コラム:下から目線のハリウッド - 第31回

2022年4月29日更新

下から目線のハリウッド

「DP」「ETA」「C47」ってなんのコト?映画業界の現場で使われる「略語」クイズ!

沈黙 サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画の制作に一番下っ端からたずさわった映画プロデューサー・三谷匠衡と、「ライトな映画好き」オトバンク代表取締役の久保田裕也が、ハリウッドを中心とした映画業界の裏側を、「下から目線」で語り尽くすPodcast番組「下から目線のハリウッド ~映画業界の舞台ウラ全部話します~」の内容からピックアップします。

今回のテーマは、ハリウッドの映画撮影現場で使われる「略語」を紹介!知っていると映画通っぽくなれるかも?


三谷:略語っていろんな世界にありますよね。で、映画業界にもそういう言葉がたくさんあるので、今回はそんな話をクイズ形式でやっていこうと思います(笑)。

久保田:もうやめてよー!(笑)。番組でときどきこのクイズ形式の回あるけど、ガチでやってるから本当に頭使うんだよ……。

三谷:まずは、今まで番組でも出てきた略語から問題を出すので。これは復習みたいなものですから。

久保田:復習にならないよ、忘れてんだから。

三谷:マジですか(笑)。もしかしたら覚えているかもしれないので、とりあえずやっていきましょう。では、第1問。「DP」とは何でしょうか?

久保田:全然覚えてない……。えー、「ディレクターポイント」?

三谷:ほうほう(笑)。それはどういうものなんでしょう?

久保田:ハリウッドの人がみんなスカウターをつけてて、ディレクターが通ると、ピピピって数値が出るの。キャリアがまだ浅いと、DPもちょっとしかなかったりして。

三谷:それは、「私のDPは53万です」みたいなことですか(笑)。

久保田:そうそう。すごいディレクターだと、スカウターが「ボンッ!」って壊れちゃう(笑)。

三谷:残念ながら不正解です(笑)。正解は、「Director of photography」ということで、「撮影監督」のことです。

久保田:あー、撮影監督か!

エマニュエル・ルベツキ
エマニュエル・ルベツキ

三谷:そうです。「エマニュエル・ルベツキはさすがすごいDPだよね」とか言うと急に映画通な感じが出せます。

久保田:そんなこと言う人と一緒には映画も見たくないわー(笑)。

三谷:では、第2問。「ファーストAC」とはなんでしょうか。

久保田:えー、これも話したことあるやつ?

三谷:あります。

久保田:ダメだ。全然覚えてない。

三谷:正解は「ファースト・アシスタント・カメラ」です。いわゆるカメアシさんのことですね。

久保田:じゃあ、カメアシさんでいいじゃん(笑)。

三谷:そこはほら、ハリウッドでの略語だから「kameashi」では通じないです(笑)。「ファースト・アシスタント・カメラ」は、カメラのピントを合わせるというのが主な仕事になります。キャリアを重ねたすごい「ファーストAC」になると、ピント合わせるだけで年収ウン千万くらいになる技術職ですね。

久保田:セカンドは何をする人なの?

三谷:「2nd AC」は、「カチンコを司る人」(欧米の場合)ですね。他にはフィルムやメモリーカードを入れ替えもやったりします。
久保田:へ~。

三谷:って言うか、これ前にも話してますし、なんだったらコラムにもなってますよ。(※「撮影監督」ってナニする人? 映画の「映像」をつかさどる職人の世界

久保田:いや、ホントに覚えてない(笑)。

三谷:じゃあ、気を取り直して第3問にまいります「SFX」とは何の略でしょう。言葉としてはよく耳にするんじゃないかなと思いますが、「SFX」とは何の略でしょう。

久保田:Special FX。特殊効果。

三谷:これは正解でいいと思います!「special effects(スペシャルエフェクツ)」を略して「SFX」、つまり、「特殊効果」でございます。たとえば、爆発とか特殊メイクとか、コンピューターを使わずに撮影する時にそのままをカメラに収める効果を指します。

久保田:CGとかじゃないってことだ。

三谷:そういうことです。というわけで今まさに久保田さんがおっしゃったCGを使うような効果の言葉、「VFX」とはなんの略でしょう?

