コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第132回
2010年12月17日更新
第132回:2人の日本人がVFXスタッフとして参加した「トロン:レガシー」
ハリウッドで活躍する日本人というと、渡辺謙さんや真田広之さんのような役者さんを思い浮かべてしまいがちだけれど、実はハリウッド作品にスタッフとして参加している日本人も少なくない。これまでピクサーをはじめ、ドリームワークス、ウォルト・ディズニー、ILMなどのスタジオを訪問取材させてもらって実感するのは、いずれの会社も外国人スタッフを多く抱えているという事実だ。日本出身者の占める割合は決して高くはないものの、各社にかならず一人はいる。国籍を問わず有能な人間を積極的に採用するのが、アメリカの映画産業なのだ。
この冬、世界で同時公開となるSF超大作「トロン:レガシー」には、なんと2人の日本人が参加している。この作品の目玉となるVFXにおいてテクニカル・ディレクターを務めた、坪川拓史さんと三橋忠央さんだ。2人は、ジェームズ・キャメロン監督とスタン・ウィンストンが立ち上げたVFX工房デジタル・ドメイン所属。これまで数多くの話題作を手がけてきたデジタル・ドメインにとっても、映画の約75%がVFXで、しかも3Dという「トロン:レガシー」は未曾有の挑戦だったという。
坪川さんが手がけたのは、主人公が迷い込むコンピューター世界の自然現象だ。
「ぼくが担当したのは、ライトサイクルが壊れて爆発するところのVFXと、トロン世界に広がる雲や雷、霧といった大気のエフェクトです。こういった要素が、この世界をリアルなものにしていると思うんです」
一方、三橋さんは「トロン:レガシー」の目玉ともいえる、クルーの創造を手がけた。クルーとは、ジェフ・ブリッジス演じる主人公が若き日に生み出したプログラムで、30代のブリッジスの容姿を完璧に再現している。
実は、デジタル・キャラクターの創造は、三橋さんが得意とするところだ。「マトリックス・リローデッド」や「マトリックス・レボリューションズ」で、ネオやエージェント・スミスのデジタル・キャラを手がけたのち、デジタル・ドメインで「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」に参加。年を重ねるごとに若返るブラッド・ピットを手がけた。しかし、「トロン:レガシー」には手を焼いたようだ。
「『ベンジャミン・バトン』で作ったテクノロジーを改良していったんです。人間の顔の再現ってとても難しくて、ちょっとでも違うとおかしく見えてしまう。80歳のブラッド・ピットは誰も観たことがないけれど、30代半ばのジェフ・ブリッジスは誰もが知っているわけで、ものすごく狭いターゲットを当てなきゃいけなくて、大変でしたね」
担当箇所は違っても、2人ともデジタル技術を駆使してリアリティの再現を追求しているところが面白い。
最大の見所は、映画のクライマックス場面だと2人は声を揃える。ぜひ、スクリーンで彼らの力作を堪能してほしいと思う。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi