【「鍵泥棒のメソッド」評論】脚本が「お見事!」としか言いようがない 堺雅人&香川照之が挑んだ笑いと騙しの物語
2020年12月12日 21:30

堺雅人と香川照之――この並びを見かければ、今や超絶怒声バトルを繰り広げた「半沢直樹」を想起することだろう。だが、2人はその卓越した演技力をもって、2012年にも傑作を世に放っている。「運命じゃない人」「アフタースクール」の内田けんじ監督が仕掛けたオリジナル喜劇は、「笑い」にも「騙し」にも一切緩みがない非凡な作品だ。
物語をけん引するのは、対照的な2人の男。借金だらけで日銭もなし、ボロアパートに暮らしながら、過去の恋に未練たらたらというダメさを煮詰めたような売れない役者・桜井(堺)、依頼があればどんな人物も抹消してしまう伝説の殺し屋・コンドウ(香川)。そんな2人が銭湯で運命的な出会いを果たし、「コンドウが転倒して記憶を失う」という事件が発生。「荷物のすり替え」というワンアクションで、桜井はコンドウの日常を、コンドウは桜井の人生を歩んでいく。
第36回日本アカデミー賞最優秀脚本賞というお墨付きがあるほど「脚本の素晴らしさ」が際立つ。「運命じゃない人」「アフタースクール」にも共通することだが、内田脚本はどんでん返しに至るまでの伏線が恐ろしいほど巧妙だ。冒頭象徴的に響く音楽、各所に配置されたアイテム、桜井&コンドウの理念や行動、そしてヒロイン役の広末涼子が貫く「無」の表情……。「ひと笑い」「状況の説明」だったものでさえ、気づけばストーリーを加速させる装置に転化している。腹を抱えながら「お見事!」としか言いようがない。
タイトルにも関連付く「演技」というテーマにも注目したいところ。桜井はコンドウになりすました結果、裏社会と接触するはめに。そこには役者としては愛してもらえなかった「フィクション」のような現実が待ち受け、皮肉なことに「演技」が唯一の武器となっていく。一方、コンドウは、桜井から引き継いだ役者道を突き進むなかで幸福を獲得する。だが、記憶の回復という事態が生じれば、その日々は無意識の「演技」で成り立ったことを実感せざるを得ない。演じる、それはすなわち自分や他者を欺くということ。この要素は大団円に至るまで徹底され、見る者を騙し続ける。ちょっとやそっとでは真実を見抜けないはず。
ちなみに、16年には本作を原案とした韓国映画「LUCK-KEY ラッキー」が製作されている。名脇役ユ・ヘジンが主演を務めており、多少のアレンジが加わっているものの、核となる部分は同様のもの。しかも、オリジナルに匹敵するほどの良作。また、近年アンディ・ラウ主演の中国版までも生まれている。強度のある物語は、国境を易々と飛び越えていくのだ。
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