コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第253回
2014年4月17日更新
第253回:新作プレゼンではハリウッドセレブが登場! シネマコン潜入レポート
シネマコンというイベントに参加するために、ラスベガスに行ってきた。シネマコンとは、全米劇場所有者協会(NATO)が主催するコンベンションだ。意見交換を行うためにセミナーや、映画館のシートやポップコーンマシン、自販機など興行主向けの新商品の展示会などさまざまな催し物が4日間にわたって行われるが、最大の目玉は各映画会社によるラインアップ発表会だ。今年はワーナー、ディズニー、フォックス、ユニバーサル、ソニー、パラマウントというメジャースタジオに加えて、「トワイライト」や「ハンガーゲーム」などのヤングアダルト向けシリーズで急成長を遂げたライオンズゲートがプレゼンテーションを実施。ここでのプレゼンによって劇場公開館数に影響が出るから、各スタジオは未公開のフッテージを見せたり、出演者に挨拶をさせたりして、興行側に必死にアピールするのだ。
ユニバーサルのプレゼンテーションでは、最近はめったに取材を受けなくなったアンジェリーナ・ジョリーが壇上に登場。監督第2作「Unbroken」への熱い思いを訴えたうえで、特別フッテージを披露した。この「Unbroken」という作品は、第2次世界大戦中に日本軍の強制収容所に収容されたアメリカ人のオリンピック選手の自伝をもとにしていて、脚本をコーエン兄弟、撮影はロジャー・ディーキンスと、超一流のスタッフを集めている。ただ、フッテージを見た限りは、強制収容所を舞台にした「それでも夜は明ける」的なストーリーのため、日本人にとっては居心地の悪い映画になりそうだ。
さて、セレブの動員数で他社を圧倒したのは、最多の制作本数を誇るワーナーだ。「トランセンデンス」ではジョニー・デップとモーガン・フリーマン、「ブレンデッド(原題)」ではドリュー・バリモアとアダム・サンドラー、「ジュピター」ではチャニング・テイタムとミラ・クニスと、フッテージ上映のたびに大物スターが登壇。最大の喝采を浴びたのは、最新作「ジャージー・ボーイズ(原題)」の紹介のために登場したクリント・イーストウッド監督で、スタンディングオベーションで迎えられたほどだ。
4日間にわたっていろんな新作のフッテージを見たけれど、個人的に驚いたのは、マシュー・ボーン監督の新作「ザ・シークレット・サービス」だ。「キック・アス」の原作者マーク・ミラーの再タッグで、私設のスパイ組織を描くコメディタッチのアクション映画だ。披露されたのは、新人の勧誘にやってきたコリン・ファース演じるスパイが、飲み屋でごろつきたちと対決する場面だ。「英国王のスピーチ」のオスカー俳優が、漫画的なアクション演出で悪者を倒していくさまは新鮮で痛快だった。
実はシネマコンにじっくり参加したのは今回がはじめて。新作映画のフッテージが公開されて、セレブが大挙して訪れるという点では、サンディエゴで毎年夏に行われるコミコンと似ている。でも、あっちはオタクたちが作り上げたファンイベントであるのに対し、こちらは業界団体の集まりだから、参加者の年齢はずっと上だし、それほどの熱狂もない。罪の街ラスベガスで行われていることも加わって――発表会が行われる会場を出れば、タバコの臭いが漂うカジノが広がっている――、コミコンの純粋な映画愛を懐かしく思うこともあった。でも、シネマコンはプロが取り仕切っているからつつがなく進行するし、過剰な混雑もないし、なにより体臭のきつい若者がいない。コミコンに参加したら、きっとシネマコンを懐かしく思うに違いない。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi