コラム:細野真宏の試写室日記 - 第55回

2020年1月15日更新

細野真宏の試写室日記

映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。

また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。

更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)

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第55回 試写室日記 「ジョジョ・ラビット」。本年度アカデミー賞の作品賞ノミネート作で、戦争をシリアスでなく大胆にユーモアを交えて描いた良作!

2019年12月20日@FOX試写室  配給元:ディズニー

一昨日1月13日(月)にアカデミー賞のノミネート作品の発表がありました。

ジョーカー」の最多ノミネート(11部門)も含めて、ほぼ想定通りでしたが、アカデミー賞関連作品の公開時期については、今後の日本ではどうなっていくのか注目ですね。

さて、このアカデミー賞のタイミングに合わせ、先週末から「フォードvsフェラーリ」や「パラサイト 半地下の家族」といった「アカデミー賞の作品賞ノミネート作」の公開が行なわれているわけですが、今週末の1月17日(金)もその流れが続きます。

私が本作「ジョジョ・ラビット」で最も注目していたのは、「FOXサーチライト作品」である、ということでしょうか。

「FOXサーチライト作品」は、小粒ながら本当に良質な作品が多く、近年では毎年1、2作がアカデミー賞に絡んでくる、といった印象です。

今年は、まさに「ジョジョ・ラビット」がそれで、本作は期待通り、作品賞、助演女優賞(スカーレット・ヨハンソン)、脚色賞、編集賞、美術賞、衣装デザイン賞といった6部門でノミネートされました。

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実際に見てみても、やはり本作も良質な作品で、第2次世界大戦下のドイツを舞台に、10歳のジョジョ少年の一家をメインに描いています。

「第2次世界大戦下のドイツ」というと、「ユダヤ人を徹底的に暗殺するヒトラー」の印象が強いですが、本作もまさにそれが大きなテーマとなっています。

ただ、そういう映画はこれまでにも無数にあるのですが、本作には「圧倒的な存在感」があります。

それは、タイカ・ワイティティ監督によって、通常はシリアス路線にならざるを得ない題材を、「かなり大胆にユーモアたっぷりに描かれた独特な戦争映画」となっているからです。

例えば、ヒトラー時代のドイツにおいては、「ヒトラーのカリスマ性によるドイツ国民の熱狂ぶりが、まるでビートルズの来日映像のよう」ですよね。そういった比喩的な映像表現を駆使することで、シリアスな内容でも、気軽に見ることができる作品となっています。

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本作における、その比喩的な表現の最大の特徴は、ジョジョ少年にとっては“頭の中だけの象徴的な存在のはずのヒトラー”が「ジョジョのパートナー」として映像で登場する、という点でしょう。

主人公ジョジョの頭はヒトラーのことでいっぱいなので、ジョジョの頭の中での会話のはずが、映像ではジョジョとヒトラーが2人で会話し、基本いつでも一緒にいるわけです。

こういった表現は賛否両論あると思います。ただ、私は、この“振り切った試み”は大成功だと思っています。

なぜなら、「重いテーマを重いだけの表現」ばかりしていると、そのテーマを知る層が狭められてしまう、という欠点があると思うからです。

その一方で、こういう「重いテーマを軽いテイストで見られる」という選択肢もあると、より戦争に対する教育的な効果は広がると思っています。

つまり、この映画は、ただ単に「ユーモアだけの軽い作品」ではなく、重いテーマにも果敢に挑んでいるのです!

画像3

そこで、ジョジョの母親役である助演女優のスカーレット・ヨハンソンの役割が重要になってきて、「戦争とは?」「人種差別とは?」など、いろんな重要なテーマを「言葉」というより、「物語り」として自然に考えさせてくれます。

演技の面では、アカデミー賞で助演女優賞にノミネートされたスカーレット・ヨハンソンは言うまでもなく、ゴールデングローブ賞で主演男優賞にノミネートされたジョジョを演じたローマン・グリフィン・デイヴィスの演技も、とても「映画初出演」とは思えないほど良かったです。

また、ジョジョの教育担当のクレンツェンドルフ大尉を演じたサム・ロックウェル(2017年の「スリー・ビルボード」という「FOXサーチライト作品」でアカデミー賞の助演男優賞を受賞)も良い味を出していました。

さらには、「ヒトラー」をタイカ・ワイティティ監督自身が演じている点も面白い要素としてありますね。

画像4

脚本については「パラサイト 半地下の家族」と同様に「ネタバレ厳禁」要素もあるくらいに、意外性のある物語りになっています。

このように「物語りと設定の大胆な構造」×「演技派による好演」によって、本作もまた後世に残る「FOXサーチライト作品」の代表作となったのは間違いないでしょう。

これは単なる私の直感ですが、この作品は特に女性層に受けが良いように思えます。(もちろん、男性層にも、ですが)

さて、肝心の興行収入ですが、女性層に受けが良さそうなことを考慮すると、「FOXサーチライト作品」で小粒ではありながらも、アカデミー賞効果もあって、興行収入5億円は行けるのでは、という気がします。

同じ「FOXサーチライト作品」で、2015年のアカデミー賞にて9部門と最多ノミネートされ、作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞という主要部門を総なめにした名作「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」ですら、アカデミー賞の結果発表後に公開されたにも関わらず日本での興行収入は4億3405万円と5億円に行かなかったので、公開規模も150館程度でそれほど多くないことを加味すると、まずは興行収入5億円突破できるかどうかが大きな焦点でしょうか。

いずれにしても、「戦争」の影が世界にちらつく今は、ますますこういう作品の意味合いは大きいと思うので、この斬新な映画を堪能する人がどんどん増えていってほしいところです。

筆者紹介

細野真宏のコラム

細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。

首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。

発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!

Twitter:@masahi_hosono

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