コラム:細野真宏の試写室日記 - 第181回
2022年7月28日更新
映画はコケた、大ヒット、など、経済的な視点からも面白いコンテンツが少なくない。そこで「映画の経済的な意味を考えるコラム」を書く。それがこの日記の核です。
また、クリエイター目線で「さすがだな~」と感心する映画も、毎日見ていれば1~2週間に1本くらいは見つかる。本音で薦めたい作品があれば随時紹介します。
更新がないときは、別分野の仕事で忙しいときなのか、あるいは……?(笑)
試写室日記 第181回 「ジュラシック・ワールド」最終章 シリーズ30周年の“集大成”はどう見るのが正解?
今週末の7月29日(金)から「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」が公開されます。
ただ、アメリカでは約1カ月半前の6月10日から公開されていたりと、前評判は世界中で知られている状況となっています。
そこで、今回は「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」の位置付けと、見方について考察していきます。
そもそもの出発点は、1993年に公開された「ジュラシック・パーク」となっています。
つまり、30年間にも及ぶ壮大な物語に、ようやく「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」で終止符が打たれる、という位置付けになっているのです。
(ただ、将来的には再び何かしらの新作が作られる可能性があると伝えられています)
振り返ってみれば、すべての原点となる「ジュラシック・パーク」は、映画界に新時代をもたらした革新的な映画でした。
私にとって「ジュラシック・パーク」は“衝撃的”の一言につきる作品で、どうすればこんなものが作れるのか不思議で仕方ありませんでした。
それまでの恐竜は、着ぐるみが当たり前のイメージでしたが、「ジュラシック・パーク」では“生きた恐竜”が画面に存在していたのです!
CGは今の時代では当たり前の手法となりましたが、当時は衝撃的すぎて、ただただ画面の世界に圧倒されるばかりでした。
そんな時代を変えた「ジュラシック・パーク」は世界中で大ヒットを記録して、日本でも興行収入128億5000万円となっています。
当然これほどまでの作品であれば続編が作られ、「ロスト・ワールド ジュラシック・パーク」が1997年に公開され、日本では興行収入95億円を記録しています。
さらには、3作目の「ジュラシック・パークIII」も作られ2001年に公開され、日本では興行収入51億3000万円となっています。
とりあえず日本の興行収入を見ても、興行収入が落ち続けているのが分かります。
ただ、これは日本だけの話ではなく、世界的にも同様の動きをしているのです。
その理由については、次のRotten Tomatoesにおける批評家と一般層の評価を見てみると分かりやすいかもしれません。
●「ジュラシック・パーク」(1993年)
批評家92%/一般層91%/興行収入128.5億円
●「ロスト・ワールド ジュラシック・パーク」(1997年)
批評家53%/一般層51%/興行収入95億円
●「ジュラシック・パークIII」(2001年)
批評家49%/一般層36%/興行収入51.3億円 (2022年7月27日時点。以下同)
映画は、必ずしも完成度と興行収入が一致するわけではありませんが、「ジュラシック・パーク」シリーズについては、回を重ねるごとに完成度が落ち、出来と共に興行収入が落ちていったことがよく分かります。
このような流れがあったので、2015年に「ジュラシック・ワールド」としてシリーズが蘇ることには少し戸惑いがありました。しかも監督もコリン・トレボロウという、あまり実績のない人物。
ところが“百聞は一見に如かず”。鑑賞してみると驚きました。
映画業界では、超大作映画において「なぜこの監督?」と、起用に疑問を持つケースが少なからずあります。そして、本作のように、たまに良い意味で予想を裏切ってくれる監督が出現してくれるのが面白いところです。
1993年の「ジュラシック・パーク」の精神を見事にアップグレードしていて、映像センスも脚本も非常に出来が良かったのです!
