人間の境界のレビュー・感想・評価
全48件中、21~40件目を表示
人間を兵器にしたのは誰か
本作の監督は言います。ヨーロッパは人権を尊重する素晴らしい場所であると、と同時にその歴史上ナチスによるユダヤ人迫害など非人道的な行為が行われてきた場所でもあると。
そしてこのヨーロッパの二面性、その後者である負の部分が時代を超えて繰り返されるのではないかと危惧されていました。
そしてそれは起きてしまいます。1938年に起きたナチスによるユダヤ人国外追放、そしてそのユダヤ人たちをポーランドが締め出したことで多くのユダヤ人たちは行き場を失いました。
今回のベラルーシとポーランドの国境で起きた難民の悲劇はまさにあの時と同じでした。そしてそのあとに第二次大戦が勃発します。
2015年の難民危機でEUは揺れ動きました。多くの難民が押し寄せたことでEU諸国の間では亀裂が生じました。難民受け入れに積極的な国とそうでない国、そして積極的な国の内部でも賛成派と反対派で分断が生じました。EUにとって移民問題はギリシャ危機以上の脅威でした。それを敵も十分熟知していました。
ロシアが裏で手をまわし、ベラルーシが難民を集めて一気に西側諸国へ難民を送り込みました。フィンランドがNATOに加盟した時にもロシアは同じことをしました。
彼らは難民を人間兵器として相手国に送り込み、その混乱を狙ったのです。ポーランド政府はまんまとその罠にはまりました。
国境付近に非常事態宣言をして、人権団体や報道機関を締め出し、このロシアによる攻撃に真っ向から対抗したのです。難民を兵器として認識したのです。
難民を人間ではなく兵器とすることは彼らにとっても都合がよかった。移民問題に頭を悩ませていた彼らにとってはこれを相手国からの攻撃とすることで、あらゆる非人道的行為も許されると考えたのです。EUもロシアからのハイブリッド攻撃であるとしてポーランドの行為に目をつむりました。
そしてベラルーシの誘いにのせられてEU諸国に亡命できると希望を抱いて渡ってきた人々は絶望のどん底に落とされます。
ポーランド政府からはすぐにベラルーシに戻され、そしてベラルーシから再度ポーランドへ送り返されます。これが延々と繰り返され、ひどい人は30回も繰り返されたという。寒い森に放置された人々の中には凍死する人も多くいました。
ベラルーシのような独裁国家ならいざ知らず、ポーランドのような民主国家で起きた非人道的行為。かつてナチスによる侵攻を受け、虐殺まで経験した国でありながらこの国の国境警備隊や警察はさながらゲシュタポのよう。
ユリアを尋問する警察がまさにそれでした。彼らは彼女を一糸まとわぬ姿にして屈辱を与えて屈服させようとしました。独裁者の常とう手段です。
でもユリアは負けなかった。自分が住む国境付近で繰り広げられる難民への非人道的行為を目の当たりにして彼女は奮起します。彼女は自己評価を上げたいだけのリベラルではなかったのです。
後半の活動家たちの活躍は溜飲が下がる思いでした。おとりとなって警察車両をおびき出してそのすきにレッカー車の事故車に乗せた難民を救出。暗くてつらい本作の中ではとても良かったシーンです。それと、国の無慈悲なやり方に嫌気がさしていた若き国境警備隊員が難民家族を見逃してあげるシーン。救いのないような現実の中で唯一希望が持てるシーンでした。
ロシアが行ったハイブリッド攻撃は難民の人々を利用した卑劣極まりないものでした。確かに移民問題は世界にとっては深刻な問題。それは国を分断させ、しいては国を内部から崩壊せしめるほどに。
ある意味では核兵器よりも強力なのかもしれません。でもこの兵器は核と違い無力化できるのです。
そもそも難民の人たちは兵器でも何でもない。温かいスープと暖かいぬくもりを求めて、ただヨーロッパに命がけでたどり着いたにすぎません。それをロシアは兵器として利用しましたが、受け取る側が人間として接すればいいだけのことでした。彼ら一人一人は決して危険な存在ではない。難民を受け入れることで様々な弊害が生じるかもしれない。でも同時に国が潤うほどの効果も期待できる。
ドイツは多くの移民を受け入れながらも経済は順調。国民の平均年齢も若さを維持。逆に移民に消極的なハンガリーなどは高齢化が進んでいる。この辺は日本も同じかもしれない。
ポーランド政府は墓穴を掘りました。たとえ危険なワグネル兵が混じってる可能性があったとしても殺到した難民たちに根気よく人道的に対応すべきでした。それがあのような強硬手段に出たために自国を貶める結果になったのです。
この映画の撮影自体が政府から目をつけられて大変だったようです。まさに本作の活動家たちのように。政府からの圧力のために撮影はすべて私有地の森の中で撮影して24日ぐらいで全てを撮り上げたようです。そして映画公開にあたっても政府からの妨害があったそうですが逆にそれが宣伝効果となり国内で大ヒットを記録したという。この映画のおかげかわかりませんがその極右政権は退陣したとのこと。
ロシアのウクライナ侵攻後にポーランドは多くのウクライナ人を難民として受け入れていたにもかかわらず、裏ではこのような行為が行われていたことに驚きました。難民も白人が優先されるということなのでしょうか。本作撮影時にウクライナへの侵攻が起きて、あのエピローグは急遽追加撮影したそうです。まさにポーランドのダブルスタンダードを皮肉るために。あの活動家の女性が若き国境警備隊員に思いきり皮肉を言ってましたよね。
EUは2015年の難民危機を乗り越えました。これからも加盟国同士で協力してうまく乗り越えていくと信じたい。そうすればロシアが行う人間兵器は無力化されるのです。
映画はかなりショッキングな内容でモノクロということもあり「シンドラーのリスト」を見た時の衝撃を思い出しました。まさに難民はユダヤ人そのもの。そして難民を迫害するのはナチスではなく移民問題に対して見て見ぬふりをしようとする人々の無関心なのかもしれません。
私も募金するくらいしかできない、ただの自己評価を上げたいだけのリベラルを卒業できないでいます。劇中、ユリアの協力を拒否した友人の姿が自分自身の姿とかぶってしまいました。
本当に素晴らしい映画でした。上映規模が少なすぎるのが残念です。けして楽しい映画ではないけれど「マリウポリの20日間」同様今見るべき映画でしょう。
リトアニアに逃げたベラルーシのルカシェンコ大統領が行った報復
人間の境界
神戸市内にある映画館シネ・リーブル神戸にて鑑賞 2024年5月7日(火)
パンフレット入手
原題「Green Border」(緑の国境地帯)
2021年 ベラルーシ政府がEUに混乱を引き起こす狙いで大勢の難民をポーランド国境へと移送する。しかしポーランド政府は受け入れを拒否、彼らを強制的に送り返した。この「人間兵器」と呼ばれる策略に翻弄された人々の過酷な運命を、シリア人難民家族、ポーランド側で彼らを支援する活動家、国境警備隊の青年などの複数の視点から描き出す。
-----------------
安全な生活が送れると信じてポーランドへ渡ってきたシリア人家族、しかしようやく国境に辿り着いた直後、武装した警備隊から非人道的な扱いを受けた上にベラルーシへと送り返され、そのベラルーシからも再びポーランドへ強制移送される。彼らはどちらの国からも押しつけ合われるように暴力と迫害に満ちた過酷な状況を強いられ、終わりのない無限地獄のような日々を過ごすことになる
-----------------
以下パンフレットより
同年7月頃から、イラク、アフガニスタン、シリア出身のEU移住希望者の群れがベラルーシの首都ミンスクから同国とポーランド、リトアニア、ラトビアの国境に移動し、EU域内への越境を試みるようになった。これはベラルーシの独裁指導者ルカシェンコ大統領が意図的に引き起こした難民危機だった(計略を背後で操っていたのは欧米民主主義国家の混乱を画策するロシアのプーチン大統領である)
---------------------
「移民戦争」のシナリオは以下の通り
中東各地でベラルーシからポーランド、リトアニア、ラトビアとの国境を超えてEU域内に移住できるという情報を与え、アフガニスタンやシリア難民のためにビザの有効期限72時間のツアーを企画する。ベラルーシ政府は意図的に彼らを「人間の武器」としてEU国境に送り込み、その状況を不安化させる。
---------------------
背景にはEUとの関係悪化があった。前年8月のベラルーシ大統領選挙でルカシェンコが選ばれるが、結果を認めない市民、国際社会による抗議活動が起こる。反体制指導者から弾圧され、リトアニアに亡命した。2021年5月には、アテネ発ヴィリニュス行きの国際旅客機がミンスク空港に緊急着陸を命じられ、乗機していたベラルーシの政治活動家が連れ去られた。
これらの事件に対して、EUはベラルーシに経済制裁を料し、ルカシェンコ大統領は報復として「移民戦争」を開始したのだった。
監督 アグニエシュカ・ホランド
ユリア役 マヤ・オスタシェフスカ
レイラ役 ベヒ・ジャナティ・アタイ
祖父役 モハマド・アル・ラシ
アミーナ役 ダリア・ナウス
ヤン役 トマシュ・ヴウォソク
-------------------------------
感想
リトアニアに逃げたベラルーシのルカシェンコ大統領が行った報復である。
非人道と人道のせめぎあい
日本にいる私達にとってヨーロッパの難民問題は少し遠い出来事。EU圏内で発生する移民への迫害は知っていても、難民をまた強制的に送り返すことで混乱を巻き起こそうとする国があるなんて!難民問題があるとは知っていても全然わかっていなかったんだなと強く実感させられた。
シリアからの難民家族、国境警備隊、難民を支縁する活動家と視点が変わっていくのが群像劇のようでよかった。様々な視点から描かれることでより厚みのある物語になっていたと思う。いや、物語というには軽すぎるか。現実の世界で起こっている「今」を描いた話だ。ちょっと前の話と思っていた自分を恥じてしまう。
ここで描かれる難民たちの環境は本当に地獄のようだった。非人道的な扱いとはこのことだ。あんな環境自分だったら耐えられない。早々に命を落としてしまうに違いない。
それでも難民たちを支縁する人たちがいることは唯一の救いだった。非人道的な扱いと、人道的な支援がせめぎ合っている様にただただ圧倒されてしまった。結構長い映画なのにスクリーンから目が離せなかった。同時代性というものを強く意識させられる。すごい映画だ。
自分なら、、どうするか?
ロシアとウクライナが仲悪い原因じゃないかと思われるホロモドールを題材にした「赤い闇」を見そびれてしまい、気になってた監督の作品です。
今回はベラルーシとポーランド国境が舞台。
難民が溢れる国境で、私達はどうするべきか?助けるか?拒絶するか?その境界線を見る人に問いかける映画です。
難民、そして国境警備隊、難民に手を差し伸べる活動家。三つの視点から描かれています。
ヨーロッパの街で難民が半数を超え治安が悪くなっている話がニュースになってます、そこら辺をテーマにした映画も増えました。地続きじゃない日本も最近は他人事じゃ無い状況です。
人道的には助けるべきだけど、宗教や文化、言葉の問題。そしてそれが原因で仕事に付けず犯罪や暴力に走る難民。問題は複雑ですが一人一人の人間がその時、その境界のどちら側に立つのか?モヤモヤと自問自答しながら映画館を出ました。
GREEN BORDER 緑の国境
難民を送り込まれる側の立場も理解できる。
それを見越して送り込むとは。
エピローグ ウクライナからの難民。
その対応の違い、観るのがとてもつらい。
中東やアフリカからの難民 人種・見た目ばかりでなく異教徒というのも大きいんだろう。
国を捨てて逃れてきた人たち。
国を追われて逃れてきた人たち。
何十年も前の話でなく今現実に起こっていること。
救いは若い人たちと、体勢側にも力になってくれる人がいるということ。
GREEN BORDER良いタイトルだと思うけど。
《 人間兵器 》にされるなんて、全く想像して無かっただろう。 【ポ...
