コラム:シネマ映画.comコラム - 第31回
2023年8月1日更新
特別なバカンスと冒険へ出かける“ホリデーセレクション”
映画配信サービスの「JAIHO(ジャイホー)」とのコラボレーション企画「JAIHOセレクションvol.3」が8月1日からスタートしました。今回は夏休みシーズンにあわせ「ホリデーセレクション」と題し、海外の有名観光地として知られる、フランスのパリ、スペインのマドリード、韓国の梨泰院など有名避暑地を舞台にした個性豊かなバカンス、旅、冒険を描いた5作品を配信。映画.comの編集部&スタッフの松村果奈、岡田寛司、飛松優歩、和田隆がそれぞれの視点から配信作品の見どころやポイントなどをあげましたので、ご鑑賞の参考にしてください。
今回配信する作品は、フランスでヌーベル・ヴァーグを継承する新しい才能と高く評価される、ギョーム・ブラック監督によるパリ北西に位置するレジャー・アイランドでのひと夏を切り取ったドキュメンタリー「宝島」、「つかのまの愛人」などで知られるフランスの名匠フィリップ・ガレル監督が手掛けた、地方からパリへ旅立つ青年の青春を描いた「涙の塩」、マドリードを舞台に、ひとりの女性が新たな自分を発見するまでの15日間を抒情豊かにつづった「8月のエバ」。
さらに、韓国の注目スポット・梨泰院の街を駆け巡るオフビートなヒューマンドラマ「JAZZY MISFITS 梨泰院ダイヤモンド」、ブリュノ・デュモン監督がジュリエット・ビノシュ主演で、フランス最北部の海辺の町、スラック湾を舞台に描いたシュールでブラックなコメディ「スラック・ベイ」と、誰もが知る観光地をひと味違った視点で捉えた、休暇に鑑賞したい、旅行した気分になれる作品がセレクションされています。
作品の視聴購入者には特典として、LINEの背景に設定できる背景画像を全5作品分プレゼント。視聴料金は各440円(税込)です。
■「宝島」
2019年製作/97分/フランス
【作品概要】
「女っ気なし」「やさしい人」などのギョーム・ブラック監督が、パリ近郊の街セルジー・ポントワーズにあるレジャー施設「レジャー・アイランド」でのひと夏を切り取ったドキュメンタリー。美しい陽光が降りそそぐ中、老若男女さまざまな人々の自然な姿を映し出していく。エリック・ロメール監督作品「友だちの恋人」の舞台としても知られている。
▼見どころ 和田隆
ドキュメンタリーなのに、この作品にはまるでフィクションのようなドラマがいくつも詰まっています。子供だけできてレジャー施設に忍び込もうとする少年たちや、手当たり次第に女性をナンパする血気盛んな青年たち、イケメンのアルバイト従業員の誘いを受ける女の子たち、過去を懐かしむ老人、施設の管理や警備をする従業員たちの事情も描かれます。
少年時代の仲間同士の友情や冒険心、とにかく彼氏彼女が欲しい思春期の若者たち、在りし日に思いを馳せながらひとり水辺で黄昏る男性、そして事故がないうように施設を管理、警備する従業員たちの思いや苦労など、それぞれの姿が記録されているのですが、次第に自分の子供時代や思春期、家族との思い出と重なってくるでしょう。
無邪気に遊んでいたあの頃。禁じられていてもあの時にしかできなかったこと。多くの人が楽しむこのレジャー施設での人々の記録をひとつにつなげてみると、人生というものが浮かび上がってくるようです。早く10歳になりたいと言う息子に、「焦らなくてもいいのよ。大人になったら、きっと子供に戻りたがるわ」という母親や、自然のままの昔の方が良かったと回顧する老人。目を閉じれば、地上の楽園にいるように思える場所や思い出が、あなたにはありますか。
■「涙の塩」
2020年製作/100分/フランス・スイス合作
【作品概要】
