの首都 ブリュッセル
定点でリビングルームが映し出される。ソファーとテーブルとテレビがあるが、人気は感じない。日は少しずつ落ちてゆく。
女性がフランス語で詩を朗読する声が聞こえる。
これが私に見えるもの 聞こえるもの過ぎた時間が見える この空間を見ると この大切な苦労が見える 赤の他人が この部屋に入ってきたら その人は何を見て何を聞くだろう。
部屋の外から街の音が鳴り響く。サイレンの音、鳥のさえずり。子供たちの声。部屋は少しずつ暗くなり、暗闇に消えていく。
Ghost Tropic
「あれは奇跡よ」

ハディージャ(サーディア・ベンタイブ)(女性 ヒジャブを身につけている)とビルの清掃仲間の笑い声が夜間の休憩室で鳴り響く。涙をこらえきれないほど笑うハーディジャ。見る限り国籍の異なる男女が集まっている。
ハディージャは一足先にロッカーを後にする。「また明日」地下鉄までの帰路、街角のモニターに移し出されている南国の写真を物思いにふけるように眺めている。青い海、白い砂浜、椰子の木。「Get Lost 見知らぬどこかへ」と書かれている。

駅に到着したハディージャは電車に乗る。「コント・ド・フランドル駅」「サント・カトリーヌ駅」ハディージャの目は、徐々に重たくなっていく。地下鉄を走る電車の音が完全に消え、ハディージャの寝息が聞こえ始める。誰も乗っていない車両。遠くから森林の小鳥のさえずりのような声が聞こえてくる。
深刻な顔をして携帯電話をかけているハディージャ。「ビラル、ママよ」「居眠りして終点まで来ちゃったの」「もう地下鉄がない」すでに寝ているであろう、息子の携帯に留守番電話を残す。
財布の中を覗き、意を決したハディージャはバッグをしっかりと肩に掛け、コートの首元を締め、夜道を歩き出す。
優しいガットギターの音色はまるでハディージャの冒険を見守るかのような温かみがある。
滑らかなカメラは夜のブリュッセルを歩くハディージャに寄り添う。
「ムシュー!」

ショッピングセンターまでたどり着いたハディージャは、警備員に声をかける「ちょっと待って」「現金下したいの」警備員は困惑しながらも、ハディージャを中に入れることにした。
「地下鉄で居眠りなんて20年働いて初めてよ」ATMにありつけた安心からか、ハディージャの声はかすかに弾んでいる。しかし口座の残高が不足している。
「大丈夫か?」と聞かれたハディージャは、とっさに「問題ない」と答えてしまう。
ハディージャがトイレを使用している間、警備員はルーマニア語で家族と話しをしている。「娘には妻が帰ってから薬を飲ませる」
警備員はハディージャにショッピングモールで飼っているオウムを見せる「元々4羽いたけど今は一羽しかいない」見知らぬ余所者どうしの何気のない会話。

ショッピングモールの外に出た警備員は、目線の向こう側に指を指す。「全部壊して亜熱帯風の水城公園を作るんだとさ」「トロピック・タイム」「トロピック・ファン」。
警備員はハディージャに中心街へ行きバスの乗り場を教える。ハディージャは夜間バスがあることを知らなかった。「ありがとう、お休み」警備員に伝える。「いいさ。それじゃあ」と歩き出す警備員。「バニラ味?」と後姿の警備員に尋ねる「ああ」「お休み」と答える。
バスの中は人で溢れている。突如アイドリング中のエンジン音が止まる。暫くすると車内灯がつき電子版に「運航中止」と出る。「そんな」というため息が聞こえる。隣の席の女性と目が合うハディージャ。誰もいなくいなったバスから降りて、再び夜の街を歩き始める。

高架下でホームレスの男性とその伴侶犬と出会う。男性は寝ているだけなのかと気になるハディージャ。伴侶犬に吠えられるが、立ち止まって携帯をかける。男性の脈に手を当てると、かすかに男性は動く。
到着した救急隊員に犬がいることを伝える。「連れていけない?」せめて逃げ出さないように「つないでおきます」と答える救急隊員。
「凍死しちゃうわ」とハディージャ。そうだよねと言わんばかりの目で二人は目を合わせる。
外灯の下に繋がれた犬と別れ、さらに歩き出すハディージャ。見覚えのある交差点で寄り道をする。
高層マンションが立ち並ぶ高級住宅街の敷地に入るハディージャ。外の窓から家を覗き込むが空き地のようだ。カーペットには子供のおもちゃが置かれている。不穏な音楽が画面に流れる。
突然、「パチンと」音を立ててキッチンの灯りがつく。中東系の顔をした青年がハディージャに気が付く。青年は人差し指を口元に充てる。うなづくハディージャ。青年は灯りを消してキッチンの暗闇に消えてゆく。
「ちょっと」「あんただ」
突然、後ろから男性に声を掛けられる。ハディージャは過去にこの家の家政婦をしていたことを伝える。男性は空き家に人影があるから見に来たというと、ハディージャは「誰もいませんよ」と青年を庇う。
「まだ家政婦の仕事を?」男性がポーランド人の家政婦をし始めると、ハディージャは遮るように今は「個人宅はやりません」と答える。男性は諦めて去る。