久保田:あれだ。バーチャルな特殊効果。だから、バーチャルFX。

三谷:惜しい!「VFX」は、「Visual effects(ビジュアルエフェクツ)です。これは「特殊効果」と対で、「視覚効果」と訳されますね。たとえば、「スター・ウォーズ」シリーズに出てくるライトセーバーの光線の感じとかは「視覚効果」になります。

画像2

三谷:ではでは続きまして。映画の現場では他にも色んな役職が略語で語られることが多いですが「AD」といえば何でしょう。

久保田:アシスタントディレクター。

三谷:はい、正解です。

久保田:最近、日本だと「AD」って言わないようにしようっていう話があるらしいですね。「nextディレクター」とか、なんか言ったりするみたい。

三谷:らしいですね。本来、「AD」は「助監督」を意味していて「AD」にはファーストとセカンドがあります。「ファーストAD」は、撮影現場でその撮影の切り盛りをする役割ですね。「次はこのショットやりますよ、だから皆さん準備してくださいね」といったことをトランシーバーとかでアナウンスしたりします。

久保田:セカンドは?

三谷:「セカンドAD」は、たとえば、俳優さんが待機室から現場に移動するまでの案内をしたり、あとは日々の香盤表を作ったりとかですね。どちらも撮影をスムーズに進行するための重要な役職になります。では、次の略語。「PA」とは何でしょうか?

久保田:PAさんは音響の人でしょ。

三谷:音響さんを指す「PA」は、「Public address」の略みたいですね。ただ、映画の撮影現場だと「PA」は、「プロダクション・アシスタント(Production assistant)」を指すのが一般的で、役割としては、みんなのコーヒーを持ってくるような、誰でもできるシンプルな用事に対応する人ですね。

久保田:日本のADさんってそのイメージに近いね。

三谷:そうですね。私もキャリアのスタートはPAから始まっています。だから、「私の最初の仕事はPAでした」って言ったら、「君はPAだったのか。よく頑張ったね」みたいな感じになります。

久保田:辛い時期があったんだね、みたいなニュアンスだ。

三谷:そうですそうです。じゃあ、次はちょっと難しいのをいってみましょうか。「HMU」とは何でしょうか。

久保田:ハム。

三谷:HUMだったらハムって言ってもいいかもしれないですけど「HMU」です(笑)。

久保田:えー、「HMU」? なんだろう……「ハンドル・マシーン・ユーザー」(笑)。

三谷:なにかマシーンを動かす人っぽいですね。残念ながら違います。これはですね、「ヘアメイクアップ」の略です。

久保田:それ略すのちょっとくどくない!?「HMUさん」って言わないでしょ?

三谷:まぁ「HMUさん」とは言わないです(笑)。口頭ではあんまり言わないですが、文字に落とし込まれたときに使いますね。たとえば、ヘアメイクの入り時間は午前7時ですよ、みたいなときに「HMU AM7:00」みたいな。

久保田:あー、なるほど。

三谷:では、もうひとつ文字に落とし込む系の略語から。「ETA」ってなんだと思います?

久保田:貿易協定。

三谷:それはFTA(Free Trade Agreement:自由貿易協定)ですね。

久保田:なんでスッと出てくるんだよ!(笑)

三谷:これは難しいので正解を言ってしまいますが、「ETA」は、「到着予定時刻」のことです。

久保田:「estimated time of arrival」か。

三谷:すごい、その通りです!急に覚醒しましたね! たとえば、「あの俳優さんのHMUが終わるETAは?」みたいな感じで言うと――。

久保田:「ヘアメイクいつ終わる?」でいいじゃん!なんで隠語みたいにするんだよ。

三谷:いや、さすがに日本語では言わないですよ。

久保田:英語でなんて言うの?

