コラム:佐藤久理子 Paris, je t'aime - 第25回

2015年8月26日更新

佐藤久理子 Paris, je t'aime

レズビアン描く新作が公開 フランスのLGBT映画の現状は?

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日本で公開中の「彼は秘密の女ともだち」で、先日フランソワ・オゾンにインタビューをしたときのこと。欧米のLGBT映画の話題になり、「フランス映画界がアメリカなどと比べLGBTネタに寛容だとは思わない」と語っていたのが印象的だった。そう言われると、たしかにあまりこれといって代表作が浮かばない。

70年代に大ヒットした「Mr.レディMr.マダム」は、ホモセクシュアルをかなりグロテスクに戯画化していたし、「ペダル・ドゥース」や「メルシィ!人生」はコメディだ。「愛する者よ、列車に乗れ」は、フランスで50万人の動員を超えるヒットになったが、これはむしろ監督パトリス・シェローの名前と、ジャン=ルイ・トランティニャンを始めとする豪華キャストのおかげだろう(しかもLGBTがテーマというわけでもなかった)。最近だと、ジャリル・レスペールの「イヴ・サンローラン」とベルトラン・ボネロの「Saint Laurent」がそれぞれ正面からホモセクシュアリティを取り上げていたが、とくに前者はソフトに美しく描かれていた。

オゾンは先出の新作について、「女装をする人々が必ずしもホモセクシュアルとは限らない」と前置きをしつつ、フランスで最近認められた同性愛の結婚に対する過激な反対意見にショックと怒りを覚えたことが本作に影響を与えたこと、そして女装趣味の主人公に観客がなるべく感情移入できるように気を使ったと語っていた。

こうしてみると、アブデラティフ・ケシシュの「アデル、ブルーは熱い色」の登場は、画期的だったかもしれない。とくにこの作品が2013年のカンヌ国際映画祭でパルムドールに輝き、審査員長のスティーブン・スピルバーグに絶賛され世界に知れ渡ったことは、業界関係者に大きな影響をもたらしたと言えるだろう。レズビアンのテーマをここまで率直に扱うことも、ラブシーンをここまで大胆に見せることも、フランスの一般的な商業映画としてはほとんどなかったのだから。

公開中の新作「La belle saison」
公開中の新作「La belle saison」

そしてこの映画の影響をあらためて考えさせるような新作が、いまフランスで公開されている。カトリーヌ・コルシニの「La belle saison」という作品だ。70年代初頭、地方の農家からパリの大学にやってきたレズビアンのデルフィーヌ(「サンバ」のイジア・イジュラン。歌手のジャック・イジュランの娘)が、活動家のキャロル(セシル・ド・フランス)と出会う。キャロルはストレートで彼氏もいたが、やがてデルフィーヌと恋に落ち、ふたりは激しく愛し合うようになる。

特定の人物の伝記映画ではないものの、ウーマンリブの時代を背景に、当時の社会状況、またパリと地方の格差などをリアリスティックに描いている。あまり知られていないだけで、当時は彼女たちのように、閉鎖的な時代のもとで日陰の人生を生きた女性たちが少なからず居たのかもしれない。ちなみに片方はレズビアンではないのに、たまたま好きになったのが女性だったというところは、「アデル、ブルーは熱い色」と同じ。それにしても、あの作品の成功がなければ、ここまで赤裸々な作品が全国規模の商業ベースに乗せられたかどうかは疑問だろう。

コルシニ監督自身、レズビアンとして知られており、現代はより自由になったと思うかという質問には、「以前より人々が自分のセクシュアリティを隠すことは少なくなったかもしれないが、いま再び反動の時代を迎えて、ゲイの人々の苦悩が減ったとは思わない」と語っている。本作は批評家からも支持されているだけに、果たして今後、フランス映画界にどんな影響を与えるのか、見守りたい。(佐藤久理子)

筆者紹介

佐藤久理子のコラム

佐藤久理子(さとう・くりこ)。パリ在住。編集者を経て、現在フリージャーナリスト。映画だけでなく、ファッション、アート等の分野でも筆を振るう。「CUT」「キネマ旬報」「ふらんす」などでその活躍を披露している。著書に「映画で歩くパリ」(スペースシャワーネットワーク)。

Twitter:@KurikoSato

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