ハディージャはの旅は続く。その冒険を優しく包み込むように流れる、あのギターの音色。

ガソリンスタンドの売店を見つけたハディージャ。室内は明るくて温かいお湯もある。カウンターで女性店員にティーバッグが無いと伝える。「ミントティかレモンティなら?」と返すと「ミント」。ティーバッグにお湯を鎮めて、冷えた手を温めるようにカップを両手で握る。ハディージャは女性に店内でティーを飲んでいいかと尋ね、少し考え、すぐに済むのならと答える。ハディージャの顔に安堵の表情が浮かぶ。
ビールケースに腰を掛けて俯くハディージャ。その姿を慈しみに溢れたまなざしで見つめる女性店員。
商品の陳列を終えた女性は、ハディージャはを家まで送ることを提案する。「助かるわ」「遠くはないんだけど」「足がむくんでいて・・」
車に乗り込むハディージャ。抽象的な都会の夜の色とりどりの玉。遠くから再び聞こえてくる小鳥のさえずりのような声。
疲れてあまり話せなくて」と謝る女性に「いいのよ」と優しく返すハディージャ。慎重に破られる沈黙。
女性「あなた美人ね」
ハディージャ「あなたは結婚しているの?」
女性「離婚した」「エステルという6歳の娘がいるの」
ハディージャ「夫の名前はムニール 10年前に亡くなったわ」「子供は2人」
女性がほほ笑む。「ムニールが恋しい?」
ハディージャは「もちろん あなたは元恋人が恋しい?」
女性「まさか」「きになるひとがいるの」「よくタバコを買いに来るけど吸っていないと思う」
優しく笑うハディージャ。照れくさそうに笑いながら「背が高くて口ひげを生やしている」
ハディージャ「ひげは好みじゃないわ」楽しそうに笑う女性。

ふたりが少しずつ歩み寄ろうとするとき、ハディージャは家にいるはずの娘が、友人たちと真夜中の街を歩いているのを見かける。慌てて車から降りるハディージャ。ドアを閉める前にもう一度車内に体を入れて、女性にお礼を伝える。
娘グループを遠巻きから追うハディージャ。一瞬娘がハディージャのほうに顔を向ける。グループは深夜の売店でお酒を買い金曜日に行くクラブについて話している。「ヒップホップなら最高」と男が言う。深刻な顔をするハディージャ。
公園のベンチで酒を飲む娘たち。娘と男の友人2人だけが残る。男の友人がボトルの酒を勧める。

寒そうにしている彼女を気にかけ、男はセーターを取りに行く。その間娘はスマフォのカメラで確認している。
男が戻ってくるのをソワソワしながら待つ娘。その姿を木の陰から見つめるハディージャ。娘が見せる、一人の女性としての顔を見たハディージャは様々な心境が入り交ざった複雑な表情へと変わっていく。

前を向きながら歩くハディージャ。すでにテーマソングとなった優しいギターの音色が流れている。

娘たちに酒を売った売店に戻る。店員に声をかけようか迷ったが、すれ違いの警察官に通報することにした。さらに少し歩くと、さっきの救急隊員と出会う。ホームレスが運ばれた病院だと知ったハディージャは男性の容態が気になって仕方がない。
病院の受付で、面会は明日だとあしあらわれる。それでもきになるハディージャは、受付の女性が席を立った隙に、エレベーターに乗って病院に入る。
ナースセンターで夜勤のケアワーカーが談笑している。運びこまれたホームレスの部屋を尋ねると、一人のナースに案内されるが、違う患者の部屋だった。男性は運び込まれた時にはすでに亡くなっていたと聞かされる。
病室に響く心電図の音。
布団が剝がされた誰も寝ていない病室のベット。

また、森の森林の小鳥のさえずりのような声が聞こえてくる

外灯につながれたホームレスの伴侶犬。不思議な淡い光が画面を覆う。外灯に結ばれたリードがスルッとほどける。犬は振り返り光の方向へと歩き出す。
ハディージャの表情からは、不安は消えている。むしろ安堵に満ちた顔をしている。「よかった」と一言だけ呟く。
アパートに到着するハディージャ。
ベットに腰を掛け、ヒジャブを外して、静かにベットに体を鎮める。

ハディージャはすぐに起きてキッチンの灯りをつける水を一杯飲み、また身支度を始める。リビングルームの灯りを消して、仕事に出かける。
暗い部屋の外から街の音が鳴り響く。サイレンの音、鳥のさえずり、子供たちの声。部屋はすこしずつ明るくなり、完全に明るくなった時 画面に見覚えのある風景が広がる。
白い砂浜、青い海、椰子の木。
海辺に向かって走る若い男女。服を脱ぎ捨てて海に飛び込むカップルたち。そんな仲間を見つめてほほ笑む娘のローラ。
淡い西日に照らされる 風に揺れる髪 真っ直ぐ前を見る

監督 バス・ドゥヴォス

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感想

主人公の「ハディージャ」は作品の最後に「ヒジャブ」が登場しますのでイスラム系の女性という設定です。
その名前や衣装で気が付くかもしれませんけどもね。

ベルギー(ブリュッセル)の深夜、女性は安全な環境で過ごすことが可能なのではないかと感じました。
ベルギー(ブリュッセル)は、「紅茶」をいただく習慣なんだと思いました。

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大岸弦