コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第186回
2012年6月26日更新
第186回:新作の勢いが止まらぬウッディ・アレン監督に直撃インタビュー!
先日、新作映画「To Rome With Love(原題)」で、ウッディ・アレン監督に取材をすることができた。「To Rome With Love」は、ローマを舞台にしたロマンティック・コメディで、ペネロペ・クルスやジェシー・アイゼンバーグ、ロベルト・ベニーニ、エレン・ペイジ、アレック・ボールドウィン、さらにアレン監督自身もひさびさに役者として出演している。詳しい内容は日本公開が未定なので控えるとして、インタビューをかいつまんでご報告。
近年、ウッディ・アレン監督は新作を立て続けに発表しているけれど、映画祭やニューヨークで取材を受けることが多いので、ロサンゼルスを拠点としている僕なんかにはめったにお目にかかれない存在だ。実際、今回はキャリアで初めての取材である。
そもそも生粋のニューヨーカーで、ロサンゼルスを毛嫌いしていたはずのアレン監督が、「プリティ・ウーマン」の舞台としても知られるビバリーヒルトン・ホテルで取材を受けてくれること自体が珍しい。だって、アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞にいくらノミネートされても、一貫して出席を固辞しているくらいだ。でも、アレン監督によれば、今のロサンゼルスはそれほど嫌いではないという。
「初めてロサンゼルスにやってきたのは50年代後半で、当時はどこにいってもまともな食事ができなかった。でも、今はトップレベルのレストランだらけだ。長い時間をかけて、ようやく楽しい街になった。だから、数日過ごすには最高だ。美術館に行って、友達と会って、いいレストランで食事を楽しむ、という。でも、ここに住むのはぜったいに無理。毎朝、目を覚ます度に、あの太陽が待ち受けていると考えただけで、とても生きていけない(笑)」
もともとニューヨークを舞台とした映画を得意としていたアレン監督は、「マッチポイント」から物語の舞台をヨーロッパに移している。外国資本が出資国での撮影を条件に、資金提供をしてくれるようになったことがきっかけで、アレン監督にとっては「幸運なアクシデント」だったという。
ただし、出資さえしてくれればどの国でも撮影オーケーというわけではない。これまでにロンドン、バルセロナ、パリ、ローマをロケ地に選んでいることからも明らかなように、3カ月におよぶ撮影期間中、アレン監督が退屈しない街であることが第1条件だ。交通機関が発達していて、文化的な刺激があって、おいしいレストランがなくてはならない。
第2の条件は、その都市にあったストーリーをアレン監督が考案できるかどうかだ。たとえば、かつてブラジルからラブコールを受けたものの、適切なストーリーを思いつけないために、実現しなかったという。
3つ目の条件は、アレン監督に完全な自由を提供できる器量があるかどうかだ。アレン監督は、作品に対する口出しを一切受け付けない。実際、脚本すら見せてくれないので、出資者はどんな映画が出来上がるのか見当もつかないのだという。
さて、ロケ地は変わったものの、ウッディ・アレン作品にはシニシズムが共通していると、アレン監督は言う。
「『マッチポイント』は、殺人してうまく逃げおせる男の話。『それでも恋するバルセロナ』では、主人公の女性のひとりは退屈な結婚生活、もうひとりは満足できる相手を見つけられずに終わる。『ミッドナイト・イン・パリ』では、オーウェン・ウィルソン演じる主人公が、どの時代に暮らしていようとも、別の時代をうらやましく感じるものだと悟るようになる。つまり、これまでのキャリアで、僕は人生の否定的な側面をふれまわっているんだ。人生とは、決して満足感が得られるものではなく、悲劇のような体験だとね」
とはいえ、アレン監督は巨匠としての名声を楽しんでいるという。
「有名になるとろくでもないことがたくさん起きる。でも、ひどいことよりも素晴らしいことがある。だから、選択の機会があるなら、有名になることをおすすめするよ(笑)」
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi