コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第29回

2015年12月21日更新

佐藤久理子 Paris, je t'aime

「スター・ウォーズ」世界最速公開のフランス、テロ警戒中でも大行列

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フランスで現地時間の12月16日、世界最速で「スター・ウォーズ フォースの覚醒」が一般公開された。なんだってまたフランスが最速なんだ? とお怒りの方もいるかもしれないが、悪しからず。フランスは毎週水曜日が新作封切りと決まっているので、それにのっとったものと思われる。そんなわけでこの日は朝から新聞、ラジオ、テレビはスター・ウォーズの話題でもちきりだった。たった2日でも早く映画を見たいからと、アメリカから飛んできた観光客もいたという。

パリ市内のメトロでは、約3週間前から全車両をSWのデコレーションで覆ったSW号も登場。もちろんファッション・ブランドやグッズなどのタイアップ・コラボも登場し、ショーウィンドウをSWで飾ったブティックも少なくない。パリ市内で最大の2702人を収容する大型スクリーンを備えた名物シネコンとして知られるLe Grand Rexでは、ネットで予約できるにもかかわらず、テロの余波で依然警戒態勢が続く中、初回から長い行列ができた。

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フランスでは外国語映画の場合、通常はよほど子供向けのアニメ以外は字幕上映が主流である。だがSWはファミリー層を意識したのか、フランス語吹き替え版の館が多い。ただし、初日の映画館の客層を見る限り、主流は20~40代の大人が目立つ印象だ。ちなみに筆者は初日の午後の回を鑑賞したのだが、字幕版だったせいか、メインは30代ぐらいの大人だった(平日の昼間なのに!)。始まる直前、はしゃいでいた子供たちにある男性客が、「子供たち、映画が始まったら静かにするんだぞ!」と一喝していた声がいかにも真剣そのもので、その意気込みに思わず場内に笑いが起こるなど、さすがは10年ぶりの新シリーズの開幕とあって、緊張と高揚感が入り混じった特別な雰囲気が漂っていた。内容についての言及はここでは控えるが、ハリソン・フォードが登場するシーンでは一斉に拍手が沸き起こっていたことも付け加えておこう。

ちなみにパリとその近郊における初回の動員数は1万6400人。これは「スパイダーマン3」「007スペクター」「スターウォーズ エピソード3 シスの復讐」に続く歴代4位だという。この数字に果たしてテロの影響があったのかどうかはわからないが、いずれにしろシリーズ最高の興収が予想されている作品だけに、今後どれだけ伸びるか注目したい。

リベラシオン紙の一面とSWコラボのスニーカー
リベラシオン紙の一面とSWコラボのスニーカー

さまざまなメディアでSW特集が組まれるなか、いかにもフランスらしいと思ったのは、ELLE誌の11月27日号に掲載された「STARMANIA」という記事だ。多くの人気シリーズのなかでなぜSWだけが別格の人気を誇るのかを分析したもので、それまでのハリウッドにはなかった完全なるファンタジー・ワールドの構築や壮大な神話性といった要素とともに、ファッションへの影響があげられていた。たとえばレイア姫のドレープたっぷりの衣装など、エピソード4~6の旧3部作に見られる“レトロ・フューチャリズム”は、ステラ・マッカートニーやニコラ・ゲスキエールら現在40代のデザイナーに影響を与え、ひいては今のファッションにもインスピレーションをもたらしているという。またフランスのエレクトロ・デュオ、ダフト・パンクの被りものは、ダース・ベイダーのマスクやC-3POを彷彿させるとか。たしかに彼らはみんな“ジェダイ世代”、要するに子供心にスター・ウォーズに覚醒させられたジェネレーションなのだ。

すでに四半世紀以上にわたってシリーズが断続的に続くなかで、SWのキャラクターたちがもはやポップ・アイコンとして根づいたのも頷ける。そう考えると、文化的な遺産という意味でも、本シリーズは特別なのかもしれない。(佐藤久理子)

筆者紹介

佐藤久理子のコラム

佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。

Twitter:@KurikoSato

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