前半は心温まる父と子のヒューマンドラマなのが、後半からガラッと雰囲気が変わる。後半は原題の通り、「Kramer vs. Kramer」。でもこの前半に時間をかけるからこそ、この後半の裁判のやり取りの重みが増す。
今作は、ほとんど母親ジョアンナ側の目線は出てこない。本人の口から多少語られる言葉と裁判でのやり取りから感情を読み取ることもできるが、どれだけが事実で本人の感情を表しているかどうかは私たち観客には分からない。そのため、父テッド側に感情移入するのは、自然な流れかもしれない。特に、ダスティン・ホフマンの「優しい父親眼差し」ルックを無視するのは難しい。
あくまで父子のストーリーかと思えば、さすが名作と言われるだけあり、そこには普遍的な人間の課題がある。人生で何に価値をおくのか。夫婦それぞれが、自分にとっての新しい価値を作品を通して見出しているのが興味深い。父は、自分の息子との関係性。母は、自分らしさ。でもそこに正解はなく、いつもうまく行くわけではないのが、人生の憎きおもしろいところ。そこが今作の魅力ではないか。
そして、やっぱりクレイマー夫婦の子ども、ビリーがいい。涙を溜め、「もう夜に“おやすみのキス“をしてくれないんだね?」と聞くシーンにはついグッときてしまう。自分の人生の価値について再確認させてくれる作品。