三谷:「What’s the ETA for ~」みたいな。

久保田:あー。まぁ英語になるとその略語でもいいかって感じがするか。日本語でそれやってたら「いちいちくどい!」ってなるよね、絶対。

三谷:そうですね(笑)。あと、撮影現場ではけっこうトランシーバーでいろんな人同士がやりとりするので、略語になっていくのもその影響があるかもしれないです。

久保田:ビッグサイトでイベントやってるときとか、そんな感じで話してる人いるもんなー。

三谷:そうそう。あんな感じですね。トランシーバーでのやりとりする用語の中で、ちょっと変わったやつもあったりして、「テンワン(ten-one)」っていうのは、「トイレに行ってます」という意味だったりします。

久保田:飲食店の人が「四番いきます」とか言うのと同じやつだ。

三谷:それです。他にも、トランシーバーで「あなた今どこですか?」っていうのを「What’s your twenty」って言ったりします。
久保田:「What’s your twenty」?

三谷:「あなたの20は何ですか?」って意味わからないですよね。実際、その「20」が何を意味しているのかはわからないんですけど、「What’s your twenty?」「ten-one」って言ったら、「今どこ?」「トイレ」ってやりとりになるわけです。

久保田:テンツーもあるの?

三谷:鋭いですね。実はあります。ワンがちっちゃい方で…。

久保田:テンツーが大きいほう?

三谷:そうそう。

久保田:じゃあ、テンスリーは、口から何か吐いちゃってたり?

三谷:ツー以降はないですね(笑)。でも、いろんなバリエーションがあるかもしれないですね。

久保田:テンファイブだったら「徹夜続きで寝落ちしてる」とか(笑)。

三谷:いいですね(笑)。そんな感じで、映画の撮影現場では日々、さまざまな略語が飛びかっているんですが、私が一番「なんで?」って思う略語がありまして。

久保田:なに?

三谷:「C47(シーフォーティーセブン)」っていう。これはもう絶対当たらないと思います。ヒントは、照明部とかで使う言葉です。

久保田:あれだ、色とかじゃない? ほら、カラーの何番とか言うじゃん。

三谷:あー、言いますけれど違います。「C47(シーフォーティーセブン)」って洗濯バサミみたいなクリップ(参考:https://www.scoutingny.com/its-called-a-c-47-dummy/)のことなんですよ。

久保田:もう意味わかんないよ。なんなのそれ?

三谷:照明に色をつけたいときって、色のついたフィルムみたいなものを照明の上に貼っていくんですけど、そのときに止めるクリップみたいなもののことを指すんです。

久保田:なんで?

三谷:なんでなのかはわからないんですけど。

久保田:なんでかわからない言葉を使うな、お前らは!

三谷:(笑)。だから、「C47ちょっと取って」って言われて、その洗濯バサミ的なものを渡してあげれば「こいつ、よくわかってるなぁ」っていう感じになります。

久保田:そのときにC-3POのフィギュアとか渡したらどうなるの?

三谷:PAがそれ持って来たらメチャクチャ怒られるでしょうね。「何考えてるんだ!C47って言っただろ」って(笑)。


この回の音声はPodcastで配信中の『下から目線のハリウッド』(#90 〇〇ってなんのコト? 映画業界の現場で使われる「略語」クイズ!)でお聴きいただけます。

筆者紹介

三谷匠衡のコラム

三谷匠衡(みたに・かねひら)。映画プロデューサー。1988年ウィーン生まれ。東京大学文学部卒業後、ハリウッドに渡り、ジョージ・ルーカスらを輩出した南カリフォルニア大学の大学院映画学部にてMFA(Master of Fine Arts:美術学修士)を取得。遠藤周作の小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 サイレンス」。日本のマンガ「攻殻機動隊」を原作とし、スカーレット・ヨハンソンやビートたけしらが出演した「ゴースト・イン・ザ・シェル」など、ハリウッド映画の製作クルーを経て、現在は日本原作のハリウッド映画化事業に取り組んでいる。また、最新映画や映画業界を“ビジネス視点”で語るPodcast番組「下から目線のハリウッド」を定期配信中。

Twitter:@shitahari

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