コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第123回
2010年3月23日更新
第123回:さらに間隔が短くなる? 劇場公開とホームビデオのリリース
ついこのあいだ、一時帰国した。いつもは10時間あまりのフライトが辛くてたまらないのだけれど、エコノミー席のわりには映画のラインアップが充実していたおかげで、あまり退屈せずに済んだ。日本に到着するまでのあいだに、「2012」や「プレシャス」、「ニュームーン トワイライト・サーガ」、“Fantastic Mr. Fox”など、見過ごしていた作品を一気に鑑賞できた。どれも昨年秋に全米公開された作品だから、劇場公開からまだ数カ月しか経っていない。もし、頻繁に飛行機に乗る人だったら、もう映画館に行く必要がないんじゃないかと思えるほどの充実ぶりだった(もっとも画面は小さいし、轟音のなかでの鑑賞になるので、劇場体験にはとても及ばないのだが)。
実は同じことがホームビデオの世界でも起きようとしている。もともとホームビデオのレンタル/販売は、劇場公開から半年経過したあとに行われるのが慣例となっていたが、90年代後半にDVD市場が大きくなるにつれて間隔が短くなり、いまでは劇場公開から4カ月後がスタンダードとなっている。
そして、いま「アリス・イン・ワンダーランド」を配給するディズニーはさらに1カ月短縮しようとしている。3月5日に全米公開がスタートしたばかりの「アリス・イン・ワンダーランド」は、6月上旬にDVDとブルーレイが発売されることになるのだ。
当然のことながら、ディズニー側の動きに劇場主側は危機感を募らせている。現在、ラスベガスで行われている映画の見本市ShoWestでもこの話題で持ちきりのようである。なぜ劇場の怒りを買ってまで、ディズニーはDVDの発売を急ぐのか?
海賊版対策やキャッシュフローの改善などいくつかの理由があるようだが、主な要因はDVDセールスの急激な落ち込みと見られている。劇場公開からそれほど期間を空けずにDVDを発売すれば、映画の宣伝効果が残っているため、売上げアップが期待できる、というわけだ。
ただし、DVDのセールスが上がっても、観客動員が激減してしまっては意味がない。だからこそ、ディズニーと同じ問題を抱える他のスタジオは、「アリス・イン・ワンダーランド」の興行成績に注目していたのだ。
蓋を開けてみれば、「アリス・イン・ワンダーランド」は1億1630万ドルという驚異的な興行記録でデビューを飾っている。ジョニー・デップ&ティム・バートン監督の人気コンビによる作品である点や3Dである点、大作映画の少ない季節に公開されたことなどが影響したと思われるが、とりあえずは劇場公開とDVD発売との間隔を詰めても興行には悪影響を与えないことが証明されたことになる。今後、他のスタジオがディズニーを追従するのは間違いなさそうだ。
筆者紹介
小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を運営するゴールデングローブ協会に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開された。ブログ「STOLEN MOMENTS」では、最新のハリウッド映画やお気に入りの海外ドラマ、取材の裏話などを紹介。
Twitter:@miraikonishi