コラム:映画館では見られない傑作・配信中! - 第9回

2019年12月20日更新

映画館では見られない傑作・配信中!

“ハリウッドの破壊王”マイケル・ベイが仕掛けるNetflix大作「6アンダーグラウンド」

映画評論家・プロデューサーの江戸木純氏が、今や商業的にも批評的にも絶対に無視できない存在となった配信映像作品にスポットを当ててご紹介します!

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12月13日、Netflixで“ハリウッドの破壊王”ことマイケル・ベイ製作・監督の最新作「6アンダーグラウンド」の世界同時配信が開始された。

Netflix作品では限定劇場公開もされているマーティン・スコセッシ監督の「アイリッシュマン」やノア・バームバック監督の「マリッジ・ストーリー」が今年の映画賞レースですでに大きな話題となっており、Netflixが映画界での位置をより確実なものにしてきているのは明らかだが、総製作費1億5000万ドル(約164億円)というハリウッド・メジャー級の超大作「6アンダーグラウンド」の登場は、これまでの数々の話題作や戦略的作家映画以上に映画界を激震させる強烈な一撃となるかもしれない。

6アンダーグラウンド」は、ライアン・レイノルズ演じる謎の大富豪をリーダーに、記録では死んだことになっている様々な分野のエキスパートが“ゴースト”と呼ばれるチームを組み、世界にはびこる悪を抹殺すべく闇の処刑作戦を行うアクション活劇。要するに現代版のスケールの大きな必殺!シリーズで、見せ場はマイケル・ベイならではのスタイリッシュな映像と大規模ロケによるスケールの大きなアクションだ。当然、シリーズ化も織り込み済みの製作だろう。

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無敵の必殺処刑軍団が、東欧の架空の国を舞台に、鬼畜な独裁者を始末しに行くという物語には新味はないし、いつもながらのベイ演出は、大袈裟なまでに派手でドライブ感はあるものの、細部への配慮はほとんどなく、やっぱり大味で雑。6人+1人の“ゴースト”のメンバーのキャラだってもっと立てて欲しい。でも、危険なアクションとスタントの数々がちょっと「そこまでやるか!」とビックリするほど凄いのも事実で、結果的にはエンタテインメントとして充分満足できるし、いくつかの難点をクリアする続編も見てみたいと思わせる出来となっている。

何より驚かされるのが、この手の万人向け大作では今までになかったレベルのバイオレンス。カーチェイスでこれだけ多くの人がはねられ、轢かれ、命を落とす映画はかつてなかったし、基本は明るいコメディタッチにもかかわらず、ここまで血しぶきや人体破壊が繰り返され、死が蔓延している銃撃戦や格闘アクションもそうはない。その過剰なバイオレンスが作品に緊張感と奇妙な説得力を持たせ、作品に只者ではない感を与えている。このバイオレンスは、MPAAや映倫の審査なら確実に年齢制限の指定が付けられるだろう。マイケル・ベイとNetflixは間違いなく、その部分を意識してあえて攻めている。これはいわば戦略的に“現在の映画館では見られない映画”であり、明らかにメジャースタジオやシネコンチェーンに対しての挑戦的な企画なのである。

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冒頭のフィレンツェでのカーチェイスから後半の銃撃バトルまで、細かなドラマの機微や辻褄などすっ飛ばし、スタミナ満点に繰り広げられるアクションの見せ場の数々は、もちろん効果としてデジタルVFXも使ってはいるものの、基本実際のロケーションで本当に行われた“実写感”を大切に描かれている。そして、それらのアクションの質は、今年メジャーのパラマウントがほぼ同程度の製作費をかけて製作したアン・リー監督のアクション大作「ジェミニ・マン」あたりよりも確実に上を行っている。

Netflixの作家系映画は、すでに日本のミニシアター系の映画館でも継続的に上映され、映画館の重要なソフトのひとつとして定着、相乗効果をあげることに成功し、配信と個性的なミニシアター系映画館の共存の可能性を示している。

だが、シネコン系映画興行への挑戦ともとれる「6アンダーグラウンド」のような“ブロックバスター”作品とシネコン系映画館が、共存することは不可能だろう。今後さらに増えていくことが予想されるこの手の“ブロックバスター”エンタテインメントは、従来の映画館興行ではできなかったことに次々とチェレンジし、大画面、大音響のホームシアターの充実化も加速させてシネコン系の興行を確実に圧迫しはじめるだろう。

6アンダーグラウンド」はまだ市場を独占する完璧な作品とは言い難いが、このレベルが作れるなら、さらに面白く、驚きに満ちた大作が登場してくるのも時間の問題だ。

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世界の映画界の地図を劇的に塗り替える熾烈な覇権争いはすでに始まっている。勝負はどちらが面白い作品を作り続けられるかにかかっているとは思うが、作品個々の面白さだけでなく、様々な戦略を駆使して現在進行形でスリリングに進行する配信VS映画館の最終戦争はとても興味深く、目が離せないのである。

筆者紹介

江戸木純のコラム

江戸木純(えどき・じゅん)。1962年東京生まれ。映画評論家、プロデューサー。執筆の傍ら「ムトゥ 踊るマハラジャ」「ロッタちゃん はじめてのおつかい」「処刑人」など既存の配給会社が扱わない知られざる映画を配給。「王様の漢方」「丹下左膳・百万両の壺」では製作、脚本を手掛けた。著書に「龍教聖典・世界ブルース・リー宣言」などがある。「週刊現代」「VOGUE JAPAN」に連載中。twitter.com/EdokiJun

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