フランスのフィリップ・ガレル監督が、地方からパリへやって来た青年と3人の女性が織りなす恋の行方を美しいモノクロ映像でつづったラブストーリー。「ブルジョワジーの秘かな愉しみ」などの巨匠ジャン=クロード・カリエールが脚本に参加。スイスの名カメラマン、レナート・ベルタが撮影を手がけた。第70回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。
▼見どころ 飛松優歩
恋人たちの愛と痛みを見つめ続けてきたフランスの名匠フィリップ・ガレル。彼が本作で追いかけるのは、地方からパリへと旅立つ青年リュックです。恋人と散歩するパリの街角、“本物の愛”と出会うきっかけになったカフェ、彼女と踊り明かしたクラブ。パリの風景が、モノクロームの陰影に富む端正な映像で、切り取られていきます。ですが、そんな光景に心奪われようと、かなり早い段階で気付いてしまうのです――嘘ばかりついて、浮気を繰り返し、「人を愛した経験があるか考えてみた。答えはノーだ」なんて呟くリュック、最低じゃない?と。
リュックはまさに、ガレル作品でも屈指のクズ男。恋愛における最低の行動がショーケースに陳列され、観客の忍耐を試しているかのように、次々とサーブされていきます。短期間のお楽しみのつもりで声をかけられたジェミラ。妊娠し、捨てられる元恋人ジュヌヴィエーヴ。しかし、リュックが本物の愛を得たと思えた相手ベツイは、彼より一枚上手かつ奔放で、彼女が「何度か寝た」という男友達と、なぜか3人で暮らす屈辱的な状況に。うまくやっているようで、最後には全てを(本当に愛していた人でさえも)失うリュックを見ると、劇中でジャミラがバーのマスターにかけられるセリフが、ふと去来します。「男を待ち続けた女を何人も見てきたが、皆1人で墓に入った」と……。
■「8月のエバ」
2019年製作/129分/スペイン
【作品概要】
スペインの首都マドリードを舞台に、夏の猛暑を避けるようにバカンスに出かけていく地元民、閑散としたこの場所に敢えて留まったひとりの女性が新たな自分を発見するまでの15日間を抒情豊かにつづったドラマ。スペインの名匠フェルナンド・トルエバを父に持つホナス・トルエバ監督の長編第5作。
▼見どころ 岡田寛司
猛暑のマドリード。「(避暑のために)多くの地元民が街を離れている」という舞台設定が、まず面白いんですよね。主人公のエバは、そんな場所に“あえて”残っている。「何故?」という疑問とともに、彼女の姿を追いかけていくと、意外な“答え”へと誘われていきますよ。
新たな自分を見つけるため街をさまようエバ。彼女とともに、マドリードの有名観光地としての側面をたっぷりと堪能できる仕上がりです。風光明媚な街道だけでなく、市民が集うバーやクラブ、映画館や博物館等々。さらに、エバが“留まっている”約2週間は、同地でさまざまな祭りが繰り広げられています。その陽気な光景にも是非目を向け、耳を傾けてみてください。
見どころとしてあげたいのは、頻発する“出会い”。偶然見かけた旧友、前衛的ストリート・パフォーマー、英語教師、俳優、さらに疎遠になった男性や女友達との“出会い”を終えると、すぐさま“再会”の場へと結びつく。時には、それまで繋がりのなかった人も交えながら――。
「昨日も会ったのに、今日も会ったね」「この人は昨日偶然出会った人で…こんな人なんです」。最初の出会いと次の出会いで、ちょっとだけ、でも確かに関係性は変わっていく。そういう些細な変化がとても楽しい。愛おしい1本になりました。
■「JAZZY MISFITS 梨泰院ダイヤモンド」
2019年製作/91分/韓国
【作品概要】
韓国の注目スポット・梨泰院(イテウォン)を舞台に、10年ぶりに会った母娘が失踪した末娘を探して奔走する姿を描いたオフビートなヒューマンドラマ。人気ラッパーのCheetahことキム・ウニョンがスンドク役で映画初出演を果たし、劇中曲の作詞・作曲・歌唱も担当。「嘆きのピエタ」のチョ・ミンスが母チョミを演じた。国際色豊かで、新しい文化を発信し続ける梨泰院の魅力的な街並みのなかで描かれる。
