コラム:編集長コラム 映画って何だ? - 第33回
2020年7月30日更新
映画祭ロスは続く。混沌とする20〜21年賞レース
2020年の7月がまもなく終わろうとしていますが、相変わらず、ワークフロムホームな日々は続いています。私の場合、週に1回ほど出社しますが、映画.comのオフィスには誰もいないことが多い。
でも、デスクの上には相変わらずたくさんの試写状が届いています。映画会社の皆さんは、変わらず元気そうです。
最近の試写状には、「オンライン試写の用意もございます」との案内が必ず添えられていて、私ももっぱらオンラインでの鑑賞がメインになりつつあります。
そう言えば今年は、カンヌ映画祭もオンラインでの開催でした。コンペもなし。
期間中、マーケットに出品された映画を数本オンラインで見ましたが、やはりかなりの違和感を覚えました。「こんなのカンヌじゃない」。ビーチもなければ、パームツリーもない。レッドカーペットもない……いや、そういうことじゃなくて、クオリティが「カンヌじゃない」。
例えば去年(19年)のカンヌだったら、列に並んで上映を待ってる間「『パラサイト』が凄かったよ」とか、「『レ・ミゼラブル』はもう見たのか?」なんて各国のバイヤーやプレスが評判の映画を口々に語りあっています。カンヌでBuzzってる映画は見逃すわけにはいきません。これから始まる賞レースをリードする存在になる可能性が高い。
カンヌが終わり、夏の8〜9月は、ベネチア映画祭とトロント映画祭のシーズンです。19年は「ジョーカー」が両方の映画祭を席巻しました。これと、トロント映画祭で観客賞を受賞した「ジョジョ・ラビット」が、オスカーレースのフロントランナーでしたよね。
そんな賞レースに向けた動きが、今年は未だ見られません。何しろ、映画祭そのものがリアルに実施されない。
と、ここまで書いたところで、ベネチア映画祭2020のラインナップが発表されました。
しかし、コンペ作品は恐ろしく地味です。
アモス・ギタイ(イスラエル)やアンドレイ・コンチャロフスキー(ロシア)、マジッド・マジディ(イラン)など、それなりに実績のある監督の名前が見つかりますが、だいぶ物足りない。
ハリウッドメジャーは、ソニーが1本、サーチライトが1本。意外なことに、NETFLIX作品は1本もありません。日本からは黒沢清監督の「スパイの妻」が選ばれました。
いずれにしても、Aクラスの映画祭常連監督たちは、揃って「一回休み」を決め込んだなという印象です。今年は、カンヌもベネチアもパスして、来年以降で仕切り直そうと。
20年のベネチア映画祭は9月2日から。トロント映画祭は9月10日から、いずれも、リアルとバーチャル(オンライン)を併用して行われるようです。
しかし、リアル部分の映画祭は、本当に行われるのでしょうか? 半信半疑です。行われたところで、もちろん私は行きませんし、世界中の多くの映画人も同じだろうと思います。そう、参加者も「一回休み」。
そんなワケで今年は、オスカーに至る賞レースのトラック上を走っている馬は、まだ一頭もいない状態。空前のlow-keyな賞レースになるんじゃないかと思います。
極端な話、タイとかベトナムとか、コロナ感染者の少ない国の映画が、オスカーかっさらって行く可能性もなくはない。いろいろ妄想は膨らみます。しかし、候補作はオスカーに至る各国の映画祭、映画賞で人気と評価を重ねていくのが常なので、そうしたサードワールド勢力が突如として受賞するのも考えにくい。昨年の「パラサイト」にしても、カンヌのパルムドール受賞から、半年以上の長い道のりを経てオスカーに至っています。
ひとつだけ確実なのは、NETFLIXや、Amazon Studio、Apple+といった資金潤沢な配信プラットフォームが、ガチでオスカー作品賞を狙ってくるだろうということ。これだけライバルの少ない年もめったにない。まあ、もちろん彼らにしても、それなりに高クオリティの映画を作らなければ(あるいは購入しなければ)、参戦資格はないのですが……。
とにかく、現時点ではまったく読めません。20〜21年の賞レース。とてもエキサイティングな結果になるか、とても残念な結果になるか、どっちかな気がします。
それはそれとして、早く映画祭の現場に戻りたいと心から思います。今年は一度も映画祭に行ってない。全然映画を見ていない。
……しかし昨今の日本、世界の感染者の数値を見るに、現実は厳しいと言わざるを得ません。世界の映画祭が元の姿に戻り、我々が海外出張に行けるようになるまで、あと2年ぐらいかかるかもしれませんね。
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駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。
Twitter:@komainaofumi