コラム:下から目線のハリウッド - 第25回

2021年12月28日更新

下から目線のハリウッド

最後まで映画を楽しむ!「エンドロールの謎」を解説

沈黙 サイレンス」「ゴースト・イン・ザ・シェル」などハリウッド映画の制作に一番下っ端からたずさわった映画プロデューサー・三谷匠衡と、「ライトな映画好き」オトバンク代表取締役の久保田裕也が、ハリウッドを中心とした映画業界の裏側を、「下から目線」で語り尽くすPodcast番組「下から目線のハリウッド ~映画業界の舞台ウラ全部話します~」の内容からピックアップします。

今回のテーマは、2021年末最後のコラムを飾るべく、映画の最後である「エンドロール」を解説。「よく見かけるけど、どんな仕事?」という疑問を語ります。


久保田:年末なので、今回は、映画の最後にあたる「エンドロール」に注目しながら、「あれはどういう仕事?」「これはどういう意味のクレジットなの?」みたいなことを聞いてみようという企画になってます。三谷さんはエンドロールを観る派ですか?

三谷:仕事柄もあって観ます。最近の新しい楽しみ方としては、友達や以前に仕事で一緒だった人がエンドロールに名前が挙がることがあったりして。「あの人、頑張ってるんだなぁ!」みたいな。

久保田:知っている人が出ると、「おっ!」ってなりますよね。

三谷: なりますね。でも、普通に映画を観るだけの人でも、「じつは、知ってみるとエンドロールも面白いんだよ」という話ができたらいいなと思います。

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久保田:というわけで、今日は実際の映画のエンドロールを観ながら話をしていきたいんですけど、DVDを持ってきてくれたんですよね?

三谷:はい。久保田さんが大好きだという「メジャーリーグ2」です(笑)。

久保田:やったー!もう、最初から観ようよ!

三谷:それだと趣旨変わっちゃいますから(笑)。エンドロールから観ていきますよ!

久保田:えー……。まぁしょうがないか。―――最初の部分はあれですよね。役名とキャストの名前ですね。

三谷:役名とキャスト名は、組合のルールで必ずクレジットするように決まっているんです。なので、クレジットから漏れたりするとけっこう問題になるので、みんな神経使って間違えがないように何度も確認するんです。

久保田:そうなんだ。「レッドソックスキャッチャー」っていう役とかあるね。

三谷:きちんと人物として名前がついていない人でも、こうやってクレジットされるわけですね。

久保田:そんな感じでプレイヤーが全員出てくるわけですね―――「ユーティリティプレイヤー」ってなに?

三谷:「ユーティリティ」っていうのは自由に使っていい役回りの人ですね。この映画で言えば、どのチームの選手というわけではないけれど、要所々々で使える遊撃部隊みたいな人です。

久保田:いわゆる「モブ」ですか?

三谷:そうですね。―――で、ひと通り役者のクレジットが終わって、次にスタッフのクレジットが入ってきます。だいたいどの映画でも最初に「ユニット・プロダクション・マネージャー(Unit Production Manager)」が出てきます。この人は現場を切り盛りして、毎日の制作進行を司るトップの人になります。

久保田:ユニット・プロダクション・マネージャーがトップなんだ。

三谷:そうですね、実際の現場の最前線を切り盛りしてるので。役職としては「ラインプロデューサー(Line producer)」と同じですね。

久保田:なるほどー。

三谷:そのあとには、「アシスタント・ディレクター(Assistant director)」が続きます。

久保田:「ファースト・アシスタント・ディレクター(1st assistant director)」とか「セカンド・アシスタント・ディレクター(2nd assistant director)」ってあるね。

三谷:「ファースト・アシスタント・ディレクター」は、日本でいうところの「チーフ助監督」という役職で、現場の実際の進行を仕切ります。たとえば「次は○○のショットやるから誰々を呼んできて~」とかそういう感じの指示を出して現場の切り盛りするような人ですね。

久保田:「セカンド・アシスタント・ディレクター」の人はどんなことするんですか?

三谷:今の例で言うと、「キャストを呼んできて」って言われて実際に呼んでくる役回りですね。もちろんそれだけじゃなくて、毎日続く撮影の香盤表(その撮影日の撮影内容、出演者、集合時間などを記したスケジュール表のこと)をつくったり、プロダクション・レポートという、その日を振り返って実際に撮影したシーンなどの記録を残すといった、わりと事務的なことをまとめてやる人が、「セカンド・アシスタント・ディレクター」ですね。

久保田:現場の統括、指示役、実際に動く人って感じになってるのね。

三谷:そうです。で、この後はカメラ部門が流れてきています。カメラ部門は「撮影監督(director of photography:ディレクター・オブ・フォトグラフィ)」がトップ(当コラムの第17回では「撮影監督」について解説しています)。その下に、「カメラ・オペレーター(Camera operator)」という実際にカメラを操作する人。次に、「ファースト・アシスタント・カメラ(1st Assistant Camera)というカメラのピント合わせをする職人的な技術を持つ人がいます。

久保田:おー、職人さん!

三谷:さらにその下に「セカンド・アシスタント・カメラ(2nd Assistant Camera)」というのがあって、これはカチンコをやる人になります。あとは、フィルムで撮っている場合は、フィルムのストックがなくなったときに補充したり管理したりするのも、セカンドの仕事ですね。

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久保田:それぞれのチームがあって、きちんと役職とかやることも決まっているんですね。

三谷:そうですね。けっこうきちんと組織立ってるんですよ。

久保田:―――あ、ちょっと待って。「グリップ(grip)」ってなんですか?

三谷:グリップは、すべての映画に出てくるんですが、撮影機材などを運んできたり撤収したり組み立てたりする人たちです。たとえば、レールを使って台車を押して、なめらかな移動撮影をしたいときとかの機材を司る人です。他には大きな照明を乗せる柱みたいなものとか持ってきたり。日本では「特機」と呼ばれたりします。

久保田:じゃあ、力持ちってことですか?

三谷:そうですね。これは超肉体労働派の役職です。

久保田:へ~。―――「プロダクション・コントローラー(Production controller)」ってなんですか。

三谷:これはお金関係を管理する人です。

久保田:なるほど。「アカウンタント(Accountant)」っていうのは会計ですよね?

三谷:そうですね。

久保田:このあたりは全体の事務に関する人たちのクレジットってことか。

三谷:そうです。ほかには、「ロケーション・マネージャー(Location manager)」というのがありますけれど、これはロケ地とかを管轄する人。あとは「キャスティング」ですね。各地域で撮影するときにそれぞれ担当の人がいたり、あとはエキストラだけを専門にキャスティングする人とかもいます。

久保田:この「ファースト・エイド(First aid)」っていうのは?

三谷:応急処置とかするような人たち、つまり、看護師さんみたいな人ですね。

久保田:そうか。セットとか組んでるスタッフさんとか俳優さんが怪我とかしたら処置したりするわけだ。

三谷:そうですね。あと「プロパティ・マスター(Property master)」っていうのは、いわゆる小道具さんですね。

久保田:はいはい。あ、ちょっと待って。「グリーンズマン(Greensman)」って?

三谷:これは、映画の中で植物が置いてあるシーンとかあると思うんですけど、それを管轄する人です。

久保田:はぁ~、めっちゃ細分化されてるんだ。―――で、このあたりは……車両の人かな?

