コラム:細野真宏の試写室日記 - 第37回
2019年8月22日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
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第37回 「ロケットマン」VS「おっさんずラブ」。映画でこの分野がメジャー作品になる現代は面白い! 後編
2019年8月13日@東宝東和試写室、8月19日@東宝試写室
夏休み映画が好調な中、今週の金曜日(8月23日)から公開される「ロケットマン」と「劇場版 おっさんずラブ LOVE or DEAD」も、また面白そうな動きをしそうです。
まず、そもそも「おっさんずラブ」は、2016年末にテレビ朝日の関東ローカルの単発ドラマでしたが、それが2018年4月期に深夜ドラマとして生まれかわり、全7話の平均視聴率が4.0%でした。
視聴率的には決して成功とは言い難いのですが、回が進むにつれSNSを中心に盛り上がり、全く存在を知らなかった私でさえもネットニュースなどで頻繁に目にするほどになり、遂に映画化まで決まりました。
映画本編の撮影のスタートは2019年3月末からで、2日間の強行スケジュールでの香港ロケも経て、4月末にクランクアップ!
この「スピード感」は流石としか言いようがないのですが、一方で“ブームが冷めないうちに”と「制作期間を短くしようと急げば急ぐほど、脚本・映像等のクオリティーが落ちる」という仕方のない面も出てきます。
その意味では、「『劇場版 おっさんずラブ LOVE or DEAD』と、世界のエルトン・ジョンが人生をかけたようなハリウッド大作『ロケットマン』を比べるな」といったお叱りの声もあるでしょうが、確かに映画のクオリティーとしては、その通りなのかもしれません。
ただ、映画というのは万人のためにあるもので、たとえ出来が劣っていたとしても、観客が喜ぶのであればいいのではないでしょうか。
実際に、「えっ、これって一般試写じゃなくてマスコミ試写だよね?」と疑ってしまうくらい、観客の反応は良くて、正直、驚きました。
タイトル通り、出てくるのは基本「男性」ばかりなのですが、ドラマ版で観客の頭の中では世界観が出来上がっているようで、女性を中心に作品や登場人物に入り込む反応が絶えないのです。
しかも、私の隣に座っていた人もかなり反応が良かったのですが、試写が終わってチラ見したら男性だったので、男性もハマる人にはハマるんだな、と思いました。
確かに田中圭、吉田鋼太郎、林遣都といったメインの役者は、普段見せないような良い演技をしていましたし、ゲストの志尊淳もなかなか良い味を出していました。
さて、「ロケットマン」は「ボヘミアン・ラプソディ」と同様に、“おっさんずラブ要素”があるのは知っている人は知っている有名な話ですが、深夜ドラマでならまだしも、メジャーな東宝の映画で「劇場版 おっさんずラブ」というタイトルは本当に凄いと思います。
未だに「LGBT」関連は騒がれたりもしますが、こういう何の偏見もないような自然体な様子を見ていると何だか嫌な政治臭が無く、時代は変わったな、と少しホッとします。
その意味でも、この2作品は応援したくなります。
勿論それだけの理由ではなく、経済的にも面白そうなのは、「VS」としたように、本当にどっちが日本では興行的に勝つのかが読めない面もあるのです。
当初は、「劇場版 おっさんずラブ LOVE or DEAD」を予備知識を排して見てみた際には、興行収入10億円行ければ十分だろう、と思っていました。
映画の出来としては、そのくらいが目途だと思っていたのですが、深夜ドラマの反応等を客観的に考えてみると、さらにファン層が広がって「コア層」が厚くなっている気がしてきています。
そこで、初速の勢いと共にコア層によるリピーターの出現を期待して、まずは興行収入15億円は行ってほしいと思っています。
その一方で、「ロケットマン」は、うまく日本市場にハマれば、かなり出来の良い作品なので「ボヘミアン・ラプソディ」のようにリピーターも増えるはずなのですが、うまくハマらない場合は、ちょうど1年前の「マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー」のように10億円規模で終わってしまう場合もあり得ます。
「ボヘミアン・ラプソディ」のファン層がそれなりに見に行ってくれたら、興行収入15億円は行けそうな気がします。
個人的には、両作品とも、ポテンシャルとしての興行収入は15億円~20億円程度はあると思っています。あとは、観客の反応次第でしょうね。
最後に余談ですが、エルトン・ジョンは、「ボヘミアン・ラプソディ」のフレディ・マーキュリーとは公私にわたり親交があり、1991年にフレディがAIDSで45歳で亡くなるなど、1980年後半から1990年前半にかけ多くの友人をAIDSで亡くしたことなどから、1992年に「エルトン・ジョン・エイズ財団」を設立して、シングルの全収益を寄付するようにしていて、すでに4億5000万ドル以上を寄付しています。そして、2030年にAIDSの撲滅を目指す目標を立てています。
エルトン・ジョンの魅力は、優れた音楽だけでなく、こういう社会貢献的な人柄にもあるのです。
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
発売以来15年連続で完売を記録している『家計ノート2025』(小学館)がバージョンアップし遂に発売! 2025年版では「全世代の年金額を初公開し、老後資金問題」を徹底解説!
Twitter:@masahi_hosono