コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第256回
2014年6月18日更新
第256回:全米でヒット!シャイリーン・ウッドリーの青春映画が持つ魅力とは?
今、全米で大ヒットしている青春映画「The Fault in Our Stars」は、日本では「さよならを待つふたりのために」というタイトルで出版されているヤングアダルト小説の映画化だ。メインのターゲットはおそらくティーンから20代の女性なので、僕なんかは完全に対象外なわけだけれど、それでもおおいに感心したのでご紹介したい。
物語の主人公はシャイリーン・ウッドリー演じるヘイゼルという16歳の女の子だ。13歳のときに甲状腺がんが肺に転移したため、以来、酸素ボンベを手放せない生活を余儀なくされている。ある日、彼女は母の強い勧めで、がん患者の若者が集う集会に参加させられる。そこで、ガス(アンセル・エルゴート)という年上の青年に言い寄られる。闘病で片足を失ったものの、破天荒で自信に満ち溢れたガスに、ヘイゼルは心惹かれていくことになる――。
そう、これは日本でもちょっと前に流行った闘病モノだ。でも、いかにもお涙頂戴という重苦しい雰囲気はまったくない。ヘイゼルにとってがんは日常の一部であるため、残された人生が少ないことをいまさら嘆くよりも、自分が死んだときに周囲を傷つけてしまうことを心配しているほど。ガスとも距離を置こうとするのだが、持ちまえのカリスマ性と包容力で懐にすっと入り込んできてしまう。がんというシリアスな設定が加わっているものの、基本的にはガール・ミーツ・ボーイのラブストーリーなのだ。
先日取材した際に、作家のジョン・グリーンが言っていたのだけれど、これまでの闘病モノはたいてい健康な人の視点で描かれている。主人公の恋人や友人が重い病にかかり、やがては死亡する。その人の生き様——というか死に様——を見て、主人公はなんらかの教訓を得る、というのがいつものパターンであるという。つまり、死亡する友人や恋人は、主人公にとって教訓を与える存在でしかない。それはフェアじゃないということで、闘病する本人を主人公に据えた物語を紡ぐことにした。その答えが、ハートとユーモアに溢れたたこの物語だったのだ。
「トワイライト」や「ハンガー・ゲーム」、「ダイバージェント」と、アメリカではヤングアダルト小説を原作にした映画がつぎつぎとヒットを飛ばしているけれど、いずれも超常現象やSFやアクションといった要素に依存している。でも、「The Fault in Our Stars」は等身大のラブストーリーで、映画の中盤で大きなツイストはあるものの、重要なメッセージが込められた良心的な作品だ。こんな映画が大ヒットを飛ばしているのを見ると、なんだかとても幸せな気分になる。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi