コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第248回
2014年2月13日更新
第248回:童心を忘れてしまった大人に… 「LEGO(R) ムービー」の魅力とは?
たぶんこの仕事をしていなかったら、「LEGO(R) ムービー」なんてきっとスルーしていたと思う。レゴだけで出来上がった世界を舞台にした長編映画というアイデアは大胆だけど、いかにも子ども向きだ。それでも映画を観ることになったのは、幼い子どもがいるのでレゴが身近な存在であるうえに、取材がサンディエゴにあるテーマパーク、レゴランドで行われるので、バケーション気分を味わえるという下心があったからだ。
さて、「LEGO(R) ムービー」の主人公エメットは工事現場で働く職人のひとりだ。彼らは抜群のチームワークで立派なビルを建てていくが、夕方になるとそのビルは破壊され、翌日、同じ作業を繰り返す毎日を過ごしている。
エメットはマニュアルがないとなにもできない独身男で、友だちも恋人もいない。しかし、このどこにでもいる普通の青年が、伝説のヒーローに間違えられたことがきっかけで、冒険の旅に出ることになる。そして、レゴ世界を破滅から救うという、重すぎる責任を背負う羽目になるのだ。
都会からはじまり、西部劇、海賊モノ、中世といろんなレゴ世界に舞台が移っていく。登場人物もDCコミックのバットマンやスーパーマンから、「スター・ウォーズ」のキャラクターまでやたらと豪華。また、彼らをネタにしたジョークが大量に詰め込まれている。
でも、所詮、登場人物も舞台もレゴだ。普通に作っていたら、大人の鑑賞に堪える作品にはなっていなかっただろう。
成功要因のひとつは、フィル・ロード&クリス・ミラー監督(「くもりときどきミートボール」、「21ジャンプストリート」)が、Hero’s Journeyと呼ばれる古典的プロットを採用したことだ。「オズの魔法使」や「スター・ウォーズ」のように、主人公が冒険の旅に出て、恩師や仲間と出会い、試練を経て成長し、もとの世界に戻ってくるパターンだ。とくにこの映画は「マトリックス」と似ている。主人公が選ばれし者とされる点や、トリニティ似のワイルドスタイルという女性に導かれ、モーフィアス的なヴァーチュヴィアスという謎の老人と会うところも同じ。独創性はないかもしれないが、荒唐無稽なごった煮映画であるがゆえに、誰もが成り行きを知っているお馴染みのパターンは、どっしりとした安心感を与えてくれる。
また、ネタバレになるので詳しい言及は避けるけれど、映画の後半になって、それまでのナンセンスな出来事が意味をなしてくる。これまた別の映画でも採用されている仕掛けではあるけれど、この展開を機に「LEGO(R) ムービー」はいきなりエモーショナルな感動ドラマに昇華するのだ。
なにより、映画を貫くテーマがいい。これはマニュアルに頼ってきた主人公エメットが、新たなものを生み出す喜びを見いだす物語だ。しかも、エメットの発明品は決して傑作ではなく、誰もが呆れるようなガラクタばかり。しかし、そのガラクタがきっかけとなって、事態が改善していく。
たとえどんなに下らないアイデアであっても、必ず次に繋がっていく。だから、すべてのアイデアを大事にすべきだ――。「LEGO(R) ムービー」は創造性を育むこと、想像力を羽ばたかせることの重要性を教えてくれる。
このメッセージは、いまレゴに夢中になっている世代もちろんのこと、童心を忘れてしまった大人にもきっと響くはずだ。
「LEGO(R) ムービー」は、3月21日から全国で公開。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi