コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第74回

2024年12月28日更新

編集長コラム 映画って何だ?

2024年公開の映画から、個人的な「今年の10本」をご紹介

2024年をふり返ってみると、前年に引き続き外国映画が不作だった1年だと思います。2023年のハリウッドのストライキの影響が尾を引いています。果たして、ハリウッドは元に戻れるのか、今ひとつ確信が持てない中で年末の賞レースをウォッチしています。そして、今年も自分が見た映画の中から特に印象に残った10本を選んでみました。あくまで個人的なセレクションです。

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●「デューン 砂の惑星 PART2

「PART1」を凌ぐ見事なクオリティでした。ドゥニ・ビルヌーブ監督によるクリエイションが、キャリアの中でもピークに達していると感じます。キャスティングにも隙がないし、物語も重厚だし、何よりもVFXの仕上がりが圧倒的です。しかし残念なのは、北米での興行成績に比較すると、日本での成績があまりに残念なレベルにとどまっている点でしょう。シリーズはもう1作あります。大ヒットで締めくくっていただきたいですね。

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●「関心領域

惨劇が繰り広げられるアウシュビッツ収容所の隣の敷地で、何不自由ないブルジョワ的な生活を満喫する一家を描くという、その発想に舌を巻きました。シュールで哲学的で、ところどころ不思議な、実にA24らしい映画です。5年ほど前に旅行でアウシュビッツを訪れた記憶とシンクロし、強烈な印象を抱きました。アカデミー賞で2部門受賞しましたが、「音響賞」に輝いた点が素晴らしいです。派手に音を鳴らすことなく、観客に恐怖を聞かせるという希有な演出に痺れました。

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●「ブラッド・スウェット&ティアーズに何が起こったのか?

ドキュメンタリーは3本選びました。まずは1960年代にアメリカで活躍した後、突如シーンから消えてしまった人気バンド、ブラッド・スウェット&ティアーズの光と影に迫るこの案件。米ソが冷戦を繰り広げていた年代、ロックバンドを使って東欧諸国の思想的な懐柔を企んだニクソン政権の行為には驚きしかありません。これまで明らかにされなかった歴史の裏側を垣間見ることができる非常に貴重なドキュメンタリーです。

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●「スカイウォーカーズ ある愛の物語

これはNETFLIX案件。命綱なしで超高所に登り、命がけで撮ったエクストリームな写真をSNSにポストして人気を得る若きカップルのドキュメンタリーです。2人のターゲットは、マレーシアのクアラルンプールに建築中の高さ678メートルの「ムルデカ118」という超高層ビル。警備態勢が手薄になると踏んで、カタールW杯の決勝アルゼンチン対フランス戦の日を決行日と決めて準備が始まります。綿密なロケハンと侵入のリハーサルに費やされる日々は、まさに「インフルエンサーの苦行」。しかし、建物への不法侵入は犯罪行為。見る者の倫理観とトレードオフな映画でもあります。

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●「どうすればよかったか?

これは日本のドキュメンタリー。父と母、娘と息子の4人が主人公。統合失調症を患った娘と、その治療法をめぐる家族の判断に関する総括が「どうすればよかったか?」という題名に反映されています。スタイルはファミリームービーですが、とてつもない重さを伴ったファミリームービーです。正直、映画鑑賞ではこれまでに感じたことのないレベルの衝撃を覚えました。上映館では満席が続いているところも多く、ドキュメンタリーとしては異例のヒットとなっています。

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●「侍タイムスリッパー

異例のヒットと言えば、「侍タイムスリッパー」にも触れないわけにはいきません。安田淳一監督が、「カメラを止めるな!」の成功事例を研究し、私財を投じて完成させた時代劇コメディです。「カメラを止めるな!」にならって、池袋のシネマロサ1館で興行をスタートし、口コミで徐々に上映館数が広がっていくプロセスはお見事というしかありません。ヒットは決して「異例」ではなくて、戦略ありきだったんだと。あとは賞関係ですね。第48回日本アカデミー賞でのパフォーマンスに興味津々です。

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●「八犬伝

小学生の頃、NHKの人形劇は欠かさず見ていました。「ひょっこりひょうたん島」「ネコジャラ市の11人」そして「新八犬伝」あたりです。世代的に、玉を集める冒険譚といえば、「ドラゴンボール」じゃなくて、「八犬伝」なんです。「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌。いざとなったら珠を出せ、力が溢れる不思議な珠を」という主題歌を脳内で再生しながら楽しみました。

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●「ナミビアの砂漠

これは、山中瑶子監督のカンヌ案件ですね。中東やアフリカ、南米などのインディペンデント映画が好きなので、タイトルからして興味津々でした。しかし、ロケーションはほとんどが東京で、まったくナミビアが出てこない。拍子抜けしながらも、ヌーベルバーグ風味の青春映画を堪能しました。女ひとりに男(彼氏)ふたりという設定で、主演の河合優実が「やり切った感」を見せつつも、「全然ヘビーじゃないし」って雰囲気をスクリーンから放っていました。

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●「あんのこと

こっちは、「やり切った感」と「ヘビーな感じ」が共存した河合優実の主演作です。観客の共感と同情をガンガン集めながら、決して観客をハッピーにしないストーリー。何とも複雑な余韻を残す映画でした。入江悠が監督と脚本です。コロナ禍における人々の描き方も絶妙でした。これも賞レースに絡んできそうな案件ですね。

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●「瞳をとじて

最後は、パーソナルな思い出を喚起させてくれた映画をピックアップ。ビクトル・エリセ監督の「瞳をとじて」です。監督の前作「マルメロの陽光」の日本公開時、私はフランス映画社で宣伝のお手伝いをしていました。エリセ監督が来日し、プロモーションを行った時、テレビ番組へのブッキングと収録の立ち会いを担当したのです。長編映画としては、それ以来31年ぶりの新作。当時のことを色々思い出しながら、本編の最初から最後まで感無量状態で見ていました。「ミツバチのささやき」のアナ・トレントも顔を出していましたね。

以上が、個人的な2024年の10本です。とっても偏った10本ですが、ご興味を持っていただけたら幸いです。映画館で見逃した作品は、配信などで見られる物も多いので、是非ご覧になってみてください。

2025年も、たくさんの素晴らしい映画に出合えることを期待しています。

筆者紹介

駒井尚文のコラム

駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。

Twitter:@komainaofumi

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