コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第143回
2011年7月20日更新

第143回:空前の成功を収めた「ハリー・ポッター」、続編へのゴーサインはなし?

(C) 2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. HARRY POTTER PUBLISHING RIGHTS (C) J.K.R. HARRY POTTER CHARACTERS, NAMES AND RELATED INDICIA ARE TRADEMARKS OF AND (C) WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
「ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2」を鑑賞した。ぼくは原作を1冊も読んだことがないのに映画版は欠かさず観ているという半端な立場なのだけれど、この映画のエンディングには胸のすく思いがした。主人公たちの成長を見届けた感動はもちろん、映画史上最大のヒットシリーズがこれほど潔く最期を迎えたという事実そのものが、ハリウッドでは奇跡に近いからだ。
「ハリー・ポッター」シリーズは、映画興行やホームビデオ、関連グッズを合わせると、これまでに200億ドルという莫大な利益をスタジオにもたらしている。ハイリスクの映画ビジネスにおいて、ここまで確実に利潤を生み出してくれる資産は他にはなく、人気はまだまだまだ衰えていない。ハリーの子供たちを主人公にした新シリーズや、若き日のヴォルデモートを描く前章、または、同じストーリーをフレッシュな役者でリブートするという手もある。テレビ化して、魔法学校を舞台にしたティーンドラマをやるのも面白い。商機はいくらでもあるのだ。おそらくこうした安直な手段で生まれた映画なりテレビは、それまでの作品の質には及ばないだろうが、「ハリー・ポッター」の名前を冠していれば、ヒットは間違いない。

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しかし、現時点においてこれらの馬鹿げたプロジェクトはひとつも進行していない。唯一、準備が進んでいるのはテーマパーク事業で、昨年、フロリダのユニバーサル・スタジオ内にオープンしたテーマパークの拡張と、全8作の撮影が行われたロンドンのリーブスデン・スタジオを一般に開放し、観光名所に変えようという計画のみだ。
空前の商機を前にスタジオが指をくわえているのは、原作者のJ・K・ローリングが立ちはだかっているためだ。これまでも「ハリー・ポッター」の関連グッズの開発やタイアップ広告などに関しても、ローリングは消極的な立場を取ってきた。ファンを大切にしてきた彼女が、いまさら物語世界を壊しかねないプロジェクトにゴーサインを出すはずもない。もし、金銭的なモチベーションがあれば妥協の余地もあるかもしれないが、なにしろ彼女は世界一のベストセラー作家である。もし気が変わって続編を執筆することになれば、映画化はありえるが、すべてはローリング次第。他のフランチャイズとは異なり、スタジオの思い通りにはいかないのだ。
「レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語」や「エラゴン」「ダレン・シャン」「ライラの冒険 黄金の羅針盤」といった作品がすべて失敗したことからも分かるように、「ハリー・ポッター」はファンタジー小説の映画化に成功した稀有な例である。しかも、映画史を見渡してみても、これほどの統一感とクオリティを兼ね備えているシリーズはほとんどない。今後、半端な続編が生み出される可能性は極めて低いから、この8作品がファンタジー映画の古典として引き継がれていくのだろう。それはとても素敵なことだと思う。
筆者紹介

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi