コラム:細野真宏の試写室日記 - 第9回

2018年8月2日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第9回 「ミッション:インポッシブル」。とことん限界に挑んでいったら、過去最高傑作に?

2018年7月17日@TOHOシネマズ日比谷(マスコミ完成披露試写会)

今年の夏休み映画は盛り上がりそうだという予感が、確信に変わろうとしていたのは、「劇場版コード・ブルー ドクターヘリ緊急救命」、「インクレディブル・ファミリー」、そして、出来たばかりの「ミッション:インポッシブル フォールアウト」を見てからでした。

もともと期待していた作品がそうでもなかったことから、少し不安はあったのですが、この3本を立て続けに見て、これはいけると期待が持てました。

正直に言うと、今回の「ミッション:インポッシブル フォールアウト」には、そこまで期待はしていませんでした。

それは、同シリーズとしては異例の、監督続投が決まっていたからでした。

これまでの「ミッション:インポッシブル」シリーズというのは、過去5作は、

(そもそもの本当の理由はわかりませんが)「毎回、監督を変えることにより、作品ごとに演出が異なる」という大きな特徴がありました。

私は、「インクレディブル・ファミリー」の回でも書いたように、「ミッション:インポッシブル」シリーズでは4作目の「ゴーストプロトコル」の出来が一番良かったので、そのままブラッド・バード監督が続投となればだいぶ期待値も高かったのです。しかし5作目の「ローグ・ネイション」は、ここ数年(おそらく2012年の「アウトロー」以来)トム・クルーズと非常に仲の良さそうなクリストファー・マッカリー監督(以下、マッカリー監督)が担当し、個人的には、少し残念な作品になってしまいました。

そして、今回の6作目「フォールアウト」では、トム・クルーズの判断でなぜか初めてマッカリー監督の続投が決まり、その時点での私のテンションは少し落ちていました……(笑)。

ところが、試写の前に映画の資料を読んでいると、少し気になる記述がありました。

マッカリー監督の談話で「もう1度監督をしてくれとトムに言われたとき、私が伝えたのは、監督は引き受けるが、伝統を引き継いで、前作とは全く違う映像スタイルに変えるということだった。『ローグ・ネイション』と『フォールアウト』を観た人が、あたかも異なる監督が作った映画だと思うようにしたかった」とあったのです。

画像1

確かに、これは正論ですが、果たして「前作とは全く違う映像スタイルに変える」ということが同じ監督で可能なのだろうかと、半信半疑のまま映画を見ましたが、驚きました! 本当でした。

前作の退屈さが消えて、約2時間半、まったく退屈することなく画面に引き込まれてしまったのです!

「どうせブラッド・バード監督の4作目には到底及ばないだろう」と高をくくって見ていましたが、見事にいい意味で予想を覆してくれました。

一体、何が起こったのかを、整理してみます。

これまでの「ミッション:インポッシブル」(以下「M:I」)シリーズとは違うものが大きく2つありました。

「M:I」シリーズの売りは、第4作目の「ゴーストプロトコル」ではドバイにある世界一の超高層ビル「ブルジュ・ハリファ」(828メートル)によじ登ったり、5作目の「ローグ・ネイション」では離陸するエアバスA400Mアトラス輸送機のドアにしがみついたりと、トム・クルーズが「命がけの危険すぎるアクションシーン」を実際に本人がやっていることです。これが、4作目以降は顕著にありました。

ところが、今回の6作目の「フォールアウト」では、あり得ないほどに「命がけの危険すぎるアクションシーン」が連続しています。

要は、かつての「M:I」シリーズ数本分にも匹敵するような壮絶なアクションシーンが今回は1本の映画の中にあったのです!

よく足の骨折だけで済んだな……とさえ思ってしまうほど壮絶なものばかりです。

おそらく、普通のアクション系の俳優なら、身代わりのスタントマンを入れたりして、こういうシーンを作ることは可能なのかもしれませんが、ビッグネームのトム・クルーズ本人がここまで命がけのアクションシーンに果敢に挑む気迫には誰も勝てないと思います。

これほどの挑戦を実現できたのは、やはりトム・クルーズとマッカリー監督の信頼関係が大きかったからなのかもしれません。

画像2

もう1つの違いは、「ミッション」です。「M:I」シリーズでのミッションのレベルは、本作が一番高いかもしれません。

そもそも「M:I」シリーズというのは、「不可能なミッションを成し遂げる」ことに意味があるのですが、「不可能を超える」というのは、ハードルが高すぎるわけです。

今回は、これまでのどの作品よりも「チーム力」が試されるようなギリギリのミッションになっていて、ひょっとすると、これ以上のシチュエーションを作り出すのは極めて難しいのかもしれません。

(とは言え、このパターンの作品も別の映画では見かけるので、パターン化を避けたい「M:I」シリーズではより困難になりそうです)

いずれにしても、トム・クルーズの最大の当たり役である「M:I」シリーズでは、今回の手法は見事にはまりました。

ただ、この路線に舵を切ったとなると、今後の「M:I」シリーズの関心事が大きくなってきます。

一般に人は年をとっていきます。そうなると、どこまで「命がけのアクション」が可能になっていくのか?

今回の最新作が非常に面白かったのは、その一般的な流れとは逆に、むしろ徹底的に過去最大級にまでアクションシーンを増やしたところです。

その意味で、次回作はどうなるのか早くも興味深いのです。

総括すると、現時点での「M:I」シリーズの最高傑作は2本で、1本目は4作目の「ゴーストプロトコル」。これは、命がけのアクションに加えて、「Mr.インクレディブル」などでCGはお手のものとなったブラッド・バード監督による近未来的な作風のパターン。

そして、もう1本の最高傑作になった本作のように、ひたすら「本物」にこだわり、身体的な限界にまでトム・クルーズが挑戦していくパターン。

次回はどうなるのか、さらに、その次は?と、人間の限界に挑むトム・クルーズの「M:I」シリーズからはますます目が離せなくなってきました。

画像3

ちなみに、映画は「世界の技術革新の先を行く存在」でもあるので、やはり私はブラッド・バード監督の再起用にも期待してしまいます。

ブラッド・バード本人に聞いたところ「自分なりの『ミッション』を作れたかなという気持ちはある」としつつ、「作っているときに、スパイ映画でどうしてもやりたかったことってある?と聞かれて。もちろんあるよ!って6つをリストに挙げて、そのうち5つを形にすることができた」とのことでした。

その実現した1つは、「最新鋭の非常にクールなスパイのツールが、機能しない」という楽しいものでしたが、このテクノロジーの斬新さも「M:I」シリーズの醍醐味なので、その「近未来的なもの」と「アクション」のバランスが今後の最大の注目点となりそうです。

この「M:I」シリーズの興行収入は、なぜか日本では安定していて50億円を切ったことがないので、競争相手が多いとは言え「ミッション:インポッシブル フォールアウト」の興行収入50億円突破は、もはや必達のミッションですね(笑)。

今回は前作と監督が同じだからか、前作での敵キャラなどが出てくるので、より楽しむためには前作の人物相関図くらいは頭に入れておいたほうがいいと思います。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来14年連続で完売を記録している『家計ノート2024』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2024年版では「物価高騰時代にお金を増やす方法」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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