コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第169回
2012年2月10日更新
第169回:ダニエル・クレイグ、念願のフィンチャー作品は理想を越えた傑作
「ドラゴン・タトゥーの女」で敏腕ジャーナリストのミカエルを演じるダニエル・クレイグに取材することになった。しかし、取材場所のビバリーヒルズにあるモンタージュ・ホテルについても、肝心のクレイグはいない。それもそのはず、彼はいまロンドンでシリーズ最新作「007 スカイフォール(原題)」の撮影中である。そこで、衛星回線を通じたテレビ中継インタビューとなったのだ。
実はこのところ取材場所に当人不在のケースが多く、この日は「マリリン 7日間の恋」でスウェーデンにいるケネス・ブラナーとスカイプで取材。また、先日も「ザ・グレイ(原題)」という映画で、ロンドンのリーアム・ニーソンにスカイプでインタビューした。インターネットの発達のおかげで多忙なスターを簡単に捕まえられるようになったわけだけれど、テレビモニター越しのインタビューはやっぱり変な感じがする。
ただ、こうしたインタビューだからこそ、普段の取材では見ない姿を目撃することがある。たとえば、「ドラゴン・タトゥーの女」のテレビ中継取材に登場したクレイグは、はっきりいって疲弊しきっていた。目の下に隈を作り、無精髭を蓄えている。笑顔を作る心の余裕すらない。聞いたところによると、昨夜の撮影が朝の9時まで続いて、2時間半の睡眠しか取っていないという。
それでも、「ドラゴン・タトゥーの女」に関する質問は饒舌に答えてくれた。彼がこの作品に出演を決めたのは、以前からデビッド・フィンチャー監督の大ファンだったからだという。フィンチャー監督は、ひとつのショットに何十テイクも費やす完璧主義者として知られ、役者にとっては厳しい存在だが、その見返りはとてつもないほど大きいという。
「はじめて完成した映画を見たとき、最初にデビッドにかけた言葉は『ありがとう』だったんだ。誰もが理想の映画を実現するために計画を立てるが、それが実現することはめったにない。しかし、そこには計画通り、いや、それ以上の作品が出来上がっていた。この映画をものすごく誇りに思っているよ」
ダニエル・クレイグは6代目ジェームズ・ボンド役となるが、ボンド役のイメージに囚われた前任者たちとは異なり、「007」以外でも活躍している稀有な役者である。
「たしかに、まだ『ダニエル』と呼んでもらえているのは、とてもラッキーなことだと思う。ただ、あの役をオファーされたとき、タイプキャストされることに不安を感じなかった。もし、ジェームズ・ボンドとしてイメージが一生ついて回ったとしても、世の中にはもっとひどいことがあるわけだし。幸い、僕はたくさんの作品に挑戦する機会をもらえている。過去2年ほどのあいだに、カウボーイ映画をやり、この映画をやり、おまけにモーション・キャプチャーにまで挑戦することができた。バラエティ豊かで、とても充実した経験をさせてもらっているね」
最後に「007 スカイフォール(原題)」の内容について聞いてみた。
「これから撮影に6カ月も費やすのに、この場でストーリーを言ってしまったら、すべてが台無しになってしまう(笑)。現時点で僕が言えるのは、とても美しくて、とてもエキサイティングな映画ということだ。テンポが早くて、とてもボンド的な映画になるはずだ」
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi