プラハの春 不屈のラジオ報道

劇場公開日:2025年12月12日

解説・あらすじ

1968年にチェコスロバキアで起こった民主化運動「プラハの春」で、市民に真実を伝え続けたラジオ局員たちの奮闘を、実話をもとに描いたドラマ。

社会主義国家の政府による検閲に抵抗し、自由な報道を目指して活動しているチェコスロバキア国営ラジオ局の国際報道部。中央通信局で働くトマーシュは、上司からの命令により報道部で働くことになる。それは、学生運動に参加している弟パーヤを見逃す代わりに、報道部と同部長のヴァイナーを監視する国家保安部への協力を強いるものだった。やがて報道部で信頼を得たトマーシュは、さまざまな仕事を任せられるようになる。真実を報道しようとするヴァイナーや局員たちの真摯な姿勢に触れ、弟への思いと良心の呵責との間で葛藤するトマーシュ。そんな中、民主化運動による「プラハの春」が訪れる。国民が歓喜する中、中央通信局に呼ばれたトマーシュは、驚くべきある内容をラジオで報道するよう命じられる。

チェコ本国で年間興行成績および動員数1位となる大ヒットを記録し、チェコとスロバキア両国の映画賞で多数の賞を受賞。第97回アカデミー賞国際長編映画部門のチェコ代表作品にも選出された。

2024年製作/131分/PG12/チェコ・スロバキア合作
原題または英題:Vlny
配給:アットエンタテインメント
劇場公開日:2025年12月12日

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(C)Dawson films, Wandal production, Český rozhlas, Česká televize, RTVS - Rozhlas a televizia Slovenska, Barrandov Studio, innogy

映画レビュー

4.0 自由と真実を踏みつぶす大国の横暴にどうあらがうかを、今の世界に問いかける

2025年12月17日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

ドキドキ

半世紀以上前に中欧チェコスロバキアで起きた歴史的事件を、現代の観客が自ら巻き込まれるかのように体感できるのは、ストーリーと映像構成の両面でリアルと創作を巧みに接合したことが大きい。

ストーリー面では、国営ラジオ局に属しながら真実の報道を貫こうとする部長ヴァイナーや編集者ヴェラら実在の人物に、架空のキャラクターである“普通の市民”トマーシュを組み合わせて事態の推移を描いていく。民主化運動の活動家や権力の横暴と闘うジャーナリストを英雄的に描く映画は多々あるが、勇気と信念の傑物はともすると別格の存在に感じられ、観客すべてが自分と同一視できるわけではない。だが本作では、ラジオ放送技術の職能を持つトマーシュが、成り行きで報道部に配属され、弟の将来などごく普通の悩みも抱えつつ、いやおうなしに反占領放送に関わっていく。民主化や自由についてさほど意識が高くない一般人が、権力の横暴を目の当たりにし、抗う人々の雄姿に感化され、自らも関わっていく流れは、光州事件を題材にした韓国映画「タクシー運転手 約束は海を越えて」と似た主人公像でもある。

また映像構成の面でも、ごく一般的な時代劇として当時の街並みや建物内外を再現して俳優たちの演技を撮影したパートに、実際のプラハ市民の抗議活動やソ連含むワルシャワ条約機構5カ国の軍隊が侵攻してきた様子を撮影したフッテージを適所に挿入し、迫真性を高めることに成功している。使用したフッテージの一部は、ピーター・ジャクソン監督が第一次世界大戦の記録映像を再構築したドキュメンタリー「彼らは生きていた」のように、AIを活用して元の白黒映像に着色したものだとか。そのおかげで、記録映像パートが本編から浮いてしまうことなくスムーズに接合されている。

余談めくが、プレス向け資料で知った報道部長ミラン・ヴァイナーの人生がすごすぎてびっくりした。ユダヤ系のヴァイナーは第二次大戦中にアウシュビッツなどいくつかの強制収容所で過ごし、終戦直前の死の行進から脱出した。ヴァイナーを演じたスタニスラフ・マイエルがインタビューで紹介しているのだが、脱走中の一団がナチス親衛隊員に見つかった際、ヴァイナーは動揺する仲間を鼓舞し、SS隊員には「戦後にまた会いましょう」と言い放って逃げ切ったとか。かっこよすぎる! 国営ラジオ局の報道部に入ってからは、従来の検閲されたニュースをそのまま流す慣行から、外国の情報源から得たニュースを直接報道する方式への改革を主導した。たぶんヴァイナーの人生がメインで一本劇映画ができそうだし、この「プラハの春 不屈のラジオ報道」で彼への関心が高まりそんな企画が実現したらなと願う。

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高森郁哉

4.0 いつだって若者は変革の中心

2025年12月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

ドキドキ

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うすたら

5.0 何をどう守るか、何を選び取るか

2025年12月30日
Androidアプリから投稿

ラジオ局員たちの冷静な判断、機転、チームワーク、
そして武器を持たない市民の非暴力的な抵抗が印象的だった。
同時に、「もしその場にいたら」、「今、同じような状況になったら」と、いろいろと考えさせられた。