▼見どころ 和田隆
長いこと疎遠になっていた母と長女が、事あるごとに汚い言葉を吐いて言い争いながらも協力していく母娘関係は見ていて痛快。この母を演じたのが第69回ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した「嘆きのピエタ」のチョ・ミンス。長女を演じたキム・ウニョンとの組み合わせが絶妙で、天然な母とクールな娘のかみ合わないオフビート感で見事なシナジーを発揮しています。
本作で女優に初挑戦した人気ラッパーのCheetahことウニョンですが、髪を銀色に染めた人気歌手という設定から、魅力的な歌声も披露。気だるさの中にも美しさとコメディセンスも感じさせる新たな才能を見せてくれます。作品全体は街の随所に見られるグラフィティや色彩豊かな衣装と美術、そして音楽によってウォン・カーウァイ作品を想起させますが、店で歌うシーンなどはどこか日本の昭和の匂いを感じさせます。
大人気ドラマ「梨泰院クラス」で日本でも一気に知名度を上げた韓国ソウルの繁華街、梨泰院。人種や国籍、LGBTQとさまざまな人々が入り混じって暮らしている様子が描かれますが、本作ではそんな街の違った側面も見ることできます。坂や階段が多く、住宅街の道は入り組んでいて、そこで繰り広げられる追跡劇は、末娘を探し回る母と娘たちを疲労困ぱいさせる役割を担うなど、街がもうひとつの主人公とも言える作品です。
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■「スラック・ベイ」
2016年製作/122分/フランス・ドイツ合作
【作品概要】
「フランドル」「ユマニテ」の鬼才ブリュノ・デュモンによるシュールでブラックなファンタジーコメディ。1910年夏、フランス最北部にある美しい海岸沿いの田舎町で、観光客の連続失踪事件が発生。そんな中、上流階級の一家がバカンスにやってくる―。ファブリス・ルキーニ、ジュリエット・ビノシュ、バレリア・ブルーニ・テデスキら、フランスを代表する俳優陣が共演。第69回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、カンヌ・サウンドトラック賞で最優秀シンクロ音楽賞を受賞。
▼見どころ 松村果奈
1910年夏、北フランスの避暑地を舞台に、バカンスを楽しむ上流階級家庭と地元の漁師一家、そして奇妙な事件を追う刑事たち。オフビートな笑いとシュールな展開に驚くリゾートコメディドラマ。
砂丘にスーツ姿の刑事たちは植田正治の写真を思わせ、穏やかな太陽光と藍色の海を背景にした当時のコスチューム姿の一家はまるで印象派の絵画から抜け出てきたよう。コミカルな要素からは「タンタン」シリーズも連想でき、風光明媚な海辺の風景と共に、タイムトリップも楽しめます。
そんな美しい映像の中で繰り広げられるのが、猟奇サスペンス風味の事件と、ブルジョワジーを皮肉るようなブラックな笑い。なんとフランス版風船おじさん?まで登場、と荒唐無稽な物語と、ある悲劇が同時進行します。ジュリエット・ビノシュ、ファブリス・ルキーニ、バレリア・ブルーニ・テデスキらフランス映画界を代表する俳優陣の名演、「プティ・カンカン」をはじめ「ジャンヌ」「ジャネット」など少年少女、大人にはなりきっていない若者たちの演出に長け、その音楽センスにも定評のあるデュモン監督の手腕が光る一作です。
この夏、シネマ映画.comでしか体験できない特別なホリデーセレクション5撰をご堪能ください。※作品を視聴するには「シネマ映画.com」の会員登録が必要です。