メインキャストは、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」シリーズのクリス・プラットと、“ロン・ハワード監督の実の娘”でありながら決して親の七光りでは無いブライス・ダラス・ハワード。
キャストの知名度に頼り過ぎていない点も本シリーズでは重要なポイントです。
この「ジュラシック・ワールド」は当然、世界中で大ヒットし、日本でも興行収入95.3億円を記録しました。
そして、2018年に続編の「ジュラシック・ワールド 炎の王国」が公開されます。
日本での興行収入は80.7億円と、前作から2割弱ほど落ち込みました。
これは続編としては、想定内と言える落ち込みで、「健闘した」と言えそうです。
実際に世界興行収入では、16億7040万0637ドルから13億0491万8350ドルへと2割強の落ち込みとなっているからです。
ちなみに、Rotten Tomatoesでは以下のようになっていて、評価も下がっているようです。
●「ジュラシック・ワールド」(2015年)
批評家71%/一般層78%/興行収入95.3億円
●「ジュラシック・ワールド 炎の王国」(2018年)
批評家47%/一般層48%/興行収入80.7億円
では、日本で今週末に公開される「ジュラシック・ワールド」シリーズ最終章「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」に話題を移していきましょう。
鑑賞前の期待値はかなり高くなっていました。
何故なら「ジュラシック・ワールド」(2015年)と同様に、コリン・トレボロウ監督が再びメガホンをとることになったからです。
さらに「ジュラシック・パーク」シリーズからのキャストも合流し、まさに30年間の総まとめをしてくれるような壮大な作品になるのでは……と思っていました。
これについては、期待値を上げていた面があったのかもしれません。
興味深いのは、Rotten Tomatoesでは批評家が30%に対し、一般層は77%。批評家と一般層が6作目で初めて割れているのです!
そのため、日本ではどのように評価されるのか未知な面があります。
そこで、最後に日本での興行収入について考えてみます。
まず、アメリカを筆頭に「ジュラシック・ワールド 新たなる支配者」の世界興行収入は下がっています。
これは、「ジュラシック・パーク」シリーズ3部作と同様で、避けられない動きと言えるのかもしれません。
そのため、日本においても、ある程度は下がることを覚悟しておく必要がありそうです。
では、どのくらい下がると想定されるのでしょうか?
Rotten Tomatoesでの一般層の評価は77%と悪くないのですが、これには少しカラクリのようなものがあり、投票数が前作「ジュラシック・ワールド 炎の王国」よりも少ないことが要因として考えられます。
つまり、前作で見るのを止めてしまった人が出て、コアの支持層の評価が数字に、より反映される形になった、と言えそうなのです。
別の言い方をすれば、作品のファン層からすれば、「これまでのように面白い」という感想になる場合も少なくないと言えそうです。
確かに批評家は、出来の良い作品を求めるため、アラが見えてしまうと、ガッカリする人が多いのも現実です。
一方で一般層は、そこまで作品のアラを考えないで、映画を楽しむ傾向が強いと思います。
そう考えると、この作品は、「深く考えずに、感じる作品」として見るのが正解のような気がします。
上映時間が2時間27分と長いのが、映画館の回転率という視点からは不利になりますが、日本テレビ系列の金曜ロードショーで「公開直前の7月に2週連続で前2作品を放送」という援護射撃をしています。
しかも、金曜ロードショーでは、何気に「ジュラシック・パーク」シリーズも2021年9月に最初の2作品、2022年6月には「ジュラシック・パークIII」を放送するという、かなりの援護射撃をしているのです。
そのため、日本では前作から通常の2割程度の下げで済み、興行収入65億円くらいは維持できそうな気もしますが、これは日本のファンがどのように評価を下すのかにかかっていると言えます。
とりあえずの「30年間に及ぶ集大成的な作品」がどうなるのか、夏休み映画の行方と共に大いに注目したいと思います!
筆者紹介
細野真宏(ほその・まさひろ)。経済のニュースをわかりやすく解説した「経済のニュースがよくわかる本『日本経済編』」(小学館)が経済本で日本初のミリオンセラーとなり、ビジネス書のベストセラーランキングで「123週ベスト10入り」(日販調べ)を記録。
首相直轄の「社会保障国民会議」などの委員も務め、「『未納が増えると年金が破綻する』って誰が言った?」(扶桑社新書) はAmazon.co.jpの年間ベストセラーランキング新書部門1位を獲得。映画と興行収入の関係を解説した「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる!細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」(文春新書)など累計800万部突破。エンタメ業界に造詣も深く「年間300本以上の試写を見る」を10年以上続けている。
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Twitter:@masahi_hosono