コラム:細野真宏の試写室日記 - 第60回
2020年2月6日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
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第60回 試写室日記 「ヲタクに恋は難しい」。福田雄一監督作品が「通常の恋愛映画」を壊すと日本ではどういう反応が起こるのか?
2020年1月23日@東宝試写室
2019年は日本の映画の興行収入は歴代最高を記録しましたが、2018年はちょっと邦画に元気がなかった印象でした。
それの要因には、「各社が似たようなお手軽な恋愛映画を安易に粗製乱造してしまった」というのがありました。
「恋愛映画」は若い女性層を中心に需要があるのは確かなのですが、どこの映画会社もこぞって参入すると観客側も飽きてしまうので共倒れをしていました。
ただ、その反省が活かされてきて「本数がかなり限られてきた」上に、それぞれが「工夫」を加えてきているので、「恋愛映画」の需要を上手く取り込むことに成功し、2019年では「かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦」の興行収入が22.4 億円を記録したり、「午前0時、キスしに来てよ」の興行収入が約11億円を記録していたりと、作品の出来はさておき、再び結果を出し始めています。
そんな中、さらに「新たな工夫」を加えた作品が今週末2月7日(金)公開の本作「ヲタクに恋は難しい」でしょう。
この作品で私が最初に驚いたのは、邦画の好調ぶりを牽引している「フジテレビ映画」だったことです。
私の記憶が確かなら、これまでの福田雄一監督作の映画は「フジテレビ映画」とは無関係だったと思うので、「この組合せって実現するんだ」と意外性に驚きました。
たぶんバラエティー番組を除けば、私も見ていたフジテレビの土曜深夜ドラマで堂本剛主演の“この簡単な事件、オレが33分もたせてやる!”の「33分探偵」以来でしょうか?
思えば、この頃から私は福田雄一作品が気に入っていたようです。
ひょっとしたら、フジテレビの「ノイタミナ」枠で「ヲタクに恋は難しい」のアニメ版が放送されていたようなので、それも少し関係があるのかもしれませんね。
何にしても、この面白い組合せは私の中では非常に興味深く、どれだけの相乗効果が出るのだろうかと期待しています。
今でこそ福田雄一監督は「エンタメ界のヒットメーカー」と紹介されていますが、実際のところ映画業界においては、テレビ東京×ワーナーの「銀魂」シリーズだけは突出していますが、2017年の「斉木楠雄のΨ難」はギリギリ興行収入10.0億円、2018年の「50回目のファーストキス」は興行収入12.6億円と、まだまだこれからの面もあるわけです。
まず、本作「ヲタクに恋は難しい」の出来ですが、私は非常に良いと思っていて、「斉木楠雄のΨ難」と「50回目のファーストキス」は超えている印象です。
「恋愛映画」ではありますが、「工夫」としては、「ヲタク」を題材にしているところ、そして、日本ではヒットしやすい「ミュージカル映画」の要素を存分に取り入れた異色な作品になっている点などが挙げられます。
福田雄一作品と言えば、福田組の筆頭の佐藤二朗、ムロツヨシは当然の如く登場し大いに笑わせてくれますが、「どうせいつもの福田組の映画だろう」と冷めた感じで捉える人も出始めているように思います。
ただ、常連の佐藤二朗、ムロツヨシはあくまで“ちょい役”のスパイス的な存在であって、メインは新たに育ってきている主演の山崎賢人、その脇を支える賀来賢人などで、福田組は大きく進化し続けています。
しかも、もう一人の主演の高畑充希は「女子―ズ」以来の福田組の参加ですが、特に高畑充希の上手さは際立っています!
私が初めて高畑充希を知ったのは2007年の「ドルフィンブルー フジ、もういちど宙(そら)へ」という映画で、その時は“男の子なのか女の子なのかよく分からない”役で、「みつき」という名義で主題歌も担当していましたが、肝心の作品の出来自体は残念な感じだったので、あまり印象には残りませんでした。ところが「女子ーズ」「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」「DESTINY 鎌倉ものがたり」「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」あたりから存在感を発揮してきて、まさに本作「ヲタクに恋は難しい」で女優・高畑充希の才能を爆発させています!
演技も抜群に上手いですし彼女の演技がなければ、この「ヲタクに恋は難しい」の実写化は不可能だったのではないか、と思えるレベルでした。
また、ミュージカル「ピーターパン」でピーターパン役を務めるなど、歌もかなり上手いので、本当に適役だったと思います。
本作で唯一の難点というか要望としてあるのが、ミュージカルシーンはいいのですが、歌にも、ちょいちょいヲタク用語が入ってくるので聞き取れなかったりする点ですかね…(笑)。
できたらミュージカルシーンでは字幕を入れてもらえると、より良かったような気もします。
ただ、判別できないところがある分、「より気になる」という面はあるので、案外その面からもリピーターが増えそうな気もしています。
正直、作品自体の出来は良く、何回見ても飽きないレベルなので。
ちなみに、ミュージカルシーンの作曲編曲は、あの「新世紀ヱヴァンゲリヲン」シリーズの鷺巣詩郎が担当しています!
さて、肝心の興行収入ですが、今年に入ってから邦画の実写の元気がないので、まずは興行収入15億円は景気よく突破してほしいところですが、この異色な福田雄一監督作がどういう反応になるのか興味津々です。
あと、私は最終に近い試写日程の回に行ったのに「エンドロールの一部がまだ未完成の状態」というアナウンスがありました。どう見ても普通に完成していたので、これが何を意味するのか少し気になっています。
ひょっとしたら「続編決定!」とかだと嬉しいのですが(笑)。
本作の終わり方は、これはこれで良かったんですが、正直、「まだまだこの2人のやり取りを見ていたい」と思っていた自分がいたので。
果たして、公開後に何か発表があるのかどうかも含めて大いに注目したいと思います!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
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Twitter:@masahi_hosono