ネタバレ! クリックして本文を読む
◯作品全体
物語が進むにつれて、飛び交う情報の速度が速くなり、登場人物たちの行動も比例するように加速する。そのときに生まれる情報の交錯が、終盤のスピード感とともに緊張感をはらんでいた。
作品冒頭ではイラン情勢が語られる。革命によって首長が変わり、国同士の関係性も変わった。これはテレビや新聞を見ていれば誰でも得られる、マクロな情報だ。こうしたマクロな情報…アメリカ大使館の襲撃などの公然の事実を語り、その後に逃走した外務官がカナダ大使宅に潜伏している、というCIAだけが持つ情報を明らかにする。少しずつ情報を狭めて、情報とともにミクロな動きへ向かっていく。物事が動き出すまでの、不穏で慎重な空気感の重厚さが素晴らしかった。
中盤はカナダ大使邸で潜伏している6人にハリウッド作戦を伝えるあたりが面白かった。6人が作戦の突飛さに難色を示すが、6人の知らないところで顔が割れかけていて、イラン側の捜索はさらに熱を帯びている。しかしその情報を知っているのは登場人物の中ではごく少数で、神の目線である視聴者に対して「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないのに…」と、焦りを与える仕掛けがあった。ハリウッドで作戦の準備を進める主人公・トニーたちの「遠回り」具合と拘束された人質たちの憔悴も対比的に描かれていて、トニーの準備とイラン国内の混乱も「中盤の焦り」を上手く演出していた。
終盤はその焦りを燃料に変え、さらに強い焦燥感が迫る。脱出計画を実行することで飛び交う情報の速度は更に早まり、イランにいる7人も、アメリカにいるCIAや協力者も、すべて適切な対応を取らなければならない。空港で革命防衛隊の検問にあうシーンは特に良くて、一つ行動が遅れるとすべてが破綻するかのような情報の錯綜…その疾走感、焦燥感、緊張感の演出が素晴らしかった。
混乱や危機を描き続けている本作だが、作戦を動かすまで情報の交錯は遅く、動かした後は急速に展開が進む構成は「計算されたジェットコースター」に乗っているかのようだった。サスペンスとしてもエンターテインメントとしても、一級品の映画だと感じた。
◯カメラワークとか
・無駄なカットがない。緊迫感を和らげるカットがほとんどなくて、焦燥感を煽る。バザール到着前にデモとぶつかるシーンも全体を俯瞰するカットがほとんどなく、車内から外を見るような、閉塞感の強いカットが多い。バックミラーで後ろにも集団がいることを確認する演出も良かった。
◯その他
・最初のイラン情勢について語るシーンをコミック調にすることで、劇中作品「アルゴ」に出てくる惑星をイランと重ねているのが巧い。アメリカ人にとって異星と言っても良い中東の国から脱出をする、その前振りのような演出。
・革命防衛隊の検問のシーンで、現地語を話して映画の説明するところが好き。面白おかしくあらすじを話すだけだけど、偽装作戦で突破することに踏ん切りのついた感じが良い。
・残念なのは終盤のシーンがいまいちなところかな。革命防衛隊が飛行機を追いかけるところとか、実話にフィクションを入れることを全く否定する気はないけど、ここだけはあまりにも嘘くさすぎて鼻につく。この作品の好きな要素である「情報の行き違い」みたいな部分もこのシーンは全く関与してなくて、この作品の魅力じゃないところをクライマックスに持ってこられてる気がしてしまう。
別居していた妻と急に寄りを戻すのも「ふーん」みたいな感想しか浮かばない。妻との関係に触れるシーンも全然なかったし、とってつけたハッピーエンド感がすごい。