《 人間兵器 》にされるなんて、全く想像して無かっただろう。
【ポーランドとベラルーシの国境】
ポーランドと東の隣国ベラルーシの境界は、野原・森などの中に人為的に引かれたまっすぐな線(人為国境)と川の流れに沿って蛇行する線(自然国境)から成る。映画『人間の境界』の舞台は、ポーランド・ベラルーシ間の森林に隠れた国境線とそのポーランド側周辺地帯である(第1章冒頭とエピローグを除く)。
2021年の移民危機以後、自動車での国境越えは大幅に制限されている(物流・旅客各1地点)。いずれにせよ、『人間の境界』に描かれているのは、そうした正規の通関手続きを経ての国境越えではなく、ベラルーシ国境警備隊が意図的に開けた抜け道を通っての非合法な越境とポーランド国境警備隊による押し戻し(プッシュパック) である。
映画は俯瞰で緑の森林を写したカラー映像で始まり、原題の『Green Border』(緑の国境〔地帯〕)が白色のフォントで現れる。すぐに色彩が反転して、森林 はモノクロに、タイトルは緑色に変わる。表題は、森林 の中に人為的に引かれた直線の国境を指している。
『人間の境界』の難民たちは、(国境検査が不要な)「緑の国境」がある世界を目指して、ベラルーシ政府が意図的に設けたポーランドとの(国境検査を無化した)「緑の国境」を越える……。
↑HPから一部引用
難民問題について考えたい方に
難民問題…というと、政治絡みの、小難しい頭デッカチの理屈ばかりの映画かと思われるかもしれませんが、そればかりでなくストーリーの起承転結も、登場人物のエピソードもきちんと描かれて、エンターテイメントとしても成立しています(決して楽しい映画ではありませんが…)
シリアの難民キャンプからベラルーシに飛行機で向かう一家、国境警備隊のポーランド人男性、人権活動家として難民サポートを始める女性それぞれが、きちんと章立てしてストーリーが始まり、それぞれが互いに接点を持ち、そして伏線回収もされていく筋書きも見事で脚本もすごいです
映画鑑賞していて、こんなに辛くなることは滅多にない経験で、また現在進行形でおきているこの問題について深く考えさせられました
なんとなく聞いたことがあった程度のことが、 現場ではここまで凄いこ...
なんとなく聞いたことがあった程度のことが、
現場ではここまで凄いことだったんだと改めて知らされた
制作側に当事者もいるようなので、
これはドキュメントとして捉えたい
いろんな立場のひとがいていろんな考えの人がいるんだと、
なにごとも単純ではなく複雑なんだと、考えさせられる
スリリングに描く難民問題
記憶に新しいEUでの難民騒動ですが、この映画はベラルーシとポーランドの国境で起きた問題に焦点を当ててます。
ドキュメンタリーっぽいけど、役者が脚本を演じる劇映画です。
そして“キャストには実際に難民だった過去や支援活動家の経験を持つ俳優たちを起用”だそうです。
すごくスリリングで、引き込まれ食い入るように観ました。
ただ、全編モノクロでシーンによっては映されてる物が何なのか識別しずらくて、少し苦労しました…
カラーだったらなと思ったけど、カラーだと映像に気を取られすぎてしまい、モノクロの方がストーリーに集中できるのかな?
つらく痛々しい描写ばかりだけど、中身のない下らない映画より、僕は好きです。
映画上映にあたって様々な妨害があったらしい本作。
いろんな人に観てほしいです。
抗えない大きな出来事を前に何をするか
ベラルーシ、ポーランド両国の思惑に翻弄され、利用される難民たち。国境付近では、ボールのように蹴っては返され、人間的扱いすらされない。紛争などで祖国を追われ、安全に暮らせる場所を求めて来たはずが、たどり着いた場所でも邪魔者扱いされ、どこまでも追いやられる。難民たちはなぜこんなことが起きているのか分からぬまま、ただただ弄ばれていく。その様子はまさに地獄絵図。
EUは混乱に満ちた世界情勢のなかで多くの難民・移民の受け入れを行なっている一方、その反動も大きいはずで、受け入れる国の市民の中でも意見は割れている。人権とは名ばかりで、実態は難民の選別(映画でも中東難民とウクライナ難民との対応の差が見受けられる)が行われ、差別と迫害が続いている。
ポーランドの国境警備隊の軍隊学校でのプロパガンダ的教育と、それに従う者と静かに抵抗する者。難民支援活動家たちの取り組みには頭が上がらないが、心ある者たちの助けだけでは到底解決できる問題でもない。しかし、最後にアフリカからの難民を受け入れた家族や精神科医の女性ように、結局はこうした人の優しさとあたたかさ、そして人と人との連帯が人間を救うのだと思った。
救いはあるのか?
