コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第190回
2012年7月25日更新
第190回:ハリウッドでフランチャイズ映画がつくられるワケ
「大ヒットすると、その映画はスタジオにとって重要な資産となってしまう」
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のプロデューサーで共同脚本家でもあるボブ・ゲイルは、かつて同作の続編を手がけることになった理由をこう説明した。「バック・トゥ・ザ・フューチャー」には続編の計画はなかったが、彼とロバート・ゼメキス監督が断れば、スタジオは別のクリエイターに続編をつくらせることになる。世界的なヒットとなった時点で続編は不可避となり、彼らには参加・不参加の選択肢しか残されていなかった。かくして、続編2作を引き受けることになったというのだ。
この話を聞いたとき、ハリウッドがどうしてこんなにも続編を生産するのか、そして、なぜ続編はおうおうにして質が劣るのか――個人的には「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」の倒錯した世界は好きだけれど――、すとんと納得できたことを覚えている。スタジオにとって映画つくりはビジネスであるから、ヒット映画をフランチャイズ化するのは、不確かな映画市場において確実な資産活用法なのだ。
近年、各スタジオがフランチャイズ映画への依存をますます強めるなかで、続編以外の展開が増えている。シリーズが長く続けばキャストのギャラが高騰するし、だんだんと飽きられていく。そんな場合は、「アメイジング・スパイダーマン」や「トータル・リコール」のようにリブートという形でリセットすればいいし、物語が完結してしまったら、「ホビット」や来年公開の「モンスターズ・ユニバーシティ」のようにプリクエルと呼ばれる前日譚を描けばいい。スタジオ側もいろいろと工夫しているのだ。
最近、特に僕が感心したのは、「ボーン・レガシー」だ。
「ボーン・レガシー」は、“ボーン”シリーズの最新作だ。フランチャイズの少ないユニバーサルとしては、ぜひとも同シリーズを継続させたいところだが、大きな問題が2つもあった。まず、第3弾となる前作「ボーン・アルティメイタム」でストーリーが完結してしまっている点。さらに、これまで主人公を演じたマット・デイモンが離脱してしまった点だ。通常ならば、別の役者を起用して、プリクエルをつくったり、あるいはリブートするところだろう。しかし、ユニバーサルは大胆な手法を選ぶ。前作「ボーン・アルティメイタム」と同じ世界を舞台にしつつ、別のスパイを主人公にした物語を作ったのだ。
3部作の主人公ジェイソン・ボーンは、人体実験でつくられた強化スパイである。実は、アーロン・クロス(ジェレミー・レナー)という別の強化スパイもいて、その彼が同時期に起こしていた別の騒動を描くという、ちょっとややこしい設定なのだ。同じ物語世界、同じ時代で、別のキャラクターを描くというのはなかなか斬新なアイデアだと思う。
「ボーン・レガシー」が大ヒットになれば、続編がつくられるのはもちろん、スタジオにとってフランチャイズ化の選択肢が増えることになる。その意味でも、「ボーン・レガシー」の興行成績には注目している。
「ボーン・レガシー」は、9月28日から全国で公開。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi