コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第54回
2017年12月20日更新
レゴファンも必見! パリで初の子供用映画館が誕生
初めて映画館で見た作品というのは、誰にとっても思い出深いものではないだろうか。子供の頃、親に連れられてアニメやファンタジー映画を見た人もいれば、ティーンになって友達同士で映画館に行った人もいるはず。初期の映画体験というのは、意外に後の映画的嗜好を決定づける大事なものだ。
シネマの国、フランスは映画制作の援助システムのみならず、映画教育に関しても進んでいる。学校の課外授業で映画を上映したり、映画館に行ったりするのは珍しいことではない。以前セドリック・クラピッシュにインタビューをしたとき、小学生の子供が学校で小津安二郎の「お早よう」を見た、と教えてくれた。フランス映画ならともかく、外国映画のクラシックを小学生に見せるとは、やはり映画が芸術として認められ、芸術が教育に欠かせないものとして認識されているお国柄らしいと思った記憶がある。
さて、そんな国ならではの「子供用映画館」が12月に誕生し、話題になっている。パリの19区、シテ科学産業博物館の並びにあるシネコン、パテ・ラ・ヴィレット(Pathe La Villette)内にある「サル・モーム!(Salle Mome!)」がそれ。
まずはデコレーションがカラフルで楽しい。デンマークのLEGO(レゴ)社と提携した内装は、入り口からレゴ風のカーペットが敷かれ、空間をぜいたくに使用。全70席のカラフルでゆったりとしたシートも特製だ。最前列はまるでビジネスシートのように足が伸ばせる他、部屋の一角にはレゴで遊べるおもちゃコーナーがあり、階段の端にはなんと滑り台まで付いている。これは上映の前後に子供たちが遊べるようにという配慮で、プログラムもその分、時間を空けてゆったりと組まれている。さらにチケットには、お菓子とドリンク付きのタイプも。
2歳から14歳を対象にしたプログラムは、アニメ、ファンタジー、ファミリー映画が揃う。すべてフランス語の吹き替えだが、もちろんハリウッド映画などフランス映画以外もある。ちなみにわたしが行った日は「パディントン2」を上映していて、子供たちが案外大人しく見入っていた。クリスマスの週はディズニー・アニメ「リメンバー・ミー」「ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」、アラン・シャバ監督、主演のフランス映画「Santa & Cie」といったエンタテインメントから、トルコの猫ドキュメンタリー「猫が教えてくれたこと」やトリュフォーの「大人は判ってくれない」といったアート系まで、日替わりのバラエティに富んだプログラムで、経営側の熱意を伺わせる。
さらにここの特色は映画上映だけでなく、上映前にさまざまな子供向けワークショップをもうけているところ。レゴ遊びをはじめ、図画工作、パッチワーク、芝居など、子供の興味とイマジネーションを刺激するような内容が企画されている。大人同伴が条件だが、自宅でなにかと構ってやれない親にとっては嬉しいスペースに違いない。
もちろん、映画鑑賞は大人だけで行くことも可能なので、レゴファンなら一度は訪れてみると楽しいだろう。(佐藤久理子)
筆者紹介
佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。
Twitter:@KurikoSato