何をどう守るか。
何を信じて、何を疑うか。
多角的な視点と考える力を持たなければと思う。

ノートで詳しく書きました。
https://note.com/youkhy/n/nadca4878b27a

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YouKhy

4.0 1968年「プラハの春」でラジオ局員たちが見せた不屈のジャーナリスト魂…… 表向きはそれでいいけど 実は「闇」に抗いながら自らの良心に従って行動した青年の成長物語かな

2025年12月30日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

この映画、まあ割りと地味な感じだし、平日の昼間だし、空いてるだろうなとオンライン予約もせずに開始15分ぐらい前に新宿武蔵野館にのこのこと出かけていってちょっとびっくり。入り口のところの席の状況の表示が残りわずかを示す三角マークになっていました。幸いにしてなんとか席は確保できましたが、久しぶりにほぼ満席のなかでの鑑賞でした。公開規模が小さいのとサービスデイだった絡みでこうなったとは思いますが、「文化都市」東京をちょっぴりだけど感じました。

さて、タイトルになっている「プラハの春」はリアルタイムでニュースに接した中では、私は年少の世代にあたると思います。小学6年生で新聞がなんとか読めるようになった頃で、気になったニュースのひとつだったことを憶えています。「ドプチェク第一書記」という固有名詞は憶えていましたが、この映画で彼がスロバキアの出身だったことを初めて知りました。あと、この映画には出てきませんでしたが、この頃の日本で最も有名なチェコ出身者としては女子体操のチャスラフスカさんがいました。彼女はひとつ前の東京五輪で金メダルを獲得し「名花」と呼ばれた名選手ですが、この「プラハの春」に際しては民主化運動を支持することを表明し、大いに注目を集めたものです。ソ連の軍事侵攻の際にはどこかに身を隠していたようですが、その年に行われたメキシコ五輪でも準備不足にもかかわらず、大活躍した記憶があります。私、実はその後の彼女がどうなったのか、まったく知らず(どこか西側の国にでも亡命したのかとも思ってました)、これを機に wiki で調べたら、以降もチェコにとどまり、家庭の問題で精神的に苦しかった時期を経験したものの、1989年のビロード革命後には新大統領のアドバイザーを務め、大統領府の仕事を辞した後にはチェコのオリンピック委員会の総裁も務めて、2016年に74歳で死去されたとのことです(合掌)。

「プラハの春」を話題にすると、私はどうしても『存在の耐えられない軽さ』に触れたくなります。チェコスロバキア出身の作家ミラン•クンデラの代表作とされる小説で、フィリップ•カウフマン監督、ダニエル•デイ=ルイス主演で映画化もされています。私はたぶん小説→映画の順だったと思うのですが、この作品には「プラハの春」に絡んで語られる場面があります。映画ではソ連の軍事侵攻を伝える古いニュース映像に新しく撮られたダニエル•デイ=ルイスの画像がはめ込まれていたような記憶があります。こちらも wiki によると、原作者のミラン•クンデラは「プラハの春」に際して改革を支持したので、国内での創作の機会を失い、著作も発禁処分を受けたとのことです。彼は1975年に大学の客員教授として招聘されたのを機にフランスに出国(亡命)します。挙げ句の果てに、1979年にはチェコスロバキア国籍を剥奪されます。1989年のビロード革命以降は何度か一時帰国していたようですが、2019年にチェコ外務省がミラン•クンデラのチェコ国籍回復を発表してクンデラ夫妻もこれを受理したようです。結局、彼は2023年94歳でパリにて死去します(合掌)。なお、彼には若い頃(1950年頃)、チェコスロバキア秘密警察に協力したのではないかという疑惑があるそうです(スパイと思われる人物を秘密警察に密告したとのこと)。本人は否定していますが、このあたり、旧東欧圏の闇みたいなものを感じます。

で、ようやくこの映画の話。実話を基に作られてはいますが、主人公として物語を引っ張るのは、恐らくは架空の人物であろうトマーシュという青年です。既に両親を亡くしていた彼には守らねばならぬ弟のパーヤがいました。彼は中央通信局で働く技術者でしたが、上司の命令により、国営ラジオ局の国際報道部で働くことになります。この上司の命令の影にあるのが、学生運動をしている弟パーヤを見逃すかわりに、自由な報道を目指して活動している報道部を監視して報告せよ、みたいなスパイ活動の強制じみたものなのです。まあ上述した「闇」というやつですね。

私はこの主人公の「トマーシュ」という名前に軽い引っかかりを覚えました。これ、上述した『存在の耐えられない軽さ』の主人公の名前と同じなんですね(性格的にはずいぶん違いますが)。まあチェコではありふれた名前で偶然の一致かもせれませんが、ちょっとミラン•クンデラ•オマージュを感じてしまいました。

で、この映画、世界史に残るような大事件を扱っていますが、テーマとしてはその大事件の顛末だけではなく、むしろ、もっと文学的で、ある青年の苦悩の物語だったように思います。国家権力の「闇」に呑み込まれそうだった青年が自分の良心に従い行動し、人として成長してゆく、私の中ではそんな物語でした。

それにしても、こういう動乱の時代に巡り合った人生って大変ですね。「プラハの春」は有名なベラ•チャスラフスカやミラン•クンデラの人生に大きな影を落としていますし、名もないトマーシュやパーヤが何千人何万人といたと思います。

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Freddie3v