急逝した漫画家の未完の絶筆作品を実写化した作品のようだ。
そこに難解さの根源があるのは間違いない。
加筆もできず削除もできないのだろう。
では空白の部分をどう埋めたのだろうか?
さて、
この作品は、交わることのない場所で生きるそれぞれの人物たちを「かぞく」という枠で捉えようとしている。
冒頭の砂浜をハンドルを持って走る少年
彼は父を交通事故で亡くしたのだろう。
後半でマコトがまったく関係のないこの少年タツヤを助手席に乗せ運転するシーンがある。
これはマコトがふと脳裏に横切った未来の夢なのではないだろうか?
家を出た父がどこかで死んで、すし屋は廃業、借金取りから逃げるために夜逃げする。
しかし母は自殺した。
母の遺骨を海に散布すると、マコトの頭の隅から新しい映像が見えた。
それは、いつか息子を車に乗せて走る光景。
マコトには様々な苦しいことばかりが続いたが、それでも生きていくなら「かぞく」がいたほうがいい。
彼は今まで実現できなかった家族像を自分の家族で実現すればいいのではないかと希望を持ったのだ。
そしてタツヤ少年
彼を慰めようとクラスメートたちが寄り添ってくれる。
父の事故は悲しみしかないが、友だちがいる。
おそらく家に帰れば母も兄妹も、もしかしたら祖父母もいるかもしれない。
海に入ってはしゃぐ姿は屈託のない少年たちの明るい未来を象徴している。
ケンジ
ギャンブル依存症
妻に金をせびる 「体を売れば?」などと冗談さえ禁句なことをいう。
財布からくすねたお金で競馬するが、相変わらずスッてしまう。
妻はもう限界だった。
スナックのトイレで見たケンジの顔には、妻がナイフで顔を切りつけ血だらけになっている姿が重なって見えた。
それは、ケンジが今までどれだけ妻を傷つけてきたかという幻覚 妻の怨念 または彼の気づき。
さすがにマズいと思った彼は早々に自宅に戻る。
妻は夫が戻ってきた安堵が逆に動揺へと変わる。
「半年後、猫でも飼おうよ。大切にするからさ」
この言葉に妻は泣きもだえる。
しかし、もう妻の決断は下されていたのだろう。すでに腹は決まっていた。置手紙も書き終えていた。
ケンジとは別れる選択を切った後に、彼からこんなにやさしいセリフが語られるなど夢にも思わなかった。
タケオ
妻の死 貧困 生活の限界 子供を海岸まで連れて行って置き去りにする。
車で死ぬつもりだった。
ヒマワリが咲き誇っている道もタケオには目に入らない。
思い詰めるように森の中で止めた車に迷い込んできた蝶。
そのまま海岸まで行く。
兄妹二人が楽しそうに遊ぶ姿を見て置き去りにする。
限界 それしかない もうどうにもできない
急カーブを曲がりながら死のポイントを探す。
ボードの上に泊まる蝶
反対車線のトラック
急ハンドル
事故を回避してしまう。
飛び去った蝶に「キレイ」
生きている実感
急いで引き返す。
絶望の淵にいたタケオは二人の子供がいることにようやく気が付いた。
何もなくても、家族がいる。
きっとそう思ったのだろう。
ユウイチ
おそらく未完部分の大半がこのストーリー
そうであれば、未完部分はそのまま未完にしたのがこの作品だろう。
チエコの幽霊 湖で亡くなった彼の恋人
なぜ彼が久しぶりに実家に帰省したのかは不明
彼の様子から自分でもよくわからなかったのだろうが、チエコが呼んだのは間違いなさそうだ。
彼女とはかつて結婚の約束もしていたのだろう。精霊のようになった彼女はユウイチの幸せを願っているように感じた。
しかし、彼も妻との問題を抱えていた。
それは何もわからない。
もしかしたら彼がチエコに呼ばれた理由がそこにあるのかもしれない。
しかし、
未完部分をそのまま未完とする意味はどこにあるのだろう?
マコトが友人から受け取った餞別 友人の母がマコトの母に渡したもの
これも何かわからない。
この部分だけを取ると、それぞれのストーリーにはそれぞれ大どんでん返しがあるはずだったのではないだろうか?
さて、
「かぞく」
ひらがなにした意味はわからない。
それぞれにつながりがないので作品として不十分のように思う。
この作品にボヤっとしたものは感じ取れるが、その輪郭がはっきりしない。
だからそれ以上何も言えないことに残念感が残る。