「これが現実」人間の境界 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
これが現実
物語りの舞台は
ベラルーシとポーランドの国境。
しかし同じような難民流入の問題は
ロシアとノルウェー、ロシアとフィンランドでも起きていることを
新聞やテレビのニュースで我々は知っている。
西欧諸国の混乱を狙い、
東欧の独裁国家が意図的に難民を送り込む。
ここで皮肉なのは、難民の誰もが
ロシアやベラルーシに定住したいと思わぬこと。
それらの国では自由が制限され、
自身の居場所が無いことを難民たちは知っており、
より将来の可能性がある場所(ここではポーランドのさらに先の北欧諸国を)を目指すことを
国家が認識しているとの、ある意味自虐的な状態。
ただ、そうしたことは表面的な知識であり、
難民対応の実態については
本作を観るまでまるっきり考えもしなかった。
ことポーランドに限ったことかもしれないが、
その扱いは悲惨の一言に尽きる。
もっとも、その前段としてのベラルーシ側の対応は
国家として受け入れ、しかし国境に送り込む際に
警備隊と業者は結託、なけなしの金で航空券を買い
はるばるやって来た難民たちから
更に金品をむしり取る。
加えて人を人とも思わぬ暴力的な扱い。
一方のポーランド側も、難民を発見した国境警備隊は
難民申請を受理することなくベラルーシ側に押し戻す。
時として暴力まがいの手段を使い。
そしてまた、戻された側も
再度押し返そうとする鼬ごっこ。
それは生きている人間はおろか死体にまで及び
両国の官憲はもはや人間としての心を失っているようにさえ見える。
『チャップリン』の{喜劇映画}に出てきそうなエピソードも
これは全くのリアル。
が、ポーランド側には難民を助けようと無私で動く人々や組織も、
また官憲の側にも、そうした非道の扱いに心を痛め、
少しでも力になろうとする人々も存在する。
それは一服の清涼剤のように。
本作ではそうした実態を
難民の立場、警備隊の立場、人権活動家の立場、個人の立場と
四様をドキュメンタリーに近い表現で描き、
イマイマを痛烈に非難する。
おそらく、対比の為に何処かでふれられるだろうと予想はしていた
ロシアの軍事侵攻によるウクライナからの避難民についての描写も
案の定あり。
シリアやアフガニスタンからの難民に比べ、
当然のように彼等・彼女等への対応は手厚く暖かい。
その背景にあるのは、人種の違いや、国の近遠や
文化や宗教の違いだけなのか?
日本には関係の無い他所での出来事と、関心を低く感じるかもしれない。
しかし「3.11」のあと、
福島からの避難者に対し「身体が汚染されていないか?」と危惧したのは誰だったか。
またコロナ禍の当初に医療従事者に対し
「感染が怖いから近くに住むな・寄るな」と反応したのは誰だったか。
本作は、全ての人の奥底に潜む差別意識や身勝手さに対して、
圧倒的な NO を突き付ける。