黒澤映画「生きる」がミュージカル化! 小説家役・新納慎也が語る作品のパワー! : 若林ゆり 舞台.com

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コラム:若林ゆり 舞台.com - 第72回

2018年10月9日更新

第72回:黒澤映画「生きる」がミュージカル化! 小説家役・新納慎也が語る作品のパワー!

黒澤明監督作品の中でも地味に見えて、いまなお非常に高い人気を誇っている「生きる」。主人公は市役所に務める定年間近の市民課長、渡辺勘治。ただ判で押したような日々を送る彼は、ナレーターに言わせれば「ただ時間を潰しているだけで、生きた時間がない」。生ける屍のような彼が“生”に覚醒するきっかけは、皮肉にも、自分の余命が幾ばくもないと知ったことだった。“生きる意味とは、本当に生きるとはどういうことか?”を問う、この骨太なヒューマンドラマが、なんとミュージカルになる!

9月某日。ミュージカル「生きる」の稽古は佳境に入っていた。その稽古場に潜入。小説家役を(小西遼生とダブルキャストで)演じる新納慎也の証言を聞きながら、この作品の魅力に迫ってみよう。渡辺を演じるのは、市村正親鹿賀丈史のダブルキャスト。このときは、2幕冒頭からの場面を鹿賀が渡辺に扮し、稽古を重ねていた。映画では一場面のみの登場だった作家だが、この作品ではナレーター役を兼ね、ストーリーテラー的な役割を担っている。要所要所で現れ、観客に渡辺について語り聞かせる作家は、新納によれば「今回の舞台版では最後の最後まで渡辺にかかわる役になっている」という。

画像1 撮影:若林ゆり

「映画では渡辺に夜の遊びを教えたりして、ちょっと死神みたいな、『ファウスト』のメフィストフェレスみたいな感じなんですけど、この作品では人間味と存在感を増しています。もしかしたら小説家がいちばん映画との印象が違うかも。小説家という男は、小説家と名乗りつつも三文小説を書いて日銭を稼ぎ、堕落していたと思うんです。そこで渡辺さんに出会い、影響を受けて変わっていく。物語に深く関わるし、物語をすごく引っ張るんですよ。だから役作りの上でも、僕は映画の印象のまま演じてしまうと舞台が跳ねないんじゃないかと感じていて。映画よりもトーンは明るく、力強くなっていますので、パワーがないとストーリーを引っ張れないんです」

熱っぽくこう語る新納も、最初はこの企画に疑問を感じていたのだとか。

「これは失敗する危険が大きいんじゃないかと思いました。“あー、これはやったらアカンやつや”って(笑)。黒澤監督の映画って硬派なファンが多いじゃないですか。そういう人たちから見たら、ミュージカルっていちばん真逆で遠い世界観だと思うんですよ。自分がもし黒澤映画のファンだったら“ミュージカル? ふざけんな”と思うだろうと(笑)。でもね、台本を読み、稽古場で本読みをしたとき、考えがガラッと変わりました。“これをミュージカルにしようと思いついた人、天才!!”って(笑)。ミュージカルで語られることで、この作品が本当に伝えたかったことがより伝わると思えたんです」

稽古場にて。渡辺役の鹿賀丈史(右)と作家役の新納(左) 稽古場にて。渡辺役の鹿賀丈史(右)と作家役の新納(左)

ミュージカル版の強みは、感情がよりビビッドに、ダイレクトに伝わるということ。

「渡辺さんは寡黙な男で、映画では志村喬さんがすごい表情芝居をなさっているんですよね。それだけをずーっと追ったシーンもあって。彼が何を考え、何を感じているかを表情のアップで表現している。それがミュージカルになると、ソロ曲で真情を吐露する歌が多いんですよ。そこでもう、彼の気持ちが増幅されて心に届くんです! 映画はモノクロということもあって、時代も古いし距離感を感じたりする部分もありますよね。それがミュージカルになることで、明るいシーンは明るく、華やかなシーンは華やかになっているし、何せカラーでライブですから(笑)。稽古をしていても毎日、『生きる』という作品がまさに“生きて”伝わってきているという実感がすごい。映画よりも刺さる感じがして、心震えているんです」

ここで、新納に「天才!」と言わせた張本人、この企画を立ち上げたホリプロのプロデューサー、梶山裕三にアイデアのきっかけを語ってもらおう。

「私たちには『日本で作ったオリジナルミュージカルを海外に発信したい』という願望がありまして。そこで海外にもよく知られ、評価されている題材をミュージカルにと思ったときに、“世界のクロサワ”へと行き着いたわけなんです。黒澤映画は30作品ありますが、舞台化できる作品は限られています。100頭の馬が走り抜ける『七人の侍』なんかは不可能ですから(笑)。でも『生きる』は、舞台にしたらどんなシーンになるかがパーッと浮かんできたんですよ。市民の要望がたらい回しになるシーン、作家と訪れる夜の街。『おお、これはダンスナンバーになるぞ』と。そして何といっても『ハッピー・バースデー』のシーン。感動的なシーンにいつも音楽がある、ということでも、ミュージカルとの相性が抜群なのではないかと思い至ったんです」

[筆者紹介]

若林ゆり

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

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