「スプリングスティーン 孤独のハイウェイ」は“とりつかれること”についての話――スコット・クーパー監督が注いだ“愛と敬意”を語る
2025年10月31日 09:00

20世紀を代表するロック・アイコンで、“The Boss”と称されるブルース・スプリングスティーンの若き日を描く音楽ドラマ「スプリングスティーン 孤独のハイウェイ」(11月14日公開)。このほど、メガホンをとったスコット・クーパー監督のインタビューが到着。あわせて、場面写真とメイキングカットも披露された。
1982年。キャリアの岐路に立つブルース・スプリングスティーン(演:ジェレミー・アレン・ホワイト)は、名声の影で深い孤独と葛藤に揺れていた。ロックスターとしての喧騒を離れ、彼が向かったのは、誰もいない荒野のような“どこでもない場所”。4トラックのレコーダー1台、手元にあるのは曲になりかけた断片だけ。恋人との時間、幼き日の母との思い出、そして父との確執に苛まれながら、彼は静かに魂を刻み始める。その時、彼に何が起こっていたのか――。伝説の名盤「ネブラスカ」創作の舞台裏と心の旅を描き出す。
インタビューでは、「この映画は、彼のマネをするのではなく、彼自身の人生を正直に解釈するもの」と語っているクーパー監督が、スプリングスティーンへの“愛と敬意”をにじませつつ、主演のジェレミー・アレン・ホワイトや、撮影監督のマサノブ・タカヤナギ(高柳雅暢)についても言及している。
詳細は、以下の通り。

これは典型的なミュージシャンの伝記映画ではありません。ブルースと僕は、当初から、静かで内省的な映画にしたいと思っていました。この作品はブルースが「ネブラスカ」をレコーディングした1981年の終わりから1982年という特定の期間に焦点を当てています。僕は「ネブラスカ」は彼にとって最もパーソナルなアルバムだと思っています。「ネブラスカ」は「ボーン・イン・ザ・U.S.A.」の基盤にもなった特別なアルバムです。だからブルースの人生を語るのではなく、ある時期の彼の“心の旅”に敬意を払いたかった。今のアメリカに、もっと正直かつ繊細に語られる有名人の姿を見る準備ができていることを願います。
「ブルースは曲や歌詞を通じてアメリカの物語を語ってきた。僕は同じことを、映画を通じてやってきたのではないか」と思いました。ブルースの歌は僕にとっていつも大きな意味を持っていて、特に「ネブラスカ」は別格です。過去の重荷、成功へのプレッシャーと葛藤しているこの男性に共感していただけるはずです。

初監督作「クレイジー・ハート」(2009)もミュージシャンについての映画でしたが、ジェフ・ブリッジスが演じた主人公は複数の人物を組み合わせた架空のキャラクターでした。でも、ブルース・スプリングスティーンはアメリカで最も重要かつ有名な人物です。
ブルースは、「自分についての真実は、必ずしも美しくなかったりする」と話してくれました。僕は「この映画を聖人伝にはしたくない」と強調しました。彼は自分の人生を誇りに思い、その欠点をよく理解し、自身で正そうと努力してきたのです。だからこそ、妥協することなく、彼の弱い部分をさらす映画を作ることを許してくれました。彼は正直に“真実”を見せたかったのです。現役のアーティストでそれをやりたがる人は、あまりいないと思います。ブルースとのコラボレーションは、僕が過去に経験したことがない体験でした。彼は最初から僕を彼の世界に招き入れてくれました。彼は偽物を求めていませんでした。この映画は、彼のマネをするのではなく、彼自身の人生を正直に解釈するものです。

ブルース・スプリングスティーンのように演奏し、歌えるようになるためにジェレミーは何カ月も全力を注いで練習を重ねてくれました。でも、ジェレミーにとって一番助けになったのは、ブルースの人柄、声、精神をとても繊細かつ深い形で知っていったことだったと思います。ブールスは世の中にひとりだけ。僕はそのモノマネを求めてはいません。ブルースが兼ね備える静かな存在感、歌う時に見せる燃え上がる炎を表現して欲しかった。ジェレミーにはブルースに通じる温かい人間味と彼と同じ威勢の良さもあります。この雰囲気は、最高の演技学校でも教えてくれません。もともと持ち合わせているかどうかです。
劇中では実際にすべてジェレミーが歌っています。ブルースの見分けがつかないと感じる時もあります。この映画は「とりつかれる」ことについての話であり、ブルースは子供時代のトラウマにとりつかれています。「ネブラスカ」はそこから生まれたのです。そして、ブルースの声にとりつかれているような要素を入れたいと考えました。ジェレミーが歌えることはわかっていました。僕が考えたのは、ブルース自身が、自分の声にとりつかれている歌唱シーンをどう映画に入れていくかということ。映画を全部見ていただければ、そういう瞬間が織り込まれていることがわかっていただけると思います。

長年の友達であり、役者として尊敬するジェレミー・ストロング(ジョン・ランダウ役)は、ジョニー・デップ主演の「ブラック・スキャンダル」(2015)に出てくれたのですが、完成作からカットされたのです。彼は「メディア王 華麗なる一族」のケンダル役で知られていますが、あの計算高い男とは正反対の、優しくてファニーで思いやりのある人を演じてもらいたいと思いました。彼は絶対にそれをうまくやってみせるとわかっていました。
実はスティーブン・グレアム(ダグ役)も、「ブラック・スキャンダル」に出てもらう予定だったのですが、スケジュールの関係で別の俳優がキャスティングされました。彼と組みたいとずっと願っていたスティーブンは、ブルースの父ダグと背格好も似ています。ブルースに「父親を演じる俳優には彼が良いと思います」と提案するとすぐ賛成してくれました。ブルースを語るのに、ふたりに参加してもらえたというのは、僕にとって最高のことでした。いつも凄い演技を披露してくれるふたりの演技を、ぜひ映画館で観ていただきたいです。

僕が作る映画は肉体的にとてもきついのですが、マサは決して文句を言いません。細かいところまでこだわる彼は、撮影監督として最高の目を持った素晴らしい語り手でもあります。カメラの位置決めから、どう動かしてどうストーリーを語るか、もはや僕の右腕です。素晴らしいアーティストであり、優れたプロ意識を持った人物で、僕たちはお互いをプッシュしあっています。
今回、1957年の幼少期を描くシーンでは、ブルースが「子供時代のことはモノクロで覚えている」と話していたことから、モノクロ写真の雰囲気を追求しました。「ネブラスカ」のライナーノーツもモノクロですし、劇中で紹介される「狩人の夜」(1955)からもインスピレーションを受けています。このモノクロ映像を、1982年のガレージロックの雰囲気と対比させたいと思いました。そのシーンではカメラが固定されておらず、1981年、1982年のニュージャージー、ニューヨークの荒っぽさがあり、モノクロのシーンは、ブルースの記憶なのです。
(C)2025 20th Century Studios
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