三谷:そうです。「トランスポーテーション(Transportation)」という部門ですね。誰が何時にどこに行くっていう移動の手配する人たちです。これはけっこう大変ですよ。時間通りにホテルから車でピックアップして、時間通りに撮影現場に到着しないと、その日の予定が一気に崩れていくので。

久保田:いやー、それは怖い。プレッシャーある仕事だね。―――で、ここからは音楽か。実際に使われた曲がバーっと流れて。

三谷:これも、ひとつひとつ使うのに許可を取らなきゃいけないんですね。それをまた手続きする人がいて。

久保田:そうか。そうだよね。―――これ、いつも思うんですけど、「ドルビー(dolby)」って必ず出てくるじゃないですか。正確に理解できてない気がするんですよね。

三谷:「ドルビー」というのは音響システムのことで、最後出てくるのは、「最終的に映画館で流すときの音響の設定はドルビーですよ」っていうマークですね。他には、このカメラを使った時のフィルムはこういう会社のフィルム使いましたとか。

久保田:こっちのやつは?

三谷:それは「モーション・ピクチャー・アソシエーション・オブ・アメリカ(Motion Picture Association of America)」と言って、レーティングに関わる部分ですね。

久保田:日本でいうところの「映倫」みたいなものか。

三谷:そうです。で、細かいところでは、「アイアッツィー(IATSE)」というのがあるんですけれど。これは、主に現場で働く人たちの労働組合ですね。組合のルールの中でちゃんとやりましたよ、ということの証明として表記されています。そして、最後は法的な文言で、映画の著作権はどこどこに帰属しますという話が出てきて……という感じですね。

久保田:いやー、こんなにじっくりエンドロールを観ることはなかなかないですね。

三谷:クレジットは一回意味が分かると、「あ、なるほど!」となったりすると思うので、知っておくと面白いんじゃないかなと思いますね。

三谷:―――といった感じで、実際に映画のエンドロールを観ながら、話をしていったんですけれど、じつはここに、スタッフさんが書き起こしてくれた、映画「キングダム」のエンドロールがあるので、こちらを見ながらさらに気になるポイントを話せればなと。

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久保田:うわ、すごいなぁ……。序盤はわかるんですよね。

三谷:どの映画でもまずはキャストを出すということが定型ですね。

久保田:キャストがあって、原作。で、エグゼクティブプロデューサー、企画とかはいわゆるプロデューサーみたいな人たちですよね。そこから、実際に映画を撮影するためのチームや人たちがクレジットされていって……ん? この「ガッファー」ってなんですか?

三谷:あ、それは「ガファー(GAFFER)」ですね。照明部のトップの人です。

久保田:へ~。

三谷:日本と海外では、そのあたりの仕組みがちょっと違うんですけれど、日本だと「撮影部」と「照明部」があるんですね。つまり、「映像を作るうえで、カメラを司る人とライティングを司る人は別の部門で協力し合いましょう」という考え方なんですけど、アメリカや海外だと、「ディレクター・オブ・フォトグラフィ(撮影監督)」が中心にいて、その下に照明部と撮影部が一緒になってやっていくという考え方なんです。

久保田:2トップか1トップかみたいな違いだ。

三谷:そうですね。「ガファー(GAFFER)」は、その中の照明を司る人になります。たとえば、どこにどういうライトを置くか、何ワットの明るさの照明を何発置くか、照明の色をどうするか、みたいなことの指示を出していく人になります。

久保田:なるほどねー。

三谷:あ、この「スクリプター」ってご存じですか?

久保田:スクリプターは、カンペを出したりする人?

三谷:と、思われがちなんですけれど、これは映画の中のつながりを管理する人なんです。

久保田:前のシーンと次のシーンがちゃんとつながってるかどうかを見る人ってこと?