同じように生を受けて生まれてきたのに国が違うだけで運命が決められている。
平等ではないし人権もない場所で生き残れるのは運の良い者だけ、
ただ、生きたいだけなのに許されず安心な場所すらない。
今の自分が置かれている状況がどれほど恵まれているか、
そしてそんな自分に何が出来るのかを考えさせられる映画だった。
移民映画はフィクションではないし他人事ではないので、また違った恐怖を抱く。
これが現実
物語りの舞台は
ベラルーシとポーランドの国境。
しかし同じような難民流入の問題は
ロシアとノルウェー、ロシアとフィンランドでも起きていることを
新聞やテレビのニュースで我々は知っている。
西欧諸国の混乱を狙い、
東欧の独裁国家が意図的に難民を送り込む。
ここで皮肉なのは、難民の誰もが
ロシアやベラルーシに定住したいと思わぬこと。
それらの国では自由が制限され、
自身の居場所が無いことを難民たちは知っており、
より将来の可能性がある場所(ここではポーランドのさらに先の北欧諸国を)を目指すことを
国家が認識しているとの、ある意味自虐的な状態。
ただ、そうしたことは表面的な知識であり、
難民対応の実態については
本作を観るまでまるっきり考えもしなかった。
ことポーランドに限ったことかもしれないが、
その扱いは悲惨の一言に尽きる。
もっとも、その前段としてのベラルーシ側の対応は
国家として受け入れ、しかし国境に送り込む際に
警備隊と業者は結託、なけなしの金で航空券を買い
はるばるやって来た難民たちから
更に金品をむしり取る。
加えて人を人とも思わぬ暴力的な扱い。
一方のポーランド側も、難民を発見した国境警備隊は
難民申請を受理することなくベラルーシ側に押し戻す。
時として暴力まがいの手段を使い。
そしてまた、戻された側も
再度押し返そうとする鼬ごっこ。
それは生きている人間はおろか死体にまで及び
両国の官憲はもはや人間としての心を失っているようにさえ見える。
『チャップリン』の{喜劇映画}に出てきそうなエピソードも
これは全くのリアル。
が、ポーランド側には難民を助けようと無私で動く人々や組織も、
また官憲の側にも、そうした非道の扱いに心を痛め、
少しでも力になろうとする人々も存在する。
それは一服の清涼剤のように。
本作ではそうした実態を
難民の立場、警備隊の立場、人権活動家の立場、個人の立場と
四様をドキュメンタリーに近い表現で描き、
イマイマを痛烈に非難する。
おそらく、対比の為に何処かでふれられるだろうと予想はしていた
ロシアの軍事侵攻によるウクライナからの避難民についての描写も
案の定あり。
シリアやアフガニスタンからの難民に比べ、
当然のように彼等・彼女等への対応は手厚く暖かい。
その背景にあるのは、人種の違いや、国の近遠や
文化や宗教の違いだけなのか?
日本には関係の無い他所での出来事と、関心を低く感じるかもしれない。
しかし「3.11」のあと、
福島からの避難者に対し「身体が汚染されていないか?」と危惧したのは誰だったか。
またコロナ禍の当初に医療従事者に対し
「感染が怖いから近くに住むな・寄るな」と反応したのは誰だったか。
本作は、全ての人の奥底に潜む差別意識や身勝手さに対して、
圧倒的な NO を突き付ける。
いかに自分が何もわかってなかったか…
シリアからベラルーシ経由でポーランド?地図で確認してしまいました。
家族はスウェーデンに逃れたいだけ
別にベラルーシでもポーランドでもない、そのどちらの国にも難民申請するつもりはなくて、通して欲しいだけでもダメなのか。
戦禍を逃れたら安全どころではない、あんな氷点下の雨風凌ぐ屋根すらない中で何日もとどまらせられる。
彼らの足の裏は硬くひび割れしている、その画だけでも置かれた状況の悲惨さがわかる。
国境警備隊って、軍人って戦争以外にもあのように人を痛めつけるのか。
もちろん何万人もの他国からの難民が来たら、と思うとハイどうぞ、どうぞとは行かないのかも知れない。でも、スウェーデンに待つ叔父の家にも行けないのか、何故あんなひどい扱いをされなければならないのか。
現実が恐ろしすぎた。
そして活動家と勇気と行動力はすごいと思った。
ようやく国境を越え、道端で車を待つ家族に温かいパンを渡す一般市民…何かしたい、でもそんな程度のことしかしないのはきっと私も同じかも…
安全で快適なところから、UNHCRに寄付をするくらいしかできないのだ。
我々にも突き付けられている現実
ベラルーシとポーランド国境で繰り広げられている、難民の押し付け合いという非人道行為を、ポーランドの映画監督・アグニエシュカ・ホランドが映画化した作品でした。先日観た「マリウポリの20日間」と異なり、本作はドキュメンタリー映画ではありませんでしたが、極めてリアリティがあり、限りなくノンフィクションに近い作品と感じました。
事の発端は、2021年5月にベラルーシがアイルランドの民間航空機を強制着陸させ、それに対して翌6月にEUがベラルーシに対して経済制裁を課したことのようです。ベラルーシは、その報復としてEU加盟国である隣国のポーランドやリトアニア、ラトヴィアに、中東やアジアから逃れてきた難民を”人間兵器”として送り込みました。既に2011年頃から始まったアラブの春を発端とした中東の混乱で難民は急増しており、多くの難民を受け入れた欧州各国では、賛成派、反対派の対立があったので、難民を送ることは間接的に敵対国の力を削ぐという効果があるという判断がベラルーシにあったのでしょう。
本作の一方の主役であるバシールらシリア人一家は、EU加盟国であるポーランドに入国すれば親戚のいるスウェーデンに行かれるという言葉を信じてベラルーシに渡り、そこから深い森の中に横たわる国境を越えてポーランドに入国する訳ですが、驚くことにポーランド当局は、こうした難民を捕まえて、ベラルーシに送り返してしまいます。ベラルーシに送り返されたバシール達は、今度はベラルーシ当局に捕まり、再度ポーランド側に送られることに。そうした驚くべき応酬が繰り返される内に、当然の結果として死んでしまう人も出て来るに至ります。バシールの長男も、途中アフガニスタンからの難民であるレイラと行動を共にする中で、沼地に嵌って溺れて亡くなってしまいました。
やや救いがあるとすれば、これまた本作の一方の主役であるポーランド側の難民支援者達の存在。国境が横たわる森の中で難民たちに食料や医療支援をする訳ですが、何せ森の中なので支援にも限界がある上、彼らのルールとして難民を輸送することや、国境付近の立ち入り禁止への立ち入りを禁じているため、根本解決には至りません。
そうしたジレンマは、支援者自身にもあるようで、新たに支援者グループに加わった精神科医のユリアが、こうした禁を破るところが物語としての見所でした。案の定ポーランド当局に拘束され、自動車も破壊されてしまう訳ですが、この一件で、支援者グループの中でも過激派の女性(名前を忘れてしまった)に、「あなたを見直したよ。てっきり自己評価(自己肯定感だったかな)を高めるために支援グループに入ったんだと思ったけど、違ったね」という言葉を投げかけて、それまで評価していなかったユリアのことを一転して認めます。そしてこの一言は、結構私自身にも刺さる言葉でした。一応平和な日本にいて、あれこれエラそうなことを言っても、それは自己満足に過ぎず、何ら世間的な問題を積極的に解決する効果はないんだと、改めて思わされることに。
ベラルーシがやっていることは非道の極致であり、一切擁護することが出来ないのは論を待ちません。一方ポーランドのやっていることはどうでしょうか。作品内で行っていたことが事実であれば、間違いなく惨たらしい人権侵害であることは間違いないとは思うものの、我が日本でも、入管施設に収容されたスリランカ人女性が亡くなった事件が話題になりましたし、最近では埼玉県川口市において、地元住民とクルド人住民との間の軋轢が、ちょくちょく報道されています。規模は小さいながらも、ポーランドで起きていることは、日本にもない訳ではないのです。たまたま自分の周辺にそうした事例がないだけなのです。それを思うと、自分が当事者になった時、ユリアのような行動を取れるのか、反対の行動を取るのか。そんな思いが、支援グループの女性のセリフを聞いて頭をよぎったところでした。
そんな訳で、難民問題を我がこととしても考えさせられた本作の評価は★4.5とします。
つらい・・・
決して楽しい映画だとは思っていませんでしたが、予想以上につらくて、正直、疲れました。
難民、その問題、知らされて知れ渡っています。知識としてはあるけれど、その真実はほとんど分かっていないのだと思い知らされます。
グリーン・ボーダー・・・どんなに集中してこの作品を見きったとしても、その色は決して知ることはありません。当たり前のことなんですけど─
かなり忍耐を要した作品でしたが、意外と集中して見入った気がします。気合いを入れて頑張って鑑賞すれば、相当きます。寝不足での─とか、隙間時間で─とか、そういうのはやめておいた方がいいのかもしれません。
とりあえず、行ったり来たりする構図さえ分かれば、気持ちを入れやすいのかも─
とはいえ疲れたー。これを自宅で見たら、多分、全部見ることはできないかなぁ
ビャウォヴィエジャの森
2021年10月ベラルーシとポーランドの国境地帯で密入国を試みる難民・移民達と、彼らの支援をする活動家、そして国境警備隊の話。
ロシア&ベラルーシの謀略で「ベラルーシを経由してポーランド国境を渡れば、安全にヨーロッパに入ることができる」という情報が流され、人間兵器としてベラルーシからポーランドに送り込まれる密入国者。
もちろんポーランドとしても攻撃の形で送り込まれた密入国者をそのまま受け入れることはできず、ベラルーシへ送り返され、また送り込まれが繰り返されて行く。
その当時、国境間の緩衝地帯の様なところで過す人達のことをニュースで観たことはあったけれど、こういうことだったんですね。
綺麗事を言うのは簡単だけれど、こればっかりはポーランド側の対応は仕方ないとしか言えない…暴力は論外だけど。
そして活動家の行いも最初は良かったけれど、4章のそれは気持ちはまあわかるけど共感は出来ない。
これは現状を訴える為につくられた作品か、プロパガンダで作られたのか…ただ、胸クソ悪さは堪らないものがあった。
これは超がつく傑作だった
ポーランド🇵🇱とベラルーシ🇧🇾の国境。
シリア🇸🇾やアフガニスタン🇦🇫から来た難民たち。
ベラルーシからポーランドの国境を越えて安全にヨーロッパに入ることができるという情報。これは多くの難民をポーランドに移送せんとするベラルーシ政府の策略だった。
難民の受け入れを拒否するポーランド。国境を越えた難民は直ちにベラルーシへ送り返された。
そう、キャッチボールの如く国境を行き来する難民たち。寒さと飢えで多くの命が失われた。
困窮する難民とともにポーランドの支援活動家や国境警備隊の視点を加えることで厚みのある作品になった。美しいモノクロ映像により説得力を増した。スリリングな展開はエンターテイメントとしても成立していた。
つまりは極上の作品だった。
今年のベストの一本だろう。
酷い、としか云いようがない。映画としてはドキュメンタリーと見紛う程の迫真性が凄いが、“2022年という今”の世界の一面をフィルムに残したという価値がある。
①本作を鑑賞した後、海外からの観光客も含め笑いさざめく人々で賑わう大阪ミナミを通って帰ったけれども、それもまた“今”の世界の一面であることも紛れの無い事実である。
②こんなことがいつまで続くのか、というより人類文明(明るくないけど)が有る限り。いつまでも続くと思うのだけれども、この現実を目の当たりにして自分だけは心を麻痺させたくはないと思う。
全48件中、21~40件目を表示