コラム:やっぱり、映画館で見たい! - 第2回
2020年8月11日更新
第2回:グランドシネマサンシャイン・下井一洋支配人
新型コロナウイルスの猛威の影響から、政府による緊急事態宣言を受けて日本全国ほぼ全ての映画館が休業を余儀なくされた。東京都では、休業要請を緩和するロードマップが「ステップ2」に移行した6月1日から多くの劇場が営業を再開したが、全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)が定めるガイドラインに基づき、座席数の50%しかチケットが販売できない状況が当面は続きそうだ。そんななかでも各映画館、働くスタッフたちは、細心の注意を払って来場者を迎えている。
今までの日常が、どれほどかけがえのないものであったかを多くの人がかみ締めているなかで、「これまで通り映画館へ行くことに不安がある」と感じている人がいることも事実。では、映画館は現在本当に安全なのか? 映画館は本当に“3密”なのか? 映画.comでは劇場の運営に携わるうえで最前線を取り仕切る支配人に話を聞き、どのような対策を練っているのか、どのような思いで来場者を迎え入れているのか、現場で働く人々の声を届けていく。第2回は、グランドシネマサンシャインの下井一洋支配人に話を聞いた(取材日は7月21日)。
12スクリーン、合計2443席を有するグランドシネマサンシャインは、昨年7月19日にグランドオープン。同館の目玉ともいえる「IMAX(R)レーザー/GTテクノロジー」シアターは、日本最大級のスクリーン(縦18.9メートル、横25.8メートル)を誇る。従来のスクリーンから約40%の広がりがある画角、美しい映像を生み出す4Kツインレーザープロジェクター、最先端のIMAX 12chサウンドシステムにより、極上の映像体験を楽しむことができる。だが、コロナ禍により同館も他社と同様に厳しい状況を目の当たりにする。
下井支配人は、営業再開から2カ月以上が経過したいまでも忘れられないことがあるという。「再開直後はお客様から『おめでとう』と声をかけていただいたんです。普段は、お客様から現場のスタッフに声をかけていただく場合、要望であったりリクエストであることが多いのですが、そういう温かい言葉をたくさんいただけるとは想定していなかったんです。待っていただけていたんだな……という思いが伝わってきて嬉しかったですね」。
同館がある池袋は、山の手エリア3大副都心のひとつで、JR東日本、東武鉄道、西武鉄道、東京メトロの駅が交錯している。これら全ての1日平均利用者数は約264万人ともいわれており、埼玉方面に伸びる路線が多数乗り入れていることが特徴といえる。
この特徴こそが、コロナ禍にあっては、池袋を“本拠”とする同館ならではの悩みに直結した。7月17日から福田雄一監督作「今日から俺は!!劇場版」が封切られ、都心部よりもローカルで高稼働をみせる興行を展開し、8月3日時点で興行収入26億円を突破する大ヒットを飾っている。だが、本来は全国的に見ても上位に位置しているはずの新宿、池袋の劇場の動員が伸び悩んでいる。いわゆる“夜の街”でのクラスター発生により、新宿や池袋が危ないと連日にわたり報道されていることもあり、なかなか明るい見通しを立てられずにいる。
「新宿や渋谷との対比で言うと、池袋という土地は埼玉など他県から流入するお客様に依存する割合が高いんです。埼玉県知事が都内への外出について自粛するようおっしゃられている。そういう指針が出ていることもあり、非常に厳しいです。ただ、7月10日から『ダークナイト』を上映しているのですが、IMAX(R)レーザー/GTテクノロジーシアターはフルサイズですし、4DXでの上映は日本で初めての機会。ここでしか見られないものには、お客様もお越しいただけているのですが……」
明確なストロングポイントを持ちながら、それを全面に押し出せないジレンマをうかがい知ることができる。下井支配人をはじめとする現場スタッフは、粛々と感染対策に取り組み、万全の状態で来場者を迎え入れている。ましてや、同館を運営する佐々木興業の佐々木伸一社長は、全国興行生活衛生同業組合連合会(全興連)の会長である。他社の見本となるべく、全興連が定めた感染拡大予防ガイドラインをどこよりも遵守していることは想像に難くない。
また、依然としてハリウッド大作の公開延期が続くなか、独自の上映企画で現状を打開するための施策を練り、試行錯誤を繰り返している。同館内のコリドーやエスカレーター壁面に名作映画のポスター140枚が飾られているが、そこから名作をピックアップして上映する「グランドシネマサンシャイン ポスターセレクション」は好評を博しているそうで、これからも積極的に取り上げていくという。
今後についても、意欲的な上映作品を用意している。8月21日からは「ルパン三世 カリオストロの城」「ルパン三世 ルパンVS複製人間」、8月28日からは細田守監督作「時をかける少女(2006)」を上映する。全ての回ではないが、同館が誇る次世代映画館フォーマット「BESTIA」による上映も予定しているという。鑑賞料金は、一般・大学生が1200円、高校生・中小幼が1000円(それ以外は通常料金、BESTIA上映の場合は追加料金200円)。
「スタジオジブリの4作品のリバイバル上映でも実証されましたが、ポテンシャルの高い作品はまだまだあると思うんです。ジブリ作品をテレビでしか見たことがなかった世代の方々が、『劇場で見たら全然違う』とおっしゃっておられた。また、『ブルース・リー 4Kリマスター復活祭2020』の一環で、昨日上映した『ドラゴンへの道』には60人ほどのお客様がお越しいただいたんですが、上映後に拍手が起こったんです。やはり、人生のなかでたった2時間しか一緒に過ごすことがないかもしれない人たちと映画を見て、感動を共有できるということを味わっていただきたい。我々の使命というか、一番の根幹は、家で体験できない空間を提供するということを心がけています。その最たるものがIMAXであり、4DXなんです。これからも、グランドシネマサンシャインでしか体験しえないものをご用意して、お客様をお迎えしていきたいですね」
筆者紹介
大塚史貴(おおつか・ふみたか)。映画.com副編集長。1976年生まれ、神奈川県出身。出版社やハリウッドのエンタメ業界紙の日本版「Variety Japan」を経て、2009年から映画.com編集部に所属。規模の大小を問わず、数多くの邦画作品の撮影現場を取材し、日本映画プロフェッショナル大賞選考委員を務める。
Twitter:@com56362672