三谷:そうです。たとえば、ひとつ目のカットで俳優さんが銃を右手で構えていたら、ちゃんと「右手で構えている」と記録して、その次のカットで俳優さんが左手で構えちゃってたりしたら指摘する、みたいに管理する人がいるんです。

久保田:なるほど、それは重要だね~。

三谷:超重要だし、めちゃくちゃプレッシャーがある仕事だなって思うんですけど。

久保田:場合によっては撮り直しとかできないもんね。これ職人芸っぽいな。

三谷:超職人芸ですね。

久保田:だって、すべての情報を漏らさず記録するって難しくない?どこを特徴に書いていいわからないし。

三谷:なので、見るべきポイントは、撮影に入って経験していくとわかるらしいんですが、特にしんどかったりするのは食事のシーンとからしいです。たとえば、5人で食卓囲んでいるシーンだったとしてみんなそれぞれ自由に食事をするので。取り分けたりだとか誰々に何を渡したりだとか。その一連の動作がつながるようにしなきゃいけないので、それをどう管理するか、かなり神経使うところですよね。

久保田:それはめちゃめちゃ大変そうですね。―――あ、すごく気になるのがある。

三谷:どれですか?

久保田:「あめふらし」っていう……これは祈祷師の人ですか?

三谷:いやいやいや(笑)。

久保田:いや、だってリアルに書いてあるでしょ?

三谷:これは、雨が降るようにお祈りとかする人ではなくて、映画って雨が降ってない日でも雨を降らさなきゃいけないことがあるじゃないですか。

久保田:はいはい、ありますね。

三谷:そういうときに、巨大な水が入ったトラックを持ってきて、シャワーみたいな感じで雨を降らす仕掛けを作る人ですねそれが「あめふらし」さんです。

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久保田:これは業界的にはわりと一般名詞なんですか?「あめふらしさん来ました~」みたいな。

三谷:そうですね。これは英語でもこういう役職名はあります。

久保田:じゃあ、「あめふらしさん来ました~」っていったら、ウミウシみたいなのが来るわけじゃないと。

三谷:ではないです(笑)。

久保田:いやー、これは勉強になりますね。これだけたくさんの人が関わっていると、一度も顔を合わせない人とかもいるんじゃないですか?

三谷:それはありますね。ただ、ほぼ全員が集まる機会というのがあって。それは打ち上げです。

久保田:あー、なるほど。そういうパーティみたいなのがあるんだ。

三谷:そうですね。一応、そこで顔を合わせることはあるかなと。お互いに誰かはわかってない状態ではありますけど。あとは、逆に半年だとか毎日顔を合わせる人もいるので、恋愛が発生したりとかもあります。

久保田:あ~、それはそうでしょうね。いっそ、そういうのもエンドロールに書いてほしいよね。矢印とかハートマークとかで相関関係みたいに。

三谷:そういうエンドロールがあったら面白いですよね(笑)。

久保田:エグゼクティブ・プロデューサーにものすごい矢印が入ってるみたいな。いやぁ観たいなそれ。―――というわけで、最後は謎の話をしましたけども(笑)。

三谷:これで、この先観る映画の楽しみひとつ増えてもらえたらなと思います。

久保田:「出た!あめふらし!」みたいな(笑)。

三谷:そうですね(笑)。


この回の音声はPodcastで配信中の『下から目線のハリウッド』(#26 最後まで映画を楽しむ!「エンドロール」を観ながら解説スペシャル!)でお聴きいただけます。

筆者紹介

三谷匠衡のコラム

三谷匠衡(みたに・かねひら)。映画プロデューサー。1988年ウィーン生まれ。東京大学文学部卒業後、ハリウッドに渡り、ジョージ・ルーカスらを輩出した南カリフォルニア大学の大学院映画学部にてMFA(Master of Fine Arts:美術学修士)を取得。遠藤周作の小説をマーティン・スコセッシ監督が映画化した「沈黙 サイレンス」。日本のマンガ「攻殻機動隊」を原作とし、スカーレット・ヨハンソンやビートたけしらが出演した「ゴースト・イン・ザ・シェル」など、ハリウッド映画の製作クルーを経て、現在は日本原作のハリウッド映画化事業に取り組んでいる。また、最新映画や映画業界を“ビジネス視点”で語るPodcast番組「下から目線のハリウッド」を定期配信中。

Twitter:@shitahari

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