コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第139回
2011年6月22日更新
第139回:キャメロン・ディアスが魅力的な理由
キャメロン・ディアスの最大の武器は、思いきりの良さだと信じている。あの通りの素敵なルックスだし、裏表のないオープンな人柄も魅力である。でも、直感を頼りに果敢にチャレンジする姿勢がなければ、演技経験ゼロで映画界に飛び込んだ彼女が、トップに登り詰めることなんてなかったと思うのだ。その性格は作品選びに如実に反映されていて、たとえば、ジュリア・ロバーツやサンドラ・ブロックを見習って、無難なロマコメと賞狙いのシリアスドラマの2本柱で安定したキャリアを築けばいいのに、ディアスはけっこう冒険家だ。その試みが成功した場合には、「メリーに首ったけ」や「マルコヴィッチの穴」のような話題作となるけれど、敢えなく失敗に終わるケースが多かったりする。
最新コメディ「イケない先生」(ジェイク・カスダン監督)は、間違いなくディアスにとっての冒険作だ。今回の役どころは公立学校の教師。タイトルからも明らかなように、模範的な教師とはほど遠い。教育にも子供たちにもまるで興味がなく、授業では「スタンド・バイ・ミー」や「デンジャラス・マインド 卒業の日まで」といったビデオを見せて、居眠りしている。彼女にとって最大の関心事は玉の輿に乗ることであり、授業時間は美しい美貌を保つための貴重な睡眠時間なのだ。同作は、婚約者にふられて貧乏になった女性教師が、裕福な男性を求めて婚活に励むという、ちょっとクセのあるコメディ映画なのだ。
ディアス自身、「イケない先生」の脚本を読んだとき、主人公に反感を覚えたという。
「最初の30ページを読んで、『こんな役なんて無理!』って思ったわ。悪いことばかりしてるくせに、反省の色がまったく見られないから、共感なんてできなくて。でも、それから10ページほど読んだら、彼女のワルぶりに心惹かれるようになってきた。責任だとかモラルとかを完全に無視して、言いたいことを言って、やりたいことをする。そんな悪い女を演じるのは、悪くないかもって思えてきたの」。
教師を主人公にした映画の場合、たとえば「スクール・オブ・ロック」のように人格に問題がある人物であっても、普通は生徒との交流に重点が置かれるものだ。しかし、「イケない先生」は斬新である。生徒との交流はほとんど描かれず、ジャスティン・ティンバーレイクやジェイソン・シーゲル、ルーシー・パンチといった個性派が演じる同僚たちとのドタバタが中心。主人公が豊胸手術の資金調達のために生徒を利用するなど、ブラックな笑いに満ちたR指定コメディに仕上がっている。
「こういう映画って、悪者は映画のラストになって、突然改心するものじゃない? でも、この映画では主人公はほとんど成長しない。そこがクールだなって思ったの」。
アメリカ的な笑いが詰まっているためか、あいにくこの作品は日本で劇場公開されない。でも、キャメロンにはこのまま冒険を続けていって欲しいと思う。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi