コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第194回
2012年8月24日更新
第194回:エマ・ワトソン最新作で振り返る青春
先日、青春映画の「The Perks of Being a Wallflower」をようやく見ることができた。「ハリー・ポッター」のハーマイオニー役を卒業したエマ・ワトソンの新作として注目されている作品だけど、僕が楽しみにしていた理由は別にある。大好きな小説の映画化だったからだ。
「ウォールフラワー」という小説に出合ったのは、2000年のこと。ヤングアダルト向け小説の傑作として近所の書店で平積みされていて、軽い気持ちで手に取ったのがきっかけだった(アマゾンと電子書籍の普及で、今ではほとんどの書店が消えてしまったけれど、当時はまだどこにでもあった)。書簡形式になっていて、高校に入学したばかりのチャーリーの告白が綴られていく。シャイで目立たない傍観者の主人公が、年長者のサムとパトリックに気に入られたことから、見知らぬ世界に足を踏み入れることになる。初恋や親友の死、魂を揺さぶる音楽や文学との出合いなど、等身大の主人公のパーソナルだけど激動の1年間が描かれている。
この小説を読んだときの僕はとっくに対象年齢から外れていたけれど、それでも大いに共感できた。もしも10代のときに出合っていれば、苦悩に満ちた日々をもっと楽に過ごせたのに、と悔しさがこみ上げてきたほどだ。その後、知り合いの編集者に売り込み、日本語版の翻訳をさせてもらった経緯がある。
それから10年あまりの年月が流れ、ようやく映画版が完成した。ベストセラー小説にも関わらず、ここまで時間がかかってしまったのは、原作者が自らの手で映画化を望んだからだ。原作のスティーブン・チョボウスキーは、僕と同じ南カリフォルニア大学映画学科の出身で、「ウォールフラワー」を出版したあと、「RENT/レント」の脚本やテレビドラマの「ジェリコ~閉ざされた街~」の企画・製作総指揮をやっている。「ウォールフラワー」以降、小説は書いていないので、これは彼にとって自伝的な物語なのだろう。
さすが原作者が脚本・監督を手がけているだけあって、心象風景からサントラまで小説の世界が忠実に再現されている。なにより素晴らしいのが、キャスティングだ。主人公チャーリー役のローガン・ラーマン(「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」)と、兄貴分であるパトリックのエズラ・ミラー(「少年は残酷な弓を射る」)はまさにイメージ通り。憧れの上級生サム役に起用されたエマ・ワトソンはお嬢様すぎるのではないかと心配だったけれど、アメリカの高校生を見事に演じていた。
ただ残念なことに、僕は映画をあまり楽しめなかった。物語を知り尽くしているせいか、いちいち原作と比較してしまうのだ。さらに、原作と出合ってから10年の歳月が過ぎ去っていることも大きい。40歳になってしまった僕は、もはやこの題材に魅力を感じなくなってしまっていた。この映画を楽しめる若者がうらやましいけれど、あのころになんか決して戻りたくない。そんな風に感じる僕は、きっと幸せなのだろう。そんなことを考えながら、スクリーンを見つめていた。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi