「ホウセンカ」の木下麦監督、宮崎駿や高畑勲の表現を継承「日常芝居にものすごく美しさが宿る」【第38回東京国際映画祭】
2025年11月1日 11:30

第38回東京国際映画祭のアニメーション部門に選出された「ホウセンカ」のトークショーが10月31日にTOHOシネマズシャンテで開催され、木下麦監督が登壇。アニメーションの表現におけるこだわりを語り尽くした。
死にかけのヤクザが起こす大逆転劇を描く本作は、「オッドタクシー」のクリエイター、木下監督×此元和津也のタッグで、「映画大好きポンポさん」などのスタジオCLAPが制作した最新作。アヌシー国際アニメーション映画祭2025では、長編コンペティション部門正式出品された。声の主演に小林薫、戸塚純貴、共演には満島ひかり、宮崎美子、ピエール瀧といった実力派俳優が集結した。
まずは、本作の“しゃべるホウセンカ”というアイデアの源を尋ねられると、木下監督は「前回、動物のアニメ(『オッドタクシー』)を作ったから、次にやるなら動物じゃないものにしたいと思い、植物を選びました。脚本家の此元和津也さんとまた一緒にやることになり、此元さんはセリフでストーリーを進行して行くのがすごく上手なので、おしゃべりのキャラクターを映画の中心に置こうと考えました」と明かす。

植物の中でも、ホウセンカを選んだ理由については「植物って物理的には動かないモチーフです。ただ、よくよく調べてみると、植物は植物なりにそれぞれ生存本能があり、生存戦略がある。そこがすごく面白いと思い、興味が湧きました。いろんな植物を見ていく中で、触ると種がポンとはじけて、距離を置いて飛んでいくという、物理的な動きがとても面白く、それがすごくアニメーションに向いていると思いました」と説明した。
阿久津に関して、木下監督は「阿久津を表現する際に僕がよく使った言葉は“朴訥”。飾り気がなく、素朴という意味です。賢くもなく、流れに身を任せて生きてきた男で、生えては抜かれていく雑草のような人間です。そういう平凡な男の人生を、平凡な男の戦いをイメージして書きたかった」と解説する。
小林演じる阿久津を「誰かのことを思っているのか、何も思っていないのかが、わからない人柄にしたかった。彼は生きるという意志がそんなに強くない人。那奈役の満島(ひかり)さんの言葉を借りて言うなら“彼は空っぽのようなしゃべり方をしている人”。人生は空虚だったけど、守りたい人ができたということを表現したかった。そこでドラマが生まれるので」と、キャラクター設定と物語の関係性を語る。
また、映画の前半は日常の描写を積み重ね、ワンカットも長いというアニメーションでは難易度が高い表現がされている本作。
木下監督も「確かに日常芝居ってすごく難しく、座る、歩く、物を持ち上げる動作ってやってみると難しい。みんなが見慣れているからこそ、ミスに気づきやすいです。とはいえ、日常芝居をアニメーションに変換して書き起こすということは、宮崎駿監督や、高畑勲監督がずっと丁寧に描いていたことで、それをアニメーションに変換して描き起こすことで、ものすごく美しさが宿ると思い、そこを大事にしました」と話す。

実際に、木下監督自らがキャラクターの動作を演じ、それを見てアニメーターが描いたシーンもあると言う。
「阿久津の家で堤がトイレから出てきて、ハンカチで手を拭き、ポケットに入れるシーン。あれは僕が堤というキャラクターになりきって演じ、それをスタッフに撮ってもらったんです。その歩き方だったり、視線の配り方、首の振り方1つで、その人のテンション感や、少しの気だるさだったりが出るなと思い、そこもすごく大事にしました」とこだわりを明かす。また、自身も本作の制作スタジオCLAPで、アニメーターとして原画などを手掛けているが、その経験も大いに活かされていると語った。
さらに「背景の美しさも、すごくこだわっています。たとえば木々の緑に太陽があたって、照り返した黄色い色や、底抜けに青い青空をちゃんと観察した上で、ウソをつかずに表現しようと。オブジェクトをごまかさずに美しく抽出しようという気持ちで作りました」と言う。
キャラクターデザインはシンプルだが、作品全体としては、非常にリアルを追求した作品になった本作。木下監督は「現実世界を1回脳ミソの中に入れ、デフォルメしてまたアウトプットする。僕はそのデフォルメ感が気持ちいいし、美しいものだと思っています。だからすごく簡略化し、かつ人間の所作は的確に描くというのが、アニメーションの美しさの根本にあるのかなと。そこは大事にしました」と述懐。木下監督の熱いトークに、会場の観客は最後まで聞き入っている様子だった。
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