コラム:若林ゆり 舞台.com - 第72回

2018年10月9日更新

若林ゆり 舞台.com

第72回:黒澤映画「生きる」がミュージカル化! 小説家役・新納慎也が語る作品のパワー!

稽古場に話を戻そう。小説家の語りが終わると、“覚醒”した後の渡辺の姿が描き出されていく。市民のための公園作りを実現しようと、頭の硬い役人連中に頭を下げる渡辺。公園予定地では市民や渡辺に対し、ヤクザ者たちが妨害にやって来る。ここでのダンスナンバーに、思わずハッとした。スタイリッシュでカッコいい、ジャジーな楽曲とダンスなのだ。作曲・編曲を手がけたのは、ブロードウェイでミュージカルの音楽監督・編曲を数多く手がけているジェイソン・ハウランド。今回の楽曲について、「すごく現代的でキャッチーなので、最初は驚きました」と新納。

「最初はそれこそ“日本人による日本発のミュージカルなのに、なんで外国人の方に曲を頼むんだろう?”と思ったんです。でも日本人に頼んでいたら、どうしても時代への固定観念があるから昭和歌謡っぽいものができて、作品全体が古めかしくなっていたんじゃないかと思うんですね。でも、外国の方にお願いしたことで、現代人が聴いても入っていきやすい曲に仕上がっています」

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梶山によれば「“生命~短~かし”という『ゴンドラの唄』や『ハッピー・バースデー』を使うことは決まっていたので、アレンジも作曲もできるジェイソンは適任。それに背景になっている1952年って、アメリカの文化や音楽が大量に流れ込んできた時代。だからアメリカの音楽が、実は非常に合うんですよ」

今回のダブルキャストは組み合わせが固定で、新納による小説家が組むのは鹿賀の演じる渡辺。背中を丸めて弱々しい声を出す、いままで見たことのない鹿賀の姿から、なんとも言えない情感があふれ出す。新納にとって鹿賀と市村は、ミュージカル「ラ・カージュ・オ・フォール」の共演者として20年近い交流がある先輩だ。新納から見た今回の鹿賀は?

「鹿賀さんのお芝居を見ていると『なんてひと言ひと言に重みを含ませる人なんだろう』と思うんです。どうやってるの!? と聞きたいくらい。鹿賀さんの新しい魅力をこんなに発見できるとは思いませんでした。渡辺って男は本当に無口なんだけれど、たまにつぶやくひと言が面白かったり深かったりするんですね。ストーリーテラーなので小説家は割としゃべるんですが、しゃべってるのがアホに思えるくらい(笑)。僕が言うまでもないことですが、素晴らしい役者さんだなと、しみじみと思います」

稽古場が活気に満ちているのは、演出家・宮本亜門の発するエネルギーの力も大きいだろう。稽古を止めては走って役者たちに駆け寄り、明確に、ときには自分が演じながら指示を出していく。新納に言わせれば宮本は「エネルギーがせっかち(笑)」なのだそう。

「悲劇を描くときって、役者がずーっと悲劇だって意識で重くやっちゃうと、感動できない。やはり笑いがあったり楽しいことがあってから“ドーン”と来た方が悲しみは深いということで、僕は亜門さんと意見の一致を見たんですよ。映画もユーモアはありますけど、お客さんの感情を揺さぶるという意味では、亜門さんがエネルギッシュに明るい場面を作ろうというのは正解なんじゃないかな。亜門さんマジックで、ビックリするような大ナンバーができていますよ」

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次に衝撃が走ったのは、稽古も終盤を迎えた頃。宮本から役者たちに声がかかった。

「いま最新の台本ができあがりました。みなさん持って帰ってください。音楽的にバラードが3曲続くシーンが問題になって悩んでいたんですが、新しい曲を1つ増やしました。感じたことがあれば明日話してください。すみません、これが最後であることを祈ってます!」

これまでも、台本は書き直しに次ぐ書き直しがあったと聞いていたが、稽古半ばに新曲追加とは! これも新作を1から作るための、産みの苦しみ。少しでも作品をよくしたいという、妥協なき創造力のなせるわざなのだ。新納も「日々変わりゆく台本を覚えて、追いかけるのに必死ですよ!」という。

「覚えても覚えてもまた変わるので、もう休日を潰してガッツリ覚えるのはやめました、無駄な努力に終わるから(笑)。でもこれはオリジナル作品の初演なので、しかたないんです。この努力があって初めて、観客席に伝わるものができるんだと思って、あまり文句を言わないようにしています(笑)。『映画ファンも、この作品が本当に伝えたかったことを知るためにはこのミュージカルを見るべき』と言えるくらいの作品になると思いますので、ぜひ、劇場で確かめてほしいです」

ミュージカル「生きる」は10月8〜28日 TBS赤坂ACTシアターにて上演される。
 詳しい情報は公式サイトへ。
 http://www.ikiru-